資料4

開発課題名「分子キラリティー顕微鏡の開発」

要素技術タイプ

開発実施期間 平成20年10月〜平成23年3月

チームリーダー :  河合 壯【奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科 教授】
中核機関 :  奈良先端科学技術大学院大学
参画機関 :  なし
T.開発の概要
局所領域の分子のキラリティーを検出、画像化する顕微蛍光計測技術を提供する。蛍光顕微鏡の特性を生かして細胞や生組織など光学的に不均質な試料についても高感度に分子のキラリティーを検出、可視化することでタンパク質の in vivo 構造解析など基礎理化学研究に画期的な計測手段を提供する。さらには診断、検査などの応用計測技術への展開を目指す。
U.事後評価における評価項目
(1)円偏光蛍光強度を高精度・高感度で計測可能とする
 通常のキラルな分子から放射される円偏光強度はg値で10-2以下となっている。本課題では、1×10-4程度の測定感度で、試料の劣化を抑制するために1秒以内でスペクトル計測可能な技術の開発を目標とした。電子計測系と制御用パソコンの通信、通信ボードの高速化により、1秒間で3nmごとに100波長、合計300nmの波長計測を達成した。また、蛍光放射光中の直線偏光成分のクロストークを補正し、g値は10-4程度とすることができた。
(2)検出器の改良により発光スペクトルと円偏光スペクトルの計測に対応
400nm〜700nmという可視域全体の波長領域に対応するため、検出系に回折格子型分光器を設置した。回折効率の偏光依存性解消のため、光弾性変調器を45度傾けて設置することで発光スペクトルと円偏光スペクトルのひずみを解消することに成功した。
(3)その他
  試料への励起光をレーザー光源からの直線偏光とすることで、空間分解能0.5μmとすることを可能とした。また、試料ステージ位置をxyzで高速制御し、円偏光発光性の3次元マッピングを可能とした。
V.評 価
分子から放射される光に含まれる左右円偏光成分の差を評価する円偏光発光計測法を、顕微鏡下で局所領域における分子キラリティー情報を得ることを目的とした要素技術開発である。開発は順調に進捗し、当初目的とした、円偏光蛍光を高精度かつ高感度で計測可能とする技術を完成した。本技術を用いて、高分子キラル化合物の円偏光計測などを従来よりも高い精度で計測でき、今までにないユニークな計測装置が実現できる可能性を実証している。また、装置化に向けてカギとなる新規希土類錯体の物質特許の出願、装置の基本特許のPCT出願を行っており、既にいくつかの装置メーカーとの話し合いも進んでいる。今後は、本要素技術の実用化に向けて具体的なユーザー層の発掘を行って本成果の有用性を示し、その積み重ねから本成果が製品化につながることを強く期待したい。本開発は当初の開発目標を達成し、それを上回る特筆すべき成果が得られたと評価する[S]。


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