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ナノテクノロジー・材料

ハードディスクを大容量化

トンネル磁気抵抗(TMR)

湯浅
湯浅 新治(産業技術総合研究所ナノスピントロニクス研究センター 研究センター長)
さきがけ
ナノと物性「超Gbit-MRAMのための単結晶TMR素子の開発」研究者(H14-18)
SORST
「MgO障壁TMR素子の高性能化と次世代MRAMへの応用」研究代表者(H18)
CREST
次世代エレクトロニクスデバイスの創出に資する革新材料・プロセス研究
「革新的プロセスによる金属/機能性酸化物複合デバイスの開発」研究代表者(H21-27)

HDD製造装置産業の市場独占を実現した驚異の発明!

近年、ハードディスクの容量は急速に増え続け、2012年には4TBのハードディスクが一般に販売されるようになった。2000年に販売していたハードディスクのなかで、最も容量が大きいものが75GBだったことを考えると、この12年間で約50倍以上容量が増えたことになる。

この飛躍的な進化には、湯浅新治氏らがさきがけで開発し、SORSTで発展させてきた「トンネル磁気抵抗(TMR)素子」が重要な役割を果たしている。この研究がなければ現在の大容量ハードディスクは実現できなかったと言っても、決して過言ではない。実際、市販ハードディスクの最大容量は、TMR素子が実用化された2007年付近を境に、急速に増加している。

市販ハードディスク 最大容量の変化
市販ハードディスク

ハードディスク大容量化の切り札、高感度磁気ヘッド

ハードディスクの大容量化で最も重要な技術の1つが、「磁気ヘッド」だ。ハードディスク本体の物理的な大きさを変えずに記憶容量を増やすためには、情報をより高密度に書き込み、その記録を高速に読み取る技術が必要不可欠なのである。「磁気抵抗効果※1」は、磁気ヘッドが記録を「読み取る」際に使用される物理現象だ。

磁気ヘッドの進化は磁気抵抗素子の進化といえる。新たな磁気抵抗効果を示す素子が開発されるごとに、ハードディスクの記憶容量の壁は、破られてきたのである。

ハードディスクの内部構造
内部構造

JSTの支援で飛躍的な進化を遂げるTMR効果

1988年にドイツのペーター・グリューンベルク、フランスのアルベルト・フェールらによって発見された巨大磁気抵抗効果によって、「磁気抵抗効果」は一躍注目を集めることとなる。そして1995年には、東北大学の宮崎照宣教授らの実験によって、室温で18%という、当時としてはきわめて大きい磁気抵抗(MR)比※2を記録し、研究は一気に活発化したのである。

世界中が凌ぎを削っていた2004年、湯浅氏らは、酸化マグネシウム(MgO)を使うことで、室温で230%という大きなMR比を達成し、TMR効果と名付けた。これは、それまでの値を遥かに超えるもので、大容量ハードディスクの将来を大きく変えた。事実、湯浅氏らの発表のわずか3年後の2007年に本技術が実用化され、2008年には世界出荷台数5.3億台の内98.4%のハードディスクで本技術が使用されている。

磁気ヘッドのデバイス/材料別ウェイト(2008年)
富士キメラ総研推定

総研推定
GIP-GMRはローエンド機種で僅かに残っているのみであり、今後はほぼ100%がTMRになる見込みである。

高性能不揮発メモリMRAMの基幹素子として期待

コンピューターの記憶媒体に利用されるのは、ハードディスクだけではない。USBメモリやSSDなどの名で知られるフラッシュメモリや、コンピューター内の一時的な記憶装置として利用されるDRAMなどの「半導体メモリ」がある。ハードディスクと同様に、世界的な開発競争が激しい。

この半導体メモリの次世代版として期待されているのが、磁気抵抗メモリ(MRAM)である。MRAMは、名前の由来の通り磁気抵抗効果を利用しており、内部にTMR素子が用いられている。MRAMはデータの読み書きが非常に早く、電源を供給しなくても記録を保持できること(不揮発性)が大きな魅力だ。将来的には、MRAMの利用によってコンピューターの待機電力を大幅に下げたり、フラッシュメモリの書き換え回数の限界を超える新メモリに発展すると期待されている。

湯浅氏らの開発した「巨大TMR素子」は、ハードディスクにもたらした以上の市場効果を今後もたらす可能性を秘めている。現在の技術に貢献するだけでなく、未来の新しい技術に対しても有効に利用できる研究、それがTMR効果の研究なのである。

世界最先端の単結晶TMR素子一貫製造施設
TMR素子一貫製造施設

※1 物質の電気抵抗が磁場中で変化する現象

※2 磁気抵抗効果を利用する素子で、磁場に依存して変化する最大抵抗値と最小抵抗値の比、(最大の抵抗値)/(最小の抵抗値)。

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