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ナノテクノロジー・材料

透明な酸化物の半導体IGZO-TFTが引き起こす

ディスプレイ革命

細野 秀雄(東京工業大学 応用セラミックス研究所 教授/元素戦略研究センター長)
ERATO
「細野透明電子活性プロジェクト」総括責任者(H11-16)
SORST
「透明酸化物のナノ構造を活用した機能開拓と応用展開」研究代表者(H16-22)
ACCEL
「エレクトライドの物質科学と応用展開」研究代表者(H25-30)

新たな地平を切り拓くのは革新的な材料である

現在、パソコンやテレビの多くは液晶となり、これらに使用されるTFT(薄膜トランジスター)パネルの世界市場は10兆円規模にも上るとされている。だが、これほどの大きな市場を支え、現在のTFT液晶に主に使用されている「アモルファスシリコン半導体」にはさまざまな問題がある。今後さらに高機能化していく技術に半導体の性能が追いつかないのだ。

そこで注目されたのが、細野秀雄教授がERATO、SORSTで開発した「透明アモルファス酸化物半導体(TAOS)」である。その物質の1つであり、細野教授のグループによるIn-Ga-Zn-O(インジウム・ガリウム・亜鉛からなる酸化物)を用いたTFT(以下、IGZO-TFT )の発明により、国内外の企業が実用化研究を加速させ、TFT液晶パネル開発は新たな世界へと進み始めたのである。

2011年5月には、これら一連の功績が認められ、Society for Information Display(SID)より「Jan Rajchman Prize」賞が贈られた。また2013年には、アモルファス半導体国際会議から「Mott Lecture Award」の栄誉が与えられた。「新たな地平を切り拓くのは、革新的な材料である」が持論の細野教授は、材料研究の重要性を世界に発信したのである。2016年、細野教授は「物質、材料、生産」分野で、「ナノ構造を活用した画期的な無機・電子機能物質・材料の創製」の業績を認められ、日本国際賞を受賞した。

次世代TFTパネルの半導体として世界が注目!

TAOSはこれまでのアモルファスシリコン半導体と比較して、さまざまな利点がある。まずこれまでの最大50倍と言われる「電子移動度(モビリティ)」の高さ。3Dや大画面が求められるこれからのテレビに、これまでのアモルファスシリコン半導体の電子移動度では処理しきれないのだ。また、さまざまなデバイスが発表されるなか、今後はフレキシブルなTFTの開発も重要な意味を持つようになってきた。その点においてもフレキシブルな基板上に作製が可能なTAOSは有効であると言える。さらには、室温で薄膜作製ができるため、これまで以上のコストダウンも実現可能なことや、消費電力も低減されることから、まさに夢の材質として、世界中の企業の注目を集めたのである。

自由に曲がる透明トランジスターの構成
図:自由に曲がる透明トランジスターの構成

TAOS発表から10年後にリベンジを果たす

「光は通すが電気は通さない」。1995年、細野教授が神戸で開催された第16回アモルファス半導体国際会議においてTAOSを発表するまでは、これがガラスに対する科学者たちの一般常識であった。いや、現実にはまったく興味すらなかったというべきだろう。その証拠に反応はほとんどゼロ、それだけならまだしも「ガラス屋の来るところじゃない」と揶揄する人もいたのだ。

しかし、細野教授は決して諦めなかった。1995年当時は、まだまだ液晶よりもブラウン管が主流であり、現在ほどのニーズが生まれるなど、誰も予測していなかったに違いない。その証拠に95年から8年間、TAOSに関する論文が引用されたのはわずか4回。うち2回は自らの引用といった具合である。しかし、時代の風は急激に変化する。フレキシブルエレクトロニクスのニーズが急速に高まったのである。2004年、細野教授らはTAOSの1つ、In-Ga-Zn-Oを活性層に使ったTFTをプラスチック基板上に作製し、これまでディスプレイの駆動に使われていたアモルファスシリコンの約20倍という高い移動度がえられることをNature誌に報告(結晶のIGZO-TFTも2003年にScience誌に発表)。この論文は、アモルファス酸化物半導体で高性能TFTができるということを初めて示したもので、世界中に大きなインパクトを与えた(引用回数は既に2,500回以上)。2005年、初めてTAOSを発表してから10年後、細野教授は同じ国際会議に基調講演者として招かれる。「This presentation is a kind of revenge.(このプレゼンテーションは一種のリベンジです)」細野教授がこの講演の最初に話した言葉に、10年間の思いすべてが詰まっていた。2013年の同国際会議では、この会議の創始者の1人でノーベル物理学賞者でもあるサー・ネヴィル・モット博士の名前を冠した「Mott Lecture Award」の栄誉が与えられた。細野教授のオリジナリティが、学術的にも技術的にも認められたといえる。

イラスト:プラスチックの基盤
プラスチックの基盤に薄膜作製が出来るため、指で簡単に曲げることが出来る

オリジナリティこそ研究の原点

材料研究は実用に繋がるまで、最低でも10年かかると言われている。ひと口に10年といっても、1つの材料を10年研究するということは、かなりの根気が必要だ。細野教授はこれまで、ガラス、鉄、コンクリートとありふれた素材で研究を続け、それぞれ大きな結果を残している。

ここまで材料研究で結果を残せたのは、細野教授の研究姿勢が最も影響しているだろう。大学院生時代や職を得た研究室でも、オリジナリティの高い研究でなければ認めてくれない環境があり、それが細野教授の原点となったのである。その際に、世界が認め、明らかにその人がいなかったら出来ない仕事がオリジナルな研究であり、「研究とは、人と違ったことをやる孤独な仕事なんだ」と強く思ったそうである。

2012年、IGZO-TFTで駆動する高精細ディスプレイが、新型タブレットPC や省エネ型スマートフォンへ搭載され、ようやく製品として世に出たのである。そして、2014年には大型有機ELテレビにも搭載された。

細野教授が始めた孤独な研究は、ついに大きな実を結ぼうとしている。新たな地平を切り拓くのは、革新的な材料と、孤独に決して負けない強い意志だったに違いない。

※TAOSの1つ。インジウムIn—ガリウムGa—亜鉛Zn—酸素Oを使ったTFTを頭文字をとってIGZO TFTと呼ぶ。

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