事業成果

移植後、早期に元の骨と一体化!

スポンジ状人工骨開発に成功2017年度更新

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HOYA Technosurgical株式会社/田中順三(東京工業大学 名誉教授)
CREST
分子複合系の構築と機能「無機ナノ結晶・高分子系の自己組織化と生体組織誘導材料の創出」研究代表者(H11-17)
独創的シーズ展開事業 委託開発
「生体置換型有機無機複合人工骨の製造技術」開発実施企業/代表研究者(H15-24)

自家骨以上の性能を持つ人工骨への強いニーズ

人間の体を支え、脳や内臓を保護している「骨」。その一部が病気や外傷等で大きく欠損した場合、補うためには患者自身の骨(自家骨)が移植されてきた。自家骨はその活性を保ったまま移植できるので、骨の再生に優れ、免疫や感染の問題がないという大きな長所がある。しかし、採取量に限界がある上、2ヵ所の手術が必要となる。採取部のトラブルが多いなど患者への負担も大きい。そこで考えだされたのが人工骨である。

現在使われているのは、1970年代に開発されたセラミックスを用いた人工骨だ。2009年時点で人工骨の使用割合は約40%である。なぜいまだに自家骨が使われているのか? 一番大きな理由は人工骨の骨再生が自家骨に及ばないことだった。日本では高齢者人口の増加に伴い骨折や骨腫瘍など骨移植を必要とする症例は増加し、自家骨と同等、あるいはそれ以上の性能を持つ人工骨のニーズは高まっている。そこで登場したのが独創的シーズ展開事業の委託開発制度を活用した田中順三教授らの研究成果をHOYA株式会社ニューセラミックス事業部(現:HOYA Technosurgical株式会社)が実用化した新発想の人工骨だ。

操作性や不十分な骨再生を克服する新人工骨の誕生!

これまでも、さまざまな素材を使って骨細胞に吸収置換され最終的に生きた骨に再生できる人工骨が開発されてきた。吸収置換性に優れたβ型リン酸三カルシウムを用いた人工骨は高い評価を得ているが、もろくて施術時の操作性が難しい、一部の症例で材料のみの吸収が先行して十分な骨再生が得られなかった、材料が残留し再生が遅れるなどの問題点も報告されている。これらの短所を克服するものとして登場したのが田中教授らの人工骨なのだ。

新人工骨の弾力性

画像:新人工骨の弾力性

これまでにない弾力性を持たせることで、手術時の取り扱いが簡単に

弾力のあるスポンジ状!メスでも切れて周囲の骨にもすぐなじむ

今回開発された人工骨は、コラーゲンにハイドロキシアパタイトの細い結晶を生きた骨と同じ4対1の割合で混合し繊維状にした「スポンジ状」のものだ。これは生体内で吸収されやすい上、コラーゲンとの複合繊維にしたことで、これまでの人工骨にはない弾力性が生まれた。これなら手術の際にもメスやハサミで簡単に加工できる。さらに、骨の欠損部分が複雑な形状でも、人工骨自身が変形するので、簡単かつ確実に該当部分を埋めることができる。

さて、このスポンジ状の人工骨は生体内でもうまく機能するのか。動物を使った有効性確認のための試験が始まった。ウサギの脚の脛骨内に直径5mmの欠損を作り、そこに直径5mm厚さ3mmの人工骨を移植して、12週まで経過を観察した。この結果、開発された人工骨は生体内の骨代謝のサイクルに取り込まれ、骨芽細胞による人工骨周辺とその内部での「骨の形成」と破骨細胞による「人工骨の吸収」が同時に起こって、最終的に自家骨に置換することが確認された。最終結果としては、術後24週で6割以上が完治し、残りもほぼ周囲の骨に同化するという結果が得られた。安全面でも特に問題は見つからなかった。

有効性確認試験の結果

画像:有効性確認試験の結果

左端の点線部分が補填された人工骨。時間の経過とともに吸収され、周辺の骨と一体化し、12週目には正常な骨に置き換わっている

人による実際の使用例

画像:人による実際の使用例

左小指の骨腫瘍の病変部(丸の部分)を手術で新しい人工骨に置き換えたところ、周囲の骨となじんで骨が再生し、腫瘍による骨の変形も軽減した。

再生医療での普及と市場の拡大に期待

臨床実験の途中で薬事法の改正などもあり、製品化するまでには10年もの年月がかかった。この人工骨は販売名「リフィット」として2012年6月に医療機器製造販売承認を取得し、2013年1月に保険適用を受けた。現在は一部の医療機関において手術での使用が始まっている。

既存品の短所を克服したこの人工骨は従来製品の代替となるだけではなく、再生医療など幅広い分野での利用が期待されている。現在、骨移植治療で使用されている人工骨の国内市場は100億円といわれているが、新しい人工骨が広く普及すればその使用率も拡大し、市場の成長が加速されそうだ。