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産学連携拠点

産学連携拠点

芸術と科学技術のイノベーション

失われる文化財を、クローン文化財が救う

山本/宮廻
山本 耕志(プロジェクトリーダー/(株)JVCケンウッド)(写真左)
宮廻 正明(研究リーダー/東京藝術大学)(写真右)
センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム
「『感動』を創造する芸術と科学技術による共感覚イノベーション拠点」(H25-33)

バーミヤンの東大仏天井壁画をよみがえらせる

文化財は、時として失われてしまう。火事などの事故だけでなく、人為的に破壊されてしまうこともある。一度失われた文化財が、元の姿を取り戻すのはとても難しい。

東西文明の十字路として栄えたアフガニスタンでは、長く続く戦火により貴重な文化遺産が次々に破壊され、略奪されてきた。2001年3月には、アフガニスタン中央部にあるバーミヤンで、東西2つの大仏が無残に爆破されてしまった。

センター・オブ・イノベーション(COI)プログラムは、潜在している将来社会のニーズから導き出されるべき社会の姿、暮らしの在り方を見据えたビジョンに基づき、企業だけでは実現できない革新的なイノベーションを創出するため、大規模産学連携拠点(COI拠点)を形成し、研究開発に取り組む公募型研究開発プログラムだ。東京藝術大学(COI拠点)は、株式会社JVCケンウッドと連携し、「『感動』を創造する芸術と科学技術による共感覚イノベーション拠点」として採択された。そして最新の科学技術と独自の修復技術とを融合させ、大仏とともに失われた天井壁画をよみがえらせることに成功したのである。

クローン文化財として「芸術のDNA」も復元する

東京藝術大学は、模写技術で世界屈指の実力を持つ。そこに最新のデジタル撮影技術や2次元、3次元の印刷技術を融合させることで、文化財を高精度・同質感で再現する特許技術を生み出した。この新しい技術で作った模写作品は、物理的に高精度かつ同素材同質感であるのみならず、技法、素材、文化的背景など、「芸術のDNA」に至るまでも復元したもので、「クローン文化財」と名付けられた。最大の特長は、流出・破損・消失などにより、すでに喪失してしまった美術品も復元可能な点だ。

研究リーダーである宮廻正明教授は、完全に破壊されて復元は不可能と考えられたバーミヤンの東大仏天井壁画の姿をよみがえらせることに挑戦しようと決めた。流出または消失した世界中の文化財を、「もの」としてだけでなく精神性や意図までも再現すれば、文化財の破壊を無力化し、文化の共有を実現することが可能になると考えたからだ。

  • 破壊前のバーミヤン東大仏
    破壊前のバーミヤン東大仏「提供:JSTnews」
  • 破壊前の天井壁画
    破壊前の天井壁画「提供:JSTnews」

デジタル技術と手作業の保存修復技術の融合

壁画複製特許技術で復元する天井壁画は、縦7 m横6 mを超えるアーチ状の岩窟に描かれていた。基礎資料にしたのは、1970年代に京都大学中央アジア学術調査隊が撮影した膨大な写真で、宮廻教授らはまず、1万5,000点近くの写真から、天井壁画が写っている約150点のカラー写真を選んだ。復元に必要な解像度が得られなかった場所は、壁画の間近から分割撮影された写真をつなぎ合わせることにしたが、天井壁画はアーチ状の岩窟に描かれているので、平面写真をつなぐだけでは再現できない。そこで、爆破後にドイツの調査団が大仏の岩窟を計測した3次元データから、写真のゆがみを補正しながら壁画の展開図を作成した。

次に、その展開図を60%に縮小してプリントし、カラー写真や壁画片などを参考にしながら、手描きでプリントの色を補正した。大きな剥落がある部分や、鮮明な写真が存在しない部分は、過去の資料を参考に想定できる範囲で補った。こうして仕上げた壁画の展開図のデジタルデータを基に、ほぼ原寸大の天井壁画の制作に入ったのだ。軽い材料で岩窟壁面の土台を作り、ドイツ調査団の3次元データを参考にして岩壁の微妙な凹凸まで精密に再現し、石粉粘土などを塗って岩肌の質感を整える。壁画をプリントする和紙にも石粉粘土を薄く塗り、そこにインクジェットで復元画像を印刷して土台に貼り付け、さらに日本画や洋画の保存修復技術を駆使して、手作業で彩色を施していった。

2016年4月、クローン文化財として復元した天井壁画を東京藝術大学大学美術館陳列館で展示したところ、来日したアフガニスタン政府代表団が「こここそが、われわれの故国だ」と喜んだという。

また2016年5月、G7伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)のサイドイベントにおいても展示され、文化財をテロリストから守るメッセージとともに、日本の文化財保護の高度な修復技術をアピールするのに一役買ったのである。

バーミヤン東大仏天井壁画
バーミヤン東大仏天井壁画「天翔る太陽神」の復元工程 「提供:JSTnews」

芸術と科学技術によるイノベーションを起こす

東京藝術大学COI拠点は、バーミヤン東大仏天井壁画の他にも、1949年に火災で焼損した法隆寺の金堂壁画の復元にも取り組んだ。焼損前に撮影されたガラス乾板やコロタイプ印刷、画家による模写など、多くの資料をデジタル技術によって統合した上で、壁画複製特許技術を用いて焼損前の姿を原寸大での復元に成功した。

また、「クローン文化財」だけでなく、「文化を育む」「心を育む」「絆を育む」を柱に、共感覚メディア研究やロボット・パフォーミングアーツ研究、障がいと表現研究、文化外交とアートビジネスなど、芸術と科学技術によるイノベーションを起こすべく多様なテーマに取り組んでいる。

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