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グリーンイノベーション

大気中に浮遊する微小な物質の複合分析装置を開発

PM2.5の実態解明に貢献!

画像:竹川 暢之
竹川 暢之(首都大学東京 大学院理工学研究科 分子物質化学専攻 教授)
先端計測分析技術・機器開発プログラム
機器開発タイプ「実時間型エアロゾル多成分複合分析計の開発」チームリーダー(H20-24)

小ささゆえに健康や気候へ重大な影響を引き起こし観測すらままならない

大気汚染の原因物質として注目されているPM2.5。直径2.5マイクロメートル以下の極めて小さな粒子状物質(エアロゾル粒子)の総称で、その小ささゆえに、気管支や肺に沈着しやすく、呼吸器疾患の要因になると考えられている。また、太陽光を散乱させ、雲生成の核となることによる気候変動への影響や、放射性物質の運び役になることも懸念されている。PM2.5を構成する化学物質は多種多様で、その実態を解明するために必要とされる分析法が確立していないのが現状である。

そのような複雑なPM2.5粒子を効率的に捕集し、分析する「エアロゾル複合分析計」が開発された。チームリーダーを務めたのは、竹川暢之教授(開発当時は東京大学先端科学技術研究センター准教授)だ。

典型的なエアロゾル粒径分布(質量濃度)
図:典型的なエアロゾル粒径分布(質量濃度)

小ささだけでなく「変わりやすさ」も研究の障害に

エアロゾルの研究を始めた頃、その小ささとともに竹川教授の頭を悩ませたのは、エアロゾルの「変わりやすさ」だった。工場や自動車などの排気に含まれる気体成分は、化学反応によって硝酸塩、硫酸塩、有機物の粒子に変化する。エアロゾルの多くはこうした二次粒子なのだ。化学反応の進み方は、気象条件などによって刻一刻と変化する。このため、エアロゾルの実態を把握するには、化学組成をリアルタイムで計測することが必要だ。しかし、大気中のエアロゾル粒子の濃度は非常に小さく、特殊な捕集・分析法が必要となる。米国製のリアルタイム分析機器を使ってみたが、粒子を捕集する効率に大きな問題があった。

そこで、竹川教授は、自分の手で観測装置をつくろうと決意する。先端科学技術研究センターと組織連携していた富士電機株式会社と、独自の測定技術を持つ海洋研究開発機構とチームを組み、先端計測分析技術・機器開発プログラムに採択されて、開発がスタートした。

立体的な格子の「粒子トラップ」でリアルタイム分析が可能に

小さなエアロゾルをもれなく速やかに捕まえる。最大の課題の解決法として、竹川教授たちが試行錯誤の末にたどり着いたのは、「粒子トラップ」だった。

従来の方法では、粒子を加熱した板にぶつけて気化し分析していた。しかし、実際には跳ね返って気化しない粒子も多い。とりこぼしをなくすためのトラップとして考えたのが「格子」だ。ブラインドで日を遮るように、粒子ビームに対して斜めに格子を置く。それも1枚ではなく5枚。富士電機の加工技術によって実現した微細で規則正しい立体的な格子は、粒子をほぼ100%の効率で捉えることに成功。こうして、エアロゾルをもれなく速やかに集めることが可能になった。

そして、硫酸塩や硝酸塩などの化学組成を定量する「質量分析(MS)」のほか、生物粒子や土壌粒子を判別する「レーザー誘起蛍光検出(LIF)」、ディーゼルエンジンなどに由来する粒子を見分ける「レーザー誘起白熱光検出(LII)」などの機器も備えた、エアロゾル複合分析計が完成。各要素技術を効果的に組み合わせることで、単独では成し得ない新しい分析が可能になったのだ。

質量分析部の粒子トラップ
図:質量分析部の粒子トラップ

新しい複合分析技術を国と国との間でも

完成したエアロゾル複合分析計は、さっそく試験観測に使われ、PM2.5構成成分の濃度変化をリアルタイムで追跡することが可能となった。そこで、微小粒子の成分を測定することの重要性が改めて確認された。例えば、PM2.5の濃度が極端に上がり、視界不良が起こったとしても、原因は有害物質ではなく、砂塵などの自然現象である可能性もある。これまで、そのリアルタイムの特定は困難だったが、複合分析によって把握できるようになった。こうして観測データが積み上がり、研究が進むことで、確かな環境基準を設定し、国民の安全・安心を守ることにつながると期待できる。

そのためにも、より広域での観測が必要だ。エアロゾルは国境をもたやすく越えて広がる。その挙動を正確にとらえるには、日本国内にとどらまず、世界各国で観測を行う必要がある。今回のエアロゾル複合分析計は、川崎市などの実証試験を経て、富士電機が2015年に製品化した。今後、世界各国での観測データの積み上げが期待される。

エアロゾルは大気汚染のみならず、地球規模の気候変動にも関わっていると考えられる。広域大気汚染と気候変動の両方を見据えた国際戦略が求められている。

画像:製品化したエアロゾル複合分析計
製品化したエアロゾル複合分析計
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