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環境エネルギー

電気自動車の走行距離を飛躍的に伸ばす

画期的なリチウム空気電池用電極材料の開発

画像:陳 明偉
陳 明偉(東北大学原子分子材料科学高等研究機構教授)
CREST
「エネルギー高効率利用のための相界面科学」領域
「界面科学に基づく次世代エネルギーへのナノポーラス複合材料開発」(H28-31)

リチウムイオン電池ではなく「リチウム空気電池」

二酸化炭素の排出を減らす有力な解決策として、電気自動車の高性能化が考えられている。しかし、現状では1回での走行距離が200 kmほどしかなく、長距離走行が難しいこともあり、普及への弾みがつかない。課題は、いかにバッテリーの電気容量(貯められる総電力量)を大容量化するかだ。

近年、注目されている技術に「リチウム空気電池」がある。この電池は、現在主流のリチウムイオン電池の5〜8倍の容量を実現できると考えられており、世界で開発競争が繰り広げられている。

JSTの戦略的創造研究推進事業(CREST)は国が定める戦略目標の達成に向けて課題達成型基礎研究を推進し、科学技術イノベーションを生み出す革新的技術シーズを創出するためのチーム型研究である。その「エネルギー高効率利用のための相界面科学」領域の研究課題の一つ「界面科学に基づく次世代エネルギーへのナノポーラス複合材料開発」において、陳明偉教授らがリチウム空気電池の研究開発に取り組んでいる。

そして研究推進事業で、画期的なリチウム空気電池につながる基幹材料の開発に成功した。

  • リチウムイオン電池
    リチウムイオン電池
  • リチウム空気電池
    リチウム空気電池

ナノ多孔体に着目

リチウム空気電池は、リチウム金属を負極、空気を正極として、固体、液体、気体の三相の相界面で電子のやり取りすることで、充放電を行う。負極で発生させたリチウムイオンを正極で酸素と反応させて過酸化リチウムを生成させることで放電し、逆に、その正極の過酸化リチウムをリチウムイオンと酸素に分解した上で負極に戻すことで充電する。金のナノ多孔体を電極に用いた論文が2012年に発表されたことから、大きな注目を浴びた。しかし、金は高価であり、重く、また資源量に制限がある点からもさらなる工夫が必要であると考えた。

グラフェンを折り曲げて3次元化

国内外で開発競争が繰り広げられるようになった中、陳教授らは、新たなチャレンジとして、グラフェンを3 次元化すること、つまりナノ多孔質グラフェンを作りだした。もともとのグラフェンは炭素が結合したシートで、1 枚の紙のような形状をしている。この2 次元のグラフェンを3 次元にまとめれば、スペースをあまり使わずに表面積を広くとれる。紙を折り曲げて丸めると、表面積は変わらないのに小さくなるのと同じだ。陳教授らが工夫をしたのは、グラフェンを層状に積み重ねたのではなく、紙を折り曲げて丸めたような構造体にして3次元化したことだ。無数の100〜300ナノメートルの微細な孔が生まれる。そのグラフェン部分に電子が流れ、孔の内部を空気、リチウムイオンが自由に動けるとともに、その孔に生成物である過酸化リチウムを貯蔵できる。これを用いると、市販のリチウムイオン電池の30倍以上の電気容量を達成できたが、残念ながら、化学反応が進み難いために充電時に過剰な電圧をかける必要があった。そのため、エネルギー利用効率(充電するときに必要な電気エネルギーに対して放電するときに取り出せる電気エネルギーの割合)が50%程度と悪く、実用化を阻んだのである。

その後、さらに様々な試験を繰り返した結果、グラフェンに窒素やルテニウムという物質を少し加えた材料に到達した。これは、炭素原子の一部が窒素原子に入れ替わったグラフェンで、酸化ルテニウム(RuO2)のナノ粒子を挟んだ「窒素ドープナノ多孔質グラフェン」という形になっている。、これを正極に用いると、電極単位重量あたり最大8300 mAhの大きな充電容量を持つとともに、この物質に化学反応を加速する触媒効果があることから、充電スピードも速くなり、72%を超えるエネルギー利用効率も示され、また100回以上の繰り返しての充放電ができ、実用化への大きな一歩を踏み出すことができた

次元ナノ多孔質グラフェン表面の模式図
3次元ナノ多孔質グラフェン表面の模式図
炭素の一部が窒素に置き換わっている。そのグラフェンに挟まれた酸化ルテニウムによって反応が加速される。
次元ナノ多孔質グラフェン表面の模式図
酸化ルテニウムRuO2ナノ粒子を挟んだナノ多孔質グラフェン電極の電子顕微鏡写真
 (a)では、黒い塊の酸化ルテニウムがグラフェンシートに挟まれている様子が見える。少し倍率を下げた(b)は充電前。グラフェンの間の隙間が広い。この電極を用いて充電した後には、(c)のように隙間に過酸化リチウムが貯蔵され孔が小さくなっている。充放電では、この(b)と(c)の状態を繰り返す。

実用をめざして、さらなる技術の開発へ

今後、陳教授らは実用化を目指して、企業などと更に研究を進めていく予定だ。実用サイズの大型化も課題の一つとなっている。また、少量とはいえ、ルテニウムを使用することでコストが割高になるため、高性能でコストの低い触媒の開発や、大きな電気容量と低い過電圧が同時に実現できる技術の開発を目指している

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