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  3. 多様化する嗜癖・嗜虐行動からの回復を支援するネットワークの構築
写真:石塚 伸一

石塚 伸一龍谷大学
法学部 教授

アディクションからの回復を支える
”えんたく”の開発

多様なアディクション(嗜癖・嗜虐行動)の背景には孤立があります。
当事者の主体性を尊重し、支援者と協力者が力をあわせる“えんたく”という回復支援スキームを開発して問題状況にアプローチしました。

概要

薬物やアルコールへの依存、配偶者等への日常化した暴力(DV)や幼児・児童・高齢者等への虐待、ストーカーや痴漢等の性問題行動、病的なギャンブリング、クレプトマニア(窃盗癖)や摂食障害、インターネットや携帯電話への依存といったアディクション(嗜癖(しへき)・嗜虐(しぎゃく)行動)の背景には、”孤立”があります。このような現代的問題に対応するためには、「公」と「私」の壁を超えた総合的支援が不可欠です。わたしたちは、「公」と「私」の間の新たな公共圏として「ゆるやかなネットワーク」を「アディクション・トランス・アドヴォカシー・ネットワーク(ATA-net)」と名付けました。そして、課題共有型“えんたく”というスキームを活用して問題状況にアプローチします。

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研究開発の成果

物質依存、暴力行動、性問題行動、ギャンブリング、クレプトマニア・摂食障害およびインターネット・携帯電話の6つの対象への依存について、多様な調査研究を実施しました。調査研究と“えんたく”の実験を通じて得られた成果を「治療的司法(Therapeutic Justice)」(司法を当事者の回復という視点から捉え返す試み)、「デジスタンス(desistance)」(当事者がアディクションという“つまずき”から、みずからの力で”立ち直る”ことを支援する取り組み)および「ハーム・リダクション(harm reduction)」(個人と地域社会への有害性の最小化という基準から政策を見直す政策設計の技法)という3つの理論研究に基づき、誰もが活用できるようにしたいと考えています。わたしたちは、当事者の主体性を尊重し、支援者と協力者が、それぞれの立場から、力を合わせる課題共有型“えんたく”という回復支援スキームを社会に定着させることによって実現します。

研究開発のアピールポイント

領域の壁を超えた回復支援のネットワーク

アルコール・覚せい剤等の物質依存については、司法と医療の介入の歴史があり、その他についても官民による支援の萌芽が見られます。しかし、それぞれの取り組みは独自に展開してきたこともあり、アディクション支援相互の連携や協力の体制が整っていません。このような問題を克服するためには、アディクションの原因やメカニズムについて正確な知識をもち、当事者や家族の回復を適切に支援する支援者が増え、互いに協力しあう必要があります。そこで、ATA-netは、公と私の壁、アディクション相互の障壁を超えて、ステークホルダーが協働する支援者のネットワークの構築に努めました。

支援者のネットワークとしての課題共有型“えんたく”

支援者のネットワークの必要性にかんがみ、「多様な嗜癖・嗜虐行動からの回復を支援するためのネットワーク(Addiction Trans-Advocacy Network:ATA-net)の構築」と「円卓会議」モデル(”えんたく”)を広く普及させることを目指しています。
わたしたちが提案する“えんたく”は、これまでアディクション問題に取り組んできた経験から生まれた問題や課題を共有するための実践モデルです。わたしたちは、アディクションを“孤立”がもたらす“病”であると考えています。回復のためには、当事者と地域社会の関係性を総体として、修復・構築していく必要があります。ATA-netは、当事者を中心に、公的セクター(警察、検察庁、裁判所、矯正・保護施設、医療機関、福祉施設、自治体等)と私的アクター(家族、隣人、地域社会、民間支援団体等)が、組織や問題の枠を超えて「つながる(縁)」ゆるやかな「プラットホーム(卓)」です。

回復支援の未来予想図

全国のアディクションに苦しむ多くの当事者とその家族、回復支援や政策形成に取り組む公私の団体や個人がATA-netに相談を持ち込み、コーディネーター(組織支援者)の指導に従って各地に“えんたく”を派遣し、ファシリテーター(運営指導者)の調整に基づいて、ステークホルダーを召集し、総合的に支援するという関係を創り出すことができます。
このような、アディクションをめぐる新たな公共圏が創出されれば、当事者や家族、特定の個人や組織が問題を抱え込んで孤立するという現状が大きく改善されます。
ATA-netの構想と“えんたく”モデルのスキームは、「発見・介入しづらい空間・関係性における危害を低減し、犯罪や事故を予防する」ことをめざす「新たな手法」です。将来、現代日本の”孤立”がもたらす多様な問題群の解決の糸口となり、人々の安全な暮らしの実現に寄与します。

成果の活用場面

アディクションに関連する問題を抱える当事者または家族等は、ATA-netのワンストップ相談に連絡し、トレーニングを受けたコーディネーターに相談します。その後、当事者を中心とする問題解決型“えんたくA”のミーティング等を開催し、回復支援計画を立案します。環境調整が必要な場合には地域社会の利害関係者が集まる課題共有型“えんたくB”を開催します。地域レベルでの課題共有では問題解決が困難である場合には、国または地方政府の政策決定者を巻き込んだ政策決定のための“えんたくC”を開催し、具体的政策課題を共有し、問題解決への方策を模索します。この時点で、もし、必要があれば立法・条例・実施計画を含む政策を提案します。

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成果の担い手・受益者の声

担い手
わたしたちの提案する“えんたく”は、課題共有型の議論のスタイルです。目的は、問題の解決ではありません。主張ではなく、事実を分かち合うことが大切です。参加者全員でアディクションという問題状況を共有し、分かち合った課題を持ち帰って、それぞれの現場で活かしてほしいと思います(ATA-netメンバー・大学教授)
“えんたく”のプチ・ミラクル(小さな奇跡)を体験し…たくさんの刺激を受けました(支援者)
受益者
“えんたく”センターテーブルメンバーがサポーターだったらどんなに心強いだろう(当事者A)
アディクションに精通している専門家のみなさんから、たくさん意見をいただきました。感謝の気持ちで一杯です。(当事者B)

目指す社会の姿/今後の課題

ATA-netのブランド化と研究開発成果の社会実装によって、「地域社会の安全と安心のための公/私連携」に貢献します。
今後、アディクション回復支援者たちのゆるやかな全国規模のネットワーク、「全国ATA協会(仮称)」を立上げます。“つまずき”からの”立ち直り”支援を求めている当事者とその家族等からのワンストップ相談の拠点を形成し、地方および中央の政府や公私の団体からの回復支援事業のコンサルティング受入れ組織としての地位を獲得することを目指します。
『再犯の防止等の推進に関する法律(再犯防止推進法)』(平成28年法律第104号)の成立によって、各自治体では「再犯防止条例」の制定およびその実施計画の策定が課題となっており、ATA-netの支援によって、再犯の防止や地域社会の安全・安心にも寄与することが十分期待できます。
しかし、残念なことですが、日本には、アディクトに対する偏見や差別があり、それが“立ち直り”を妨げているという現実があります。ATA-netは、広く市民の理解を得て、アディクションに対する偏見と差別を解消することを目的とする立法制定の活動を進めて行きます。

研究開発の関与者

  • 龍谷大学 社会科学研究所/ATA-net研究センター/犯罪学研究センター/矯正・保護総合センター
  • 立命館大学 人間科学研究所
  • 成城大学 治療的司法研究センター
  • 大阪大学
  • 千葉大学
  • 立正大学
  • NPO法人日本ダルク
  • 一般社団法人もふもふネット
  • 認定NPO法人リカバリーサポート・ネットワーク

内容に関する問い合わせ先

龍谷大学 法学部 石塚伸一研究室 ATA-net事務局
[連絡先]info[at]ata-net.jp ※[at]は@に置き換えてください。
〒612−8577 京都市伏見区深草塚本町67 龍谷大学 法学部 石塚伸一研究室
TEL:075-645-8646

事業に関する問い合わせ先

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)
[連絡先] pp-info[at]jst.go.jp ※[at]は@に置き換えてください。