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  3. 都市における援助希求の多様性に対応する公私連携ケアモデルの研究開発
写真:島薗 進

島薗 進 上智大学
グリーフケア研究所 所長

援助希求を拾い上げる「集いの場」モデル

川崎市をフィールドに、公的支援の見える化、地域資源の実態把握等の調査研究を行いました。その結果を踏まえ、地域の潜在的機能を活かした「集いの場」を提案しました。

概要

都市型コミュニティでは住民の孤立化が進み、公的機関が市民の援助希求を把握して介入・支援することが難しくなってきています。市民の安全な暮らしをつくるには、生活課題が複雑化する前に、「公」と「私」の領域の間をまたぐ総合的な対応を行うことが重要です。
本プロジェクトでは、平成27年度から全市民を対象とする地域包括ケアシステムの構築に取り組んでいる神奈川県川崎市をフィールドに、「公」的支援を俯瞰、モデル化し、その適正化を働きかけました。さらに、「私」領域に存在するNPOなどの支援集団の実態把握、潜在的機能の抽出を行い、多様な援助希求に対応する「集いの場」の生成を図りました。「公」「私」双方の機能強化の方策を示すとともに、相互の連携の拡充を目指した働きかけを行いました。

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研究開発の成果

川崎市と上智大学が連携協定を結び、公領域と私領域を対象とする6の研究グループが研究開発を進めました。生活課題を持つ人の個人情報を公的機関と地域の支援者が共有することにはハードルがありますが、人々が気軽に集い、交流できる集いの場は、生活課題を持つ人の早期発見や危機介入につながるだけでなく、支援者同士の連携促進に有効であることが具体的にわかりました。そこで、研究者・行政・支援機関が連携して、川崎区にフォーカスを当てた社会実装のためのミーティングを実施し、支援機関同士や潜在的地域資源との連携のモデル構築を進めました。

研究開発のアピールポイント

公的支援の可視化・構造化・効率化

公領域では、川崎市と協働しながら、対人支援業務の可視化、構造化、効率化の必要性、個別支援と地域支援のつながりの促進等の必要性を共有し研究開発を進めました。具体的には、GIS(地理情報システム)による統計情報の可視化プラットフォームと、それを利用した地域特性の可視化のシステムを開発しました。児童虐待事例について現場担当者の経験知に基づく「みまもりロジック」とアセスメントツールを開発しました。精神科救急としてクライシスコールが認知された市民の地域支援のための統一フォーマットを開発しました。

市民意識調査を通じたソーシャル・キャピタルの分析

川崎市の協力を得て、川崎市民に質問紙調査を行い、市内のソーシャル・キャピタル(信頼・互酬性・ネットワーク)を測定しました。個人や地域のソーシャル・キャピタルが、健康・幸福度・外国人に対する寛容等を高めること、水平的ネットワーク(年齢・性別・所属に制約されない場)への参加により健康・幸福度を高めることが明らかになりました。

地域資源の実態把握と潜在的機能の抽出

私領域では、川崎市内の自治会、町内会、社会福祉法人、寺社・教会等の地域の社会資源に関する実態調査を行い、その結果も踏まえて、既存の社会資源が地域住民を包摂する「集いの場」として機能する可能性について社会実験等を行いながら検討しました。また、ケア人材の向上ワークショップ等を実施しました。水平的ネットワークを基盤とした「集いの場」は、援助希求を持つ人の早期発見や危機介入につながるだけでなく、支援者同士の連携促進にも有効であること等が明らかになりました。

成果の活用場面

生活課題を抱えた人は、メンタルヘルスや家族の抱える問題等、制度の領域(高齢・障害・貧困・その他)に横断する複合的要素によって支援機関が介入しづらい事例があるだけでなく、そもそも援助希求を発することができない/しない状況に置かれた人もいます。そこで、私領域の「集いの場」が援助希求の早期発見に重要になります。以下の条件を備えた空間やネットワークとして「集いの場」を形成するべく、川崎区での支援機関同士や潜在的地域資源との連携のモデル構築を進めます。
①安心・安全な場〈無条件の承認〉
②あげた声が支援につながる場〈専門機関との連携〉
③支援の受け手・支え手に二分されない関係性〈役割の付与〉
④地域に開かれ、社会と接続していることへの実感〈地域との共生〉

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成果の担い手・受益者の声

担い手
地域の支え合いを担う新しい集いの場を、地域の神社や寺院、研究者、行政などと一緒になって増やしていくことができれば、これまでつながることが難しかった人々にもアプローチできる可能性があります(福祉施設職員)
受益者
地域の寺院や神社、教会などと協力できたら…と考えたことはありましたが、どのようにしてアプローチしていいか分からなかった。研究者などの外部の人がそこを仲立ちし、助けてくれるのであればありがたい(福祉施設職員)

目指す社会の姿/今後の課題

川崎市の地域包括ケアシステムは、全市民を対象として、高齢者も障害者も誰もが同じ地域で生き、共に支え合いながら、安心して住み続けることができる地域をつくっていくことを目指しています。そうした社会の実現のためにも、支援者、地域の神社・寺院・教会、自治会・町内会、行政など、地域の支え合いを担う人々の横のつながりを広げることが必要です。
そのためには、信頼関係を前提とするインフォーマルな場を紡ぎ、横のつながりの壁となっている、情報共有の課題を具体的に検討する必要があります。
困難を抱えている人、「助けて」が言えない人に気づけるようなネットワーク(人と人とのつながり)を広げ、安心安全の社会を実現できるよう、今後も研究開発を続けてまいります。

研究開発の関与者

  • 東京大学 大学院医学系研究科
  • 東京大学 大学院工学系研究科
  • 東京大学 大学院人文社会系研究科
  • 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
  • 大正大学 地域構想研究所
  • 川崎市

内容に関する問い合わせ先

上智大学グリーフケア研究所
griefcare[at]sophia.ac.jp ※[at]は@に置き換えてください。

事業に関する問い合わせ先

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)
[連絡先] pp-info[at]jst.go.jp ※[at]は@に置き換えてください。