JSTトップトピックス詳細記事

最新情報

トピックス

JST Partners

人々の生活や社会の発展を支え、未来を拓く鍵ともなる科学技術。
JSTは、日本の科学技術と社会、地球の未来を見据え、国際社会と協調しながら、長期的な広い視野を持って科学技術の振興を進めている。その事業は多岐にわたり、その制度設計から実施に至るまで多くの方々と協働している。JSTと志を同じくして国民の幸福や豊かさの実現に向けた科学技術を推進する人の思いと、それをサポートするJST職員。
今回はJST「さきがけ」1)で研究総括 西川伸一氏(理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 副センター長、幹細胞研究グループ・グループディレクター)をサポートするJST研究推進部 岡野陽介に西川氏の魅力やJSTの果たす役割について聞いた。

西川氏インタビューはこちら>>

JST Partners 研究推進部 岡野陽介_1

西川氏は親分肌

「西川先生には“魂”があると感じます。」
西川氏の印象としての岡野の第一声はこうだった。西川氏が研究総括を務める「さきがけ」は、個人向けの研究支援であるから、比較的若手が対象になることが多い。まだ大型研究として花開く前の有望な研究を支援するためだ。採択者の平均年齢は36.7歳(2009年度)。若手の中には、まずは小さな成果でも発表して功を焦る気持ちになる研究者もいる。そんなとき西川氏は小さくまとまらないよう研究者に「幹になる研究を」とアドバイスするのだ。

西川氏は面倒見もいい。例えばこんなこともあった。2010年4月、「さきがけ」のiPS細胞と生命機能の領域では領域会議を開催した。その直前にアイスランドの火山が噴火し欧州の空港が閉鎖され、出張中だった西川氏は予定していた帰国便に搭乗できずに遅れての参加となった2)。領域会議といえば研究者が研究の進捗を報告し、今後の方向性を議論する大切な場だ。西川氏は聞くことができなかった前半の発表分を後日改めて聞き、研究者と議論の場を持ったという。

研究総括選びが「さきがけ」の要部分

「さきがけ」の研究総括は、どのようにして選ばれるのだろう。
JSTでは国(文部科学省)が定めた戦略目標に沿って研究領域を定め、その周辺分野を含めた専門家や有識者にインタビュー調査を行う。その人数は優に数十人にもなる。聞き取り調査では、対象となる分野での功績はもちろんのこと、若手が集まりやすい「さきがけ」だからこそ、指導にも力を注ぐ人柄かどうかも見極める。
岡野は言う。「研究総括を選ぶのは「さきがけ」担当チームにとって重要な仕事です。多くの識者へのインタビュー調査は特に大事ですし、この作業を通じて自身の見聞も広げることができます。これはJST職員の特権ですね。もちろん自分も勉強しなければなりませんが」

研究者の立場に立つ支援を

JST Partners 研究推進部 岡野陽介_2

ひとつの「さきがけ」研究領域には、領域の掲げる大きな目標に志を共にした約30名の多様な研究者が集結する。このような研究領域を運営するために、JSTは研究総括のもとへ、JST職員に加え、研究推進の調整や特許などのプロフェッショナル(技術参事)と経理や事務などのプロフェッショナル(事務参事)を配置する。研究領域は研究総括を始めとするこれら4名の“四人五脚”で運営される。そのためにきめの細かいサポートを行うことができる。「私は、四人五脚の足がもつれないようにペースメーカーとして頑張っています!(たぶん)」

さて、その「さきがけ」の運営と言ってもそれは多岐にわたるが、特にJST職員が行う業務を紹介する。まず、重要なことは、研究領域に集結する研究者の公募に関連するものである。2009年度は募集した13研究領域で産官学各界の研究者から1,680件もの応募があった。公募期間は締め切り間際まで応募者の質問対応などに追われ、その後、研究総括や領域アドバイザーらによる選考が行われる。選考前後、JST職員は公正さを保つことに徹し、選考にあたっての資料整備や採択されなかった応募者には不採択の理由を通知するなどその作業量は膨大だ。

また、研究が始まれば領域の運営に心を配るのもJST職員の仕事となる。研究者の研究環境を確保するための対応、研究者の異動に伴う契約変更の手続きや研究総括らとのサイトビジットの調整、文部科学省との連携、成果のプレス発表を一緒に作ることや、研究の進捗に合わせた予算の増減も相談にのる。前述の領域会議や研究報告会の運営サポート、研究評価のとりまとめなども担当する。時には女性研究者の産休・育休の相談も受ける。
「さきがけの制度では女性研究者のライフイベントにも柔軟に対応し、研究者の立場に立った支援をと考えています」
「さきがけ」は男女共同参画にも積極的に取り組んでいる制度である3)。研究者もライフワークバランスを考慮して社会で活躍できるよう配慮したいという岡野は共働きの新婚。もともとライフサイエンス分野を専攻し研究に携わってきた経験もあり、研究者の苦労を理解するのに活きている。これが人間味ある距離感での支援となり、研究加速につながっているのかもしれない。

「偉そうに言っていますが私個人の力ではありません。特に、技術参事と事務参事の方々にはおんぶにだっこです」と岡野はさきがけサポートチーム全体の力も強調する。
さきがけには各領域に領域事務所が設置され、そこには領域分野の知識と経験に富んだ技術参事と経理事務のプロフェッショナルである事務参事がいる。また、研究推進部の同僚も良き相談相手となり、お互いに助け合う。さきがけは、このようなチームで協力して総括をサポートしている。このチーム力から、「さきがけは面倒見がよい」という評判が生まれているのだろう。

研究者の喜びが支援する者の喜び

研究を支援する喜びは何か。「さきがけは、どんな人でも応募できます。採択されたときにはポスドク(postdoctoral fellow、博士研究員)ということもあります。そんな人たちが我々の支援で成果を出し、それが認められて、独立した研究室を持てるようになったり、世界的にも有名人になったりするととてもうれしいです。しかも、そのような研究者を大勢生み出すことに一部でも貢献できているかと思うと自分のやりがいにもなります。」と、岡野ははにかみながらも答えた。

「さきがけ」では研究支援期間が終了した後も同窓会のような集まりが催されることがあるという。「さきがけ」は研究総括を中心に集った研究者、それを支援する人までがまとまって、苦楽を共にするバーチャルでの研究所の役割を組織している。それが未来にまでつながる学際的な人脈になるのだろう。JSTはそんなメンバーの一人であり研究者のパートナーとして働いている。

1) さきがけサイト https://www.jst.go.jp/kisoken/presto/
  さきがけとは https://www.jst.go.jp/kisoken/presto/ja/about/about2.html

2) 2010年 4月22-23日 第四回領域会議 http://www.ips-s.jst.go.jp/j/osirase/osirase/index.html

3) さきがけ なでしこキャンペーン https://www.jst.go.jp/kisoken/presto/nadeshiko/

(文、写真:渡邉美生)
※本記事のJST職員所属部署は本記事掲載時現在のものです。

西川氏インタビューはこちら>>