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人々の生活や社会の発展を支え、未来を拓く鍵ともなる科学技術。
JSTは、日本の科学技術と社会、地球の未来を見据え、国際社会と協調しながら、長期的な広い視野を持って科学技術の振興を進めている。その事業は多岐にわたり、その制度設計から実施に至るまで多くの方々と協働している。JSTと志を同じくして国民の幸福や豊かさの実現に向けた科学技術を推進する人はどんな思いを抱いて取り組んでいるのだろうか。

JST Partners 「さきがけ」研究総括 西川伸一氏_1

「さきがけ」研究総括 西川伸一氏
(理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 副センター長、幹細胞研究グループ・グループディレクター)

西川氏のJST側パートナーはこちら>> 研究推進部 岡野陽介

他の機能を持つ細胞に変化(分化)しない皮膚の細胞から、さまざまな種類の細胞に変化する能力(多能性)を持つ細胞、iPS(Induced Pluripotent Stem)細胞を作り出したのは京都大学教授の山中伸弥氏。 山中教授が2007年11月20日、「ヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)樹立」を発表して以来、iPS細胞研究は再生医療や創薬、難病の原因解明、生物の発生に関する基礎研究の分野で大きな注目を集めている。 iPS細胞研究を進めるJSTの事業「さきがけ」のリーダーは、血液、色素細胞などの幹細胞の増殖・分化に関する研究の第一人者、西川伸一氏だ。

何が起こるかわからない面白さに期待

「さきがけ」とはその言葉のとおり「先駆け」だ。国が決める「日本が解決すべき課題」に沿って研究者が解決策を提案する。未来に先駆けたその解決策の芽をJSTが支援し、リーダー(研究総括)の西川氏や領域アドバイザーと議論しながら育てていく。

「私が担当する「さきがけ」は極めてシンプルに考えています」と話す西川氏。

シンプルに考えているとはどういうことか。
iPS細胞の研究については、目的に応じて多様なプロジェクトがある。しかし、それだけではまだまだ発想が狭い。iPS細胞というハードがあったとき、「さきがけ」研究者はどう貢献できるか考えてみてほしいと言い続けている。今後iPS細胞研究は何が起こるかわからないからこそ、「さきがけ」ではシンプルに「iPS細胞」をキーワードとし、広い視野でプロジェクトを引っ張っている。

「さきがけ」はチームではなく個人研究者として採択されるため、上の世代とは独立して研究を進めることができる。そして採択されたメンバーの間では、ある連帯意識を作り上げていくこともできる。比較的若い研究者も多く、その自由な発想の豊かさに期待していると西川氏。ただし、「いまのところ、私の発想以上のものはありませんね」ときっぱり。
といっても、最近の若者がネット小説、ケータイ小説に自作の小説を投稿することを例に挙げ、若い力に期待を寄せる。
「若い人が自分を表現する新しい方法をどんどん見つけている。大きな変革が起こるときというのは往々にして経済が停滞し閉塞(へいそく)感が漂う時代だ。今の日本にはそのチャンスがある。」
混沌とした研究から何が生まれるかわからない。この領域はこれまでにはない自由で創意に満ちた発想による基礎研究、医療などに将来貢献できる基礎研究を対象とし、殻を突き抜ける研究となることを望んでいる。

研究者を育て、議論する

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「さきがけ」での議論は研究者との真剣勝負。例えば、疾患特異的iPS細胞やモデル動物のiPS細胞を「作製する」ということをテーマとする若い研究者がいるとする。しかし、西川氏いわく、「それでは1年もすれば終わってしまい、発展性に乏しく、競争的研究資金が獲得できない。負けた後どうするか、そこで新しく違う方向を模索する」。
そのためには、研究者らとの間で激しい議論を交わす。「さきがけ」のアドバイザーたちもそのディスカッションは面白いと言ってほとんど全員が参加する。
最近の研究会は、みんな忙しいからといって日帰りで開催されることが多く、じっくり話す時間も取りにくい。その点、「さきがけ」では一泊での領域会議があるので昼間の討論会のあと、足りない分は夜にも議論もできる。
「『さきがけ』の研究総括には『研究費の配分がない』というのも良い点」と西川氏は笑う。研究総括がニュートラルな立場で意見を言うことができるというのだ。

「さきがけ」リーダーの楽しみは、新しい発想を提案する研究者を育てることだと西川氏。
「さきがけ」は外部の研究資金を獲得するよい経験の場ともなる。その中で若い人が育てばよい。外部から研究資金を得るということでどんな義務が生じるか、研究者らは知ることになり、これによってどう変わるかを見守り、指導していくことも研究総括の仕事なのだ。

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トップダウンにもボトムアップの要素がうまく組み合わさっている

税金から捻出(ねんしゅつ)される研究資金を配分する方法はいろいろある。
例えばJSTの戦略的創造研究推進事業で配分される研究資金はトップダウンでの研究推進、日本学術振興会(JSPS)の科学研究費補助金はボトムアップと言われる。この違いは何か。JSTの場合は国(文部科学省)が定めた戦略目標に沿った研究に研究費を配分する。一方のJSPSの多くの研究資金は研究者からの自由な提案が審査されて配分される。
西川氏は「さきがけ」の制度について「トップダウンだけどその枠の中では自由な提案が必要とされる。ボトムアップ的要素がうまく組み合わさっている」と言う。
西川氏の求める斬新な発想はこの組み合わせの中から生まれ、育っていくのだろう。
「ボトムアップの要素が無いと研究者が育たない。しかしトップダウンで日本の研究開発方針をしっかりと定め、戦略的に進めていかなければ海外との競争に耐えられないし、限りある研究資金で効率良く成果を生むことはできない。
JSTの『さきがけ』はトップダウンで研究を推進するシステムだが、戦略目標に定められた分野の専門家である研究者らの工夫や発想がボトムアップの役割も果たしている。だから効率的な研究推進と研究者育成強化の両方が実現する。
トップダウンとボトムアップの絶妙な組み合わせが日本の地下水脈を育て、山中先生のiPS細胞研究に代表される今の強さを生んだのです」

ユニークな発想と探求心を持つリーダー

西川氏の部屋の壁には赤を基調とした大きな絵画と大きな本棚。本棚に並ぶ書籍は研究関連のものも多いが哲学や社会学に関するものもかなり目立ち、研究者の部屋としては個性的な雰囲気だ。
「私は理系を選んでいますが、どちらかというと文科系の人間なのです」
科学技術が進展した現代では非ユークリット幾何学や相対性理論が生まれ一元論が成立しない部分がある。では生物について一元論は成立しているのか。西川氏は熱っぽく語る。
DNAという物質そのものと、それが持つ情報に着目すると面白い。iPS細胞や発生に関する研究によりエピジェネティクス(DNA配列の変化を伴うことなく後天的な作用により遺伝子発現が制御される様)への理解が進み、「生物が情報の短期記憶をいかに使うか」について解き明かす糸口が見えてきた。しかし、情報と物理化学とのインターフェースは依然としてわからない。素材の中に情報がある。「生物学とは何か」を追求する旅をまだまだ続けるという西川氏。
このユニークな発想と探求心を合わせ持つ人物が「さきがけ」で先端研究を提案する研究者らのリーダーだ。総じて同じようになりがちな研究所の一角、落ち着いた雰囲気の部屋に大きく掛かる赤い絵画が西川氏のフロンティア精神を象徴しているようだ。

「さきがけ」ってどんな制度?

戦略的創造研究推進事業「さきがけ」は国、文部科学省が決める戦略目標に基づいて未来のイノベーションの芽を育む個人型研究です。リーダー(研究総括)と領域アドバイザーの下、年数回の合宿形式の研究発表などを通じて同じ研究領域に集まった研究者と交流・触発しながら3年もしくは5年間研究に取り組みます。「さきがけ牧場」とも呼ばれ、ユニークなイノベーション・ヒューマンネットワークが形成されています。
さきがけ iPS細胞と生命機能 の研究領域は平成20年に発足し、一期生10名、二期生11名の研究者がおり、今年度は第三期生を募集しています。
JSTは戦略目標に基づき、研究者コミュニティと連携しながら研究総括を決め、研究総括とともに研究テーマの採択や領域運営の支援、研究成果の発信、研究者の交流や研究評価といったマネージメントに力を注いでいます。

JST側のパートナーにも西川氏の魅力、JSTの役割について聞いてみました。
西川氏のJST側パートナーはこちら>> 研究推進部 岡野陽介

(文、写真:渡邉 美生)

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西川 伸一 (にしかわ しんいち)氏の略歴

理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 副センター長、幹細胞研究グループ・グループディレクター、財団法人先端医療振興財団 先端医療センター研究所 所長、医学博士、医師

1973年 京都大学医学部卒業後、京都大学結核胸部疾患研究所 研修医、医員、助手、1980年 ドイツ連邦共和国ケルン大学遺伝学研究所(フンボルト財団奨学生)留学、1983年 京都大学結核胸部疾患研究所付属感染免疫動物実験施設 助教授、1987年 熊本大学医学部免疫医学研究施設病理学部門(後の形態発生学部門)教授、1993年 京都大学大学院医学研究科分子医学系遺伝医学講座分子遺伝学 教授を経て2000年より現職。
2008年より さきがけ 研究総括、2009年より 産学イノベーション加速事業「S-イノベ」プログラムオフィサー
専門は発生生物学、血液学、免疫学

受賞等
1997年 財団法人 日本リデイアオリリー協会 清寺 真 記念賞
1999年 フィリップ・フランツ・フォン・ジーボルト賞(ドイツ政府)
2002年 財団法人 持田記念医学薬学振興財団 持田記念学術賞