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科学技術振興機構報 第241号

平成18年1月23日

東京都千代田区四番町5−3
科学技術振興機構(JST)
電話(03)5214-8404(総務部広報室)
URL http://www.jst.go.jp

極性・非極性酸化物界面の原子配置と電荷状態の解析に成功

− 酸化物薄膜デバイスの精密設計へ道 −

 JST(理事長 沖村憲樹)は、極性を持つ酸化物と持たない酸化物で作られる界面を詳細に解析し、界面の原子配置と電荷状態の変化を直接観察することに初めて成功しました。
 極性を持つLaAlO3(ランタンとアルミニウムからなる酸化物)と極性を持たないSrTiO3(ストロンチウムとチタンからなる酸化物)の界面には、電子が供給される"n型"のAlO2/LaO/TiO2界面と、ホール*1が供給される"p型"のAlO2/SrO/TiO2界面の2つが考えられます。これまでn型の界面が伝導性であるのに対し、p型の界面が絶縁性であることは報告されていましたが、実際の界面の構造や電荷の分布の違いはわかっていませんでした。今回、高感度の走査型透過電子顕微鏡*2と高分解能の電子エネルギー損失分光*3を用いることにより、詳細な界面の解析が初めて可能となりました。実際には、n型の界面には多くの電子が導入され、これが広がりを持って存在しているため、大きなエネルギーが生じ、これを補償するためにp型界面に比べて、界面が乱れ易いことが見いだされました。さらに、どちらの界面においても電子のエネルギーの平行移動を調整するために、酸素欠損が導入されていることを明らかにしました。本研究の成果は、酸化物デバイス中での異なる物質の接合界面作製の設計指針をより明確に与えるものであり、それによりデバイスの電気的な性能(電界効果*4など)を劇的に向上させることが期待できます。
 本研究の成果は、戦略的創造研究推進事業、ポスドク参加型研究(さきがけ)「光と制御」研究領域(研究総括:花村榮一)における研究テーマ「量子閉じ込めモット絶縁体における強相関系の光学構築」において、東京大学大学院新領域創成科学研究科のファン・ハロルド(Harold Y. Hwang)助教授と中川直之博士(現・株式会社東芝研究開発センター)が米国コーネル大学応用物理学科ミューラー・デイビッド(David A. Muller) 助教授との共同研究により得られたもので、英国の科学雑誌「Nature Materials」の2006年1月22日付(英国時間)オンライン版、および3月号の誌面にて一般公開されます。

【成果の概要】

<研究の背景>

 酸化物はその物性の多様性から応用面においても広く利用されつつあります。酸化物薄膜を原子レベルで制御する技術はかなり確立されてきており、これにより新規な物性の探索が可能となっています。酸化物薄膜を精密に制御する場合、物質の境界での静電的な状態を理解することが、界面の原子配置や電子構造を制御する上での重要な要因に成り得ると考えられます。極性を持たない層の上に極性を持つ層を堆積する場合、原子スケールできれいな界面を維持するためには、大きなエネルギーを必要とします。原子の価数が変化しない従来の半導体においては、界面で原子の並べ替えが起こるか、あるいは界面で組成の勾配が形成され、結果的に界面電荷が相殺されていました。一方で、いくつかの価数を取りうる遷移金属を含む酸化物において、界面での極性の違いから生ずるエネルギーをどのように取り除くかという問題に対する明確な回答は得られていませんでした。

<成果の内容>

 今回、ファン・中川らは、パルスレーザー堆積法*5により原子レベルで制御された異なる2つの界面("n型"のAlO2/LaO/TiO2界面と"p型"のAlO2/SrO/TiO2界面)を作製し、それぞれの界面の原子配置および電荷状態を、電子エネルギー損失分光を兼ね備えた走査型透過電子顕微鏡により観察しました(図1)。
 2つの界面の走査透過電子顕微鏡像と断面の様子を図2に示します。n型の界面に比べてp型の界面がより急峻であることが分かりました。この傾向は、試料を酸素気流中で加熱した後も変化しませんでした。
 一方、n型の界面のみからなるLaAlO3とSrTiO3の超格子構造を作製すると、どんどん界面の構造が乱れてくることが直接観察されました。電子エネルギー損失分光の結果からn型の界面では電子がある程度の広がりを持って存在しているため、界面の双極子エネルギーが存在し、それを打ち消すために界面が乱れることが推察されました。逆に、p型界面においては、ほとんど界面電荷が存在しないために、より急峻な界面を維持できると考えられます。
 さらに、2つの界面の酸素欠損量についても調べました。極性をもつ酸化物と極性を持たない酸化物の界面において、電荷の移動がまったくない場合は、極性をもつ酸化物の層が増えるにつれて、電子のポテンシャルが発散してしまいます。ここで、界面での電荷の移動を考慮することにより、ポテンシャルは発散しないと考えられます(図3a)。今回の解析により、初めて酸化物へテロ界面*6で電荷の移動に加えて、酸素欠損を導入することにより、バンドオフセット*7が調整され、エネルギー的により安定な界面が形成されていることがわかりました(図3b)。

<今後の展開>

 多くの酸化物デバイスは、極性が連続的に連なっていないヘテロ界面を含んでいます。今回の解析結果は、この極性の不連続により生じる界面のスクリーニング電荷*8が、デバイス中で生じる分極に匹敵するか、より大きいことが示唆されました。
 今後は基板の終端面を変化させることによりスクリーニング電荷を抑制し、それによりデバイスの電気的な性能(電界効果など)を劇的に向上させることが期待できます。

【用語解説】
図1.試料作製装置と試料分析装置の概念図
図2.2つの界面の走査透過電子顕微鏡像とシグナル強度の断面図
図3.バンドオフセットの調整

【論文名】

Why some interfaces cannot be sharp
(界面はどうして急峻にできないのか)
doi :10.1038/nmat1569

【研究領域等】

戦略的創造研究推進事業 ポスドク参加型研究(さきがけ)
「光と制御」研究領域(研究総括:花村 榮一)
研究課題名:量子閉じ込めモット絶縁体における強相関系の光学構築
研究者:Harold Y. Hwang(東京大学 大学院新領域創成科学研究科 助教授)
研究実施場所:東京大学 大学院新領域創成科学研究科
研究実施期間:平成15年10月〜平成19年3月

【問い合わせ先】

Harold Y. Hwang(ハロルド Y. ファン)
東京大学 大学院新領域創成科学研究科
〒277-8561 千葉県柏市柏市柏の葉5-1-5
TEL:04-7136-3811
FAX:04-7136-3805
E-mail:

中川 直之 (ナカガワ ナオユキ)(平成17年12月までJST研究員)
株式会社 東芝 研究開発センター
先端機能材料ラボラトリー
〒212-8582 神奈川県川崎市幸区小向東芝町1番地
E-mail:

白木澤 佳子(シロキザワ ヨシコ)
独立行政法人科学技術振興機構
戦略的創造事業本部 研究推進部 研究第二課
〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
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