科学技術振興機構報 第196号

平成17年7月29日

東京都千代田区四番町5−3
科学技術振興機構(JST)
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強磁場マグネット用長尺超電導線材の開発に成功

 JST(理事長 沖村憲樹)は、独創的シーズ展開事業 委託開発(注1)の開発課題「粉末法NbSn*1)超電導線材の製造技術」の開発結果を、このほど成功と認定しました。
 本開発課題は、東海大学 工学部教授 太刀川恭治博士らの研究成果を基に、平成14年2月から平成17年2月にかけて株式会社神戸製鋼所(代表取締役社長 犬伏泰夫、兵庫県神戸市中央区脇浜町2丁目10−26、資本金 2181.6億円、電話:078−261−5111)に委託して、企業化開発(開発費約377百万円)を進めていたものです。
 最近、様々な分野で強磁場への期待が高まっております。特に、タンパク質などの構造・機能解析に重要な役割を果たすNMR(核磁気共鳴:Nuclear Magnetic Resonance)装置は強磁場ほど高分解能になりますが、そのマグネットの製作には、強磁場でも大電流を流すことが出来る超電導線材の開発が必須でした。
 従来のブロンズ法*2)での製造では、プロンズ中に含有することのできるスズ量に限界があるため、反応生成するNbSn(ニオブ3スズ)量に限界があり、通電できる電流容量にも限界がありました。そこで本新技術では、タンタルとスズの粉末を合金化させた粉末状化合物をニオブ合金の管に入れたものから、NbSnを生成させるという粉末法(PIT法:Powder In Tube法)を採用することにより、材料中のスズ量を増大させることに成功し、その結果、化学量論組成のNbSnを大量に生成させることができ、かつその面積も増大させることができました(図1)。その結果、線材の電流容量も大きく改善されました。
 本開発においては、断面形状および製造プロセスを検討したうえで、断線を防止しながら長尺線材を製造することが、重要な開発ポイントとなりましたが、粉末の粒径制御技術や、粉末製造工程や引抜工程の工夫など、企業が今までに培った技術を取り入れることにより、従来製品に比べ、強磁場で高い臨界電流密度*3)を持つ千メートル級の実用線材を得ることができました。
 今後、更に長尺化を進めるとともに、NMRマグネットへの組み込みを行い、世界最強磁場を達成できるNMRの開発に使用する予定です。

(注1)独創的シーズ展開事業 委託開発は、平成16年度まで、委託開発事業として実施されてきました。

本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景)  高分解能NMRの開発に不可欠な超電導線材が求められています。

 現在、バイオや製薬の分野でタンパク質等の構造・機能解析が必要とされてきており、国家レベルでも「タンパク質3000プロジェクト」等が推進されております。このタンパク質の構造・機能解析においては、高分解能NMRの重要性が高まってきております。NMRを高分解能にするためには、強磁場が必要でありますが、従来の超電導線材では強磁場での臨界電流密度に限界がありました。
 その原因としては、従来行ってきたブロンズ法においては、ブロンズ中に固溶できるスズ量に15.8%という制限があるため、生成する超電導材料のNbSn量に限界があり、線材断面積中のNbSnの面積を大きくすることができないということがありました。そこで、ブロンズ法の限界をうち破る新たなNbSn超電導線材の製造方法の開発が望まれておりました。

(内容)  粉末法の採用により、大量の化学量論組成のNbSnを得ました。

 本新技術は、上記ブロンズ法の欠点を補うため、タンタルとスズの粉末を合金化した粉末状化合物を、ニオブ合金の管に入れ、押出や、引抜き加工をした後に、焼鈍処理を行い、NbSnを得るという技術です(図2図3)。
 タンタルとスズの粉末状化合物に入れるスズ量はブロンズ法と違い制限がないため、本方法ではブロンズ法に比べ、より多くの化学量論組成に近いNbSnを得ることができ、強磁場領域でも臨界電流密度を高くすることができます。
 一般に超電導線材は脆く加工性が悪いのですが、本開発においてもその断線防止は課題となりました。そこで、粉末の粒径制御技術や、焼鈍タイミングの見直し、粉末製造工程や引抜工程の工夫など、企業が今までに培った技術を取り入れることにより、従来製品に比べ、強磁場での臨界電流密度が格段に高い千メートル級の実用線材を得ることができました。(図5

(効果)  世界最高性能のNMRの開発を可能にし、バイオなどの進展に役立ちます。

「本新技術による得られる超電導線材は、
1 19T*4)での臨界電流密度が250(A/mm2)以上と、従来のブロンズ法線材の150(A/mm2)程度に比べ、非常に高い。(図4
2 また、ブロンズ法に比べ加工硬化しにくいため、中間焼鈍工程が大幅に省略でき、コスト的に安くできる可能性がある。
3 超電導接続の抵抗値についても非常に低い値を示し、NMR用途については全く問題がない。
 というような特徴を有するため、更なる高分解能NMR等に利用されて、科学技術の進歩に役立つとともに、冷凍機直冷型マグネットや核融合など、強磁場マグネットが必要な分野への波及効果も大きいと期待されます。

【用語解説】
図1 従来技術(ブロンズ法)と本新技術(PIT法)の比較
図2 製造方法(1)
図3 製造方法(2)
図4 得られた超電導線材の性能
図5 製作した超電導線材断面
開発を終了した課題の評価

この発表についての問い合わせは以下の通りです。

株式会社神戸製鋼所電子技術研究所超電導研究室濱田 衛  宮崎隆好
TEL 078-992-5652
JST開発部 開発推進課
菊地博道 住本研一

TEL 03-5214-8995 FAX 03-5214-8999