科学技術振興機構報 第185号

平成17年7月12日

埼玉県川口市本町4−1−8
科学技術振興機構(JST)
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LSIの高集積化に貢献するデカボランイオンビーム発生装置の開発に成功

 JST(理事長 沖村憲樹)は、独創的シーズ展開事業 委託開発(注1)の開発課題「デカボランイオンビーム発生装置」の開発結果を、このほど成功と認定しました。
 本開発課題は、京都大学名誉教授山田公氏と京都大学大学院工学研究科助教授松尾二郎氏らの研究成果を基に、平成14年2月から平成17年2月にかけて日新イオン機器株式会社(代表取締役社長 辻貞夫、本社 京都府京都市南区久世殿城町575番地、資本金1,500百万円、電話075-922-4611(代表))に委託して企業化開発(開発費約69百万円)を進めていたものです。
 大規模集積回路の高性能化に伴い、半導体素子の極淺領域にイオンを注入する必要性が高まっています。
 半導体素子で浅い不純物層の形成に用いられるイオン注入法では、性能に悪影響を与えるリーク電流が生じにくい極淺接合を形成するためには、加速電圧を下げてイオン速度を抑えると、イオン間の電気的反発によりイオンビームが著しく発散するため、イオン電流値や注入均質性の低下が問題となります。従って、不純物のひとつであるホウ素注入に関し、低速度イオン注入と高いイオン電流値を両立できる新たなイオン注入技術が求められています。
 本新技術では、質量および同一イオン電流量でのホウ素輸送量が約10倍と大きいデカボランイオンを用いることにより、電荷反発によるビームの発散量が数十分の一に低下するため、ビーム発散を抑えた微細領域への注入が可能となり、また、加速電圧を低下させなくても速度を低くできることから、ホウ素注入層を非常に浅く生成することができます。
 本開発では、デカボラン蒸気安定供給技術開発、イオン発生部の構成技術開発、堆積物除去技術開発を行い、発散の少ない均質なイオンビームで効率よく極めて浅い領域にホウ素イオンを注入できるデカボランイオンビーム発生装置を開発し、今後5年間で150台以上を市場に供給し、約100億円の販売を見込んでいます。本開発技術は、今後開発が予想されるLSIの集積回路の高集積化、高速化、低消費電力化に利用されることが期待されています。

(注1)独創的シーズ展開事業 委託開発は、平成16年度まで、委託開発事業として実施されてきました。

本新技術の背景、内容、効果は次の通りです。

(背景) LSIの高性能化には、ホウ素注入に関し、低速度イオン注入と高いイオン電流値を両立できる新たなイオン注入技術が求められていました。

 大規模集積回路(LSI)中の論理回路を構成する電界効果型トランジスタ(FET)は、半導体の性質を制御する不純物を半導体ウエハ表面から注入して形成します。LSIの高性能化には小面積に、より多くの素子を詰め込むことが必要であるため、LSIの主構成要素であるFETの大きさもより小さくすることが求められています。FETには、ゲート端子を挟んで両側にソース、ドレイン端子があり、ソース、ドレイン部分に不純物を注入します。FETの動作はゲートに加える電圧でソース/ドレイン間の導通を制御していますが、微細化によりソース/ドレイン間が接近すると、ゲート端子に加える電圧と無関係に接合部にリーク電流が生じ、動作の制御ができなくなる問題が生じます。リーク電流制御には、接合部の間隙に応じてソース・ドレイン不純物を浅くすることが有効な解決策です。不純物層の形成に用いられるイオン注入法では、イオン加速電圧を低くして低速度注入することで注入の深さを浅くすることができます。 しかし、代表的注入種であるホウ素は質量が小さいため、浅い注入には極めて低い加速電圧とする必要があり、一方、加速電圧を下げてイオン速度を抑えると、イオン間の電気的反発によりイオンビームが著しく発散するため、イオン電流値や注入均質性の低下が問題となっていました。

(内容) 発散の少ない均質なイオンビームで効率よく極めて浅い領域にホウ素イオンを注入できるデカボランイオンビーム発生装置を開発しました。

 本開発では、デカボラン蒸気安定供給技術開発、イオン発生部の構成技術開発、堆積物除去技術開発を行いました。
 本技術で用いられるデカボランイオンは、1個のイオンに10個のホウ素を含むため、同一イオン電流量でのホウ素電流量が十分の一ですみ、また、イオンエネルギーは約十分の一で輸送できます。電荷反発によるビームの発散量はイオン電流値に比例し、エネルギーに反比例するので、およそ数十倍のビーム発散を抑えた微細領域への注入が可能となります。また、質量が大きいため、加速電圧を低下させなくても速度を低くできることから、ホウ素注入層を非常に浅く生成することができます。
 さらに、デカボランイオン注入は従来のホウ素イオンで形成された注入層と比較 すると、微小領域に10個のホウ素を高密度注入することから注入部位の周囲に結晶構造が不均一なアモルファス層が形成され、ホウ素拡散が抑えられ、注入不純物の活 性化のための熱処理を行っても浅い注入層の形成が可能です。

(効果)  半導体に悪影響をもたらすリーク電流・イオンの広がりのない特徴を有するためにLSIの集積回路の高集積化、高速化、低消費電力化に寄与することが期待されます。

本新技術のデカボランイオンビーム発生装置では、リーク電流の少ないより微細なLSIの製造が可能であり、今後開発が予想されるLSIの集積回路の高集積化、高速化、低消費電力化に利用されることが期待されます。

【用語解説】
図-1 MOS型FETの構造
図-2 デカボランイオンビーム発生装置
図-3 デカボラン蒸発源温度に対する5keVデカボランビーム電流
図-4 5keVデカボランビーム電流安定度
図-5 デカボランイオン注入装置外観
開発を終了した課題の評価

この発表についての問い合わせは以下の通りです。

日新イオン機器株式会社取締役副社長長井宣夫

I/Iシステム開発部 シニアマネージャー酒井滋樹
  TEL:075-922-4611(代表)
JST開発部 開発推進課菊地博道

福富 博
  TEL:03-5214-8995FAX:03-5214-8999