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科学技術振興機構報 第1037号

平成26年7月10日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)

植物由来の生分解性樹脂製造技術の開発に成功
(JST委託開発の成果)

ポイント

JST(理事長 中村 道治)は、独創的シーズ展開事業「委託開発」の開発課題「植物由来生分解性樹脂注1)」の開発結果をこのほど成功と認定しました。

本開発課題は、独立行政法人 理化学研究所(理事長 野依 良治)の研究成果(代表発明者:現 公益財団法人 高輝度光科学研究センター 土肥 義治 理事長)をもとに、平成21年1月から平成26年1月にかけて株式会社カネカ(代表取締役社長 角倉 護、本社住所 大阪府大阪市北区中之島2−3−18(中之島フェスティバルタワー)、資本金330億4,600万円)に委託して、企業化開発を進めていたものです。

化石燃料・原料から製造される合成樹脂は、地球温暖化や廃棄物処理問題の一因とされ、この解決策として植物原料由来の生分解性樹脂が期待されています。

生分解性樹脂は、トウモロコシやジャガイモなどデンプン由来の糖類から生成させた乳酸を原料とするポリ乳酸が良く知られています。今回開発に成功した生分解性樹脂は、脂肪酸や油脂類を炭素源として微生物が体内に蓄積するポリヒドロキシアルカン酸系熱可塑性ポリエステル樹脂のPHBH注2)(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート重合体)(図1)で、硬質なポリ乳酸と比べてポリエチレンに似た柔軟性を持つ特徴があります。

植物由来原料から微生物発酵で得られるカーボンニュートラルな生分解性樹脂として、使用後の廃棄物は土壌中の微生物により水と二酸化炭素に分解され、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素の量を抑制することが期待されます。

今回、野生のPHBH生産土壌細菌を高生産菌へ品種改良し、微生物培養条件および精製条件を最適化することで、実証設備で生産能力約1,000トン/年が実現でき、商業化設備の検討を本格化させていきます。

PHBHは、その生分解性と成形加工性の高さから幅広い利用が見込まれ、特にグリーンプラマーク注3)取得可能な配合で農業用マルチフィルム注4)を設計し、圃場でのフィールド試験においても良好な結果を得ています。

今後、環境問題から生分解性樹脂の用途拡大が図られている欧州市場を含め、植物油脂を原料として微生物から製造する本生分解性樹脂の特徴を生かしたグローバル展開が期待されます。

独創的シーズ展開事業・委託開発は、大学や公的研究機関などの研究成果で、特に開発リスクの高いものについて企業に開発費を支出して開発を委託し、実用化を図っています。本事業は、現在、「研究成果最適展開事業【A-STEP】」に発展的に再編しています。

詳細情報 http://www.jst.go.jp/a-step/

<添付資料>

別紙:開発を終了した課題の評価

本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景)従来の化石燃料・原料から製造される樹脂に代わる環境に考慮した生分解性樹脂の開発が望まれています。

ここ数年の世界各地で生産されている樹脂製品は年間約1.7億トン以上であり、このうち膨大な量が使用後に廃棄され、環境汚染問題の原因となっています。このような状況下、生分解性樹脂は廃棄物、環境汚染対策さらには温室効果ガス削減による地球温暖化防止の解決策として期待され、柔軟性の特徴を持つ微生物産生ポリエステルPHBHの実用化が期待されていました。

研究者らはバイオマス由来の生分解性樹脂の実用化に向けて現在の石油由来樹脂との競争力確保に向けて①高い生産性を持つ菌株の育成と培養技術・精製技術の確立、②種々の用途に対応可能な加工技術を開発することで、世界に先駆けた微生物産生ポリエステルの製造技術開発を推進しました。

(内容)微生物菌体内でポリエステル樹脂を生成させる生分解性樹脂の大量培養技術確立に成功しました。

開発実施企業および研究者は土壌微生物の一種が脂肪酸や植物油を炭素源としてR−3−ヒドロキシ酪酸(3HB)とR−3−ヒドロキシヘキサン酸(3HH)の共重合ポリエステルPHBHを生産することを見いだしましたが、当初発見した野生菌の生産能力は目的とする組成のPHBHを工業生産レベルで製造するには著しく低いものでした。

その後の開発の結果、野生菌からPHBH合成遺伝子などを複製することで、単位培養液あたりの生産能力を高め、数千トンから数万トン規模の培養生産が可能なPHBH高生産菌の開発に成功し、実証プラントでの本格培養試験を開始しました。

開発のポイントとなる水系での大量発酵生産については、培地、通気、攪拌条件を最適化することで高生産菌による生産性向上、物性確保を図り、実用レベルでの培養生産性確立に成功しています。さらに培養済みの樹脂含有菌体懸濁液から樹脂を回収する精製工程を完全水系とすることで環境対策を図るとともに、高収率で連続生産可能なプロセスを開発しました。

上記施策により約1,000トン/年レベルでの実証設備での生産体制を確立しました。

(効果)微生物産生によるバイオマス由来生分解性樹脂として幅広い利用が期待されます。

開発したPHBHは嫌気条件下、好気的条件下、コンポスト条件下のいずれの条件下でも優れた生分解性を示すことが確認され、日本バイオプラスチック協会が認定する生分解性プラスチックとしてグリーンプラのポジティブリストに登録(PL A42001)されています。

樹脂の物性としても、加水分解されやすいポリエステルの中でPHBHは市販生分解性樹脂と比較して十分な性能を持ち、成形加工性についても各種用途に応用可能なことが確認されています(図4)。

本開発樹脂を使用した農業用マルチフィルムのフィールド試験の結果では、市販品と同等の生分解性、使用終了後はトラクターで簡単にすき込み可能なことが確認されています(図5)。

また、欧州では生分解性樹脂の需要が多く、石油由来樹脂の使用が抑制される傾向にあり、スーパーマーケットのレジ袋への応用も拡大していることから、本開発樹脂「AONILEX(アオニレックス)」はグローバル展開を図っていきます。

<参考図>

図1 PHBH化学構造式

図2 PHBH生産プロセスの概要

図3 生産プロセス:実際の製造プロセス

図4 マルチフィルムの性能

図5 マルチフィルムの物性評価

試作したフィルムのフィールドテストを行なった。マルチャーによる展張ではフィルムが破れることなく、展張可能であった。5ヵ月後のトラクターによるすき込みでは、問題なくすき込みが可能であった。

<用語解説>

注1) 生分解性樹脂
微生物により分解される樹脂。ポリ乳酸を代表例とする生物資源由来のバイオ樹脂とPET共重合体系の石油由来樹脂がある。完全生分解性樹脂は最終的に水と二酸化炭素に分解される。
注2) PHBH
植物油脂を原料として微生物で発酵生産される、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)化合物。バイオマスである植物油脂を原料とするため、地球温暖化ガス(CO)量の低減が期待でき、特性として好気性・嫌気性・コンポスト条件下の全てにおいて優れた生分解性を示す。物性ではポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)に似た軟質性を持ち優れた耐熱性を示す。共重合体の構成比率を変えることで軟質から硬質の制御ができ、さまざまな性能・用途への展開が期待できる。
注3) グリーンプラマーク
一般プラスチック製品との識別を目的に、生分解性の基準と環境適合性の審査基準を満たした製品について日本バイオプラスチック協会が使用を認めるマークと名称。ポジティブリスト記載の原料、非分解性有機材料の使用制限、生分解性中間体の安全性を評価基準とする。
注4) 農業用マルチフィルム
雑草抑制、地表乾燥防止、温度調整などを目的として畑に張る農業用フィルム。現在は主に石油由来のポリエチレン系樹脂が使用されているが、回収作業が不要で、かつ廃プラ処理が不要な生分解性樹脂が今後の農業用マルチフィルム原料として期待されている。

<お問い合わせ先>

<開発内容に関すること>

株式会社カネカ GP事業開発部 総括グループ
三木 康弘(ミキ ヤスヒロ)、藤木 哲也(フジキ テツヤ)
〒530-8288 大阪府大阪市北区中之島2−3−18(中之島フェスティバルタワー)
Tel:050-3133-6756 Fax:06-6226-5098

<JST事業に関すること>

科学技術振興機構 産学共同開発部 事業推進グループ
平尾 孝憲(ヒラオ タカノリ)、高橋 誠(タカハシ マコト)
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-5214-8995 Fax:03-5214-0017

<報道担当>

科学技術振興機構 広報課
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