量子技術を適用した生命科学基盤の創出

戦略目標

「量子技術の適用による生体センシングの革新と生体分子の動態及び相互作用の解明」

研究総括

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瀬藤 光利 (国立国際マスイメージングセンター センター長)

概要

 本研究領域では、量子科学・量子技術を生体や生体分子の計測に応用することで、量子と生体の研究の交流と融合を促進し、生命科学を革新的に発展させることを目的とします。近年、量子科学の発展により、量子科学を基盤にした量子ビーム、量子スピン、光量子センサー、量子エレクトロニクス等の技術は、例えば量子コンピューティングやtime crystal(時間結晶)の実現に至るような著しい進展をみせており、我が国でも世界をリードする技術シーズが創出されています。こうした量子技術は、生体分子の動態や相互作用を検出する新規生体計測技術の開発等のテクノロジーの創出や、生命現象の中に真に量子的な現象を見出す等の革新的なサイエンスへの展開が期待されているにもかかわらず、十分に進んでいるとは未だ言い難いのが現状です。そこで本領域では、量子技術のライフテクノロジー分野での積極的な応用を促すことで生命科学分野の一層の発展を目指します。

平成29年度募集・選考・研究領域運営にあたっての研究総括の方針

1.背景
 近年の量子技術の進展は目覚ましく、量子コンピューティングも現実のものとなってきています。そうした中、欧米では生命科学応用を含む量子技術応用に数十億円規模の投資が実施されています。我が国はこういった先進諸国に比べ、量子センサ作製や量子ビーム高度化等の量子技術においては世界をリードしている一方で、量子技術の生命科学への応用は大きく遅れているのが現状です。 最近になって日本でも技術シーズの生命科学応用が少しずつ始まっています。ダイヤモンドNV中心等の量子センサ技術は、これまで不可能であった生体内の微弱な温度・磁場・電場等を高感度観測を可能とし、世界的に注目されています。また、量子もつれ光子を超解像顕微鏡と組み合わせることで、これまで可視化されなかった状態を高い空間分解能で捉える新たな生体内イメージング技術の開発が進められています。生体分子の構造解析技術においても、量子ビームの高度化等によって、生体分子の機能発揮において鍵を握る電子密度や水素位置を捉えるような、量子レベルの解像度を有する超精密構造解析時代に突入しています。
 しかしながら、こうした取り組みは十分な広がりをもって展開されているとは言い難く、その要因として、生命科学の研究者による量子技術への苦手意識や抵抗感と、量子技術者の生命科学への応用に関する意識の希薄さなどが挙げられています。

 

2.募集・選考の方針
 本研究領域では、1.に記した背景や問題意識を踏まえ、量子技術の生命科学への応用を積極的に推進します。具体的な研究課題の例を以下のように挙げますが、これらにこだわらず、本方針を書いている研究総括や審査する領域アドバイザーが思いもよらなかったような斬新で挑戦的なアイディアを広く募ります。今回は量子技術によって生命科学の進展を目指す募集であり、生命科学技術によって量子科学技術を進める研究は対象としませんが、相互の交流により結果的に量子科学技術も進展することは是とします。

 

① 生命現象を量子技術の応用により解明する課題
 応募者としては主に具体的な生命現象を対象に研究している生物学や農学、医歯薬学等の研究者を想定しています。目的は技術の発明ではなく、新しい生命現象や原理や物質の発見、病態解明等です。その道具として量子技術を導入するものを広く募集します。
 対象とする生命現象としては細胞内の生体分子の挙動や状態変化の細胞生物学的研究、生体分子の機能を支配しているタンパク質活性等の生化学的研究、個体レベルでの代謝や脳機能等の神経科学や生理学的研究、血管やがん等でのタンパク質分子等における化学結合情報の獲得による化学反応プロセスの機能解明や生体反応と疾患との関係解明等の薬理学的研究、中性子線とX線の連携利用による水素原子・水分子の挙動情報の導入による生体内分子間相互作用や反応の解明の放射線学的研究、外殻電子の振る舞いや水素結合等の働きの理解によるタンパク質の機能解明・阻害(による医療応用の高度化)、光合成における電子伝達機構、膜電位を介した細胞機能、等の基礎生物学的研究など様々な課題が想定されます。
 量子技術の例としては多光子顕微鏡等の光量子過程を駆使した顕微鏡、Qdot(量子蛍光微粒子)等のナノテクノロジーを用いた可視化、ダイアモンド空孔を用いた温度や磁場の計測、PETなど量子センサーを用いた研究、陽子・重粒子線や自由電子レーザー等の量子ビームなどが挙げられます。実際には多くの量子技術は生物にそのままの形で使える方法にまでは確立されておらず、技術自身のブラッシュアップも相応に必要になるでしょう。

 

② 生命科学に応用可能な計測技術を量子技術の利用により開発する課題
 応募者としては主に応用物理や化学の分野の研究者を想定しています。これまで扱ってこなかった生命科学に応用可能な計測技術やそのプローブを開発することを想定しています。もちろんすでに計測技術開発に知識や経験のある生物工学や医用工学の研究者が量子技術を導入する提案も歓迎します。目的は発見ではなく発明です。ある程度量子エレクトロニクスや光量子等の分野で実績のある技術を水平展開して生体応用する研究が想定されます。さきがけ研究期間内に具体的な生物学医学上の問題に取り組むところまで到達する必要はありません。
 目指す技術の例としては、量子センサによる生体分子間の相互作用検出系の開発、量子センサの感度向上によるナノメートル空間分解能での定量的な細胞内温度・磁場・電場等の計測、細胞内局所の物理場のマルチモーダルイメージングの開発、心磁や脳磁等の計測による産業・医療応用への展開、電子スピン共鳴を利用した単一分子のNMR・MRIの開発、量子もつれの蛍光顕微鏡への導入による低侵襲な生体深部イメージング技術の開発、超解像顕微鏡、多光子等の光・量子技術による新たな生体内イメージング技術の開発、量子ドットによる医療応用の高度化に向けた基礎研究、量子もつれ光による血管内壁の観察技術の開発等を期待することが出来ると考えています。

 

③ 生命現象を量子科学的に理解する課題
 応募者としては主に理学部の量子研究者、SPring-8やクライオ電子顕微鏡やNMR等を用いた構造科学者、理論生物学、計算科学、いわゆる狭義の量子生物学の研究者等を想定しています。目的は発明ではなく理解であり、それも生物の量子科学的な理解です。そのための道具は必ずしも量子技術でなくてもかまいません。例えば計算シュミレーションからのアプローチも考えられるでしょう。量子コヒーレンスや電子相関といった効果が生物機能と密接かつ直接的に関係しているような事例、つまり、くりこまれた古典マクロ(粗視化)モデルが存在しないような事例は議論の最先端であり、そもそもそういうものが存在するのかということも含めて幅広に取り扱うことになります。具体的な例としては超高分解能の結晶構造解析を基盤にした視物質による光吸収・応答の研究、植物の光合成やミトコンドリアの呼吸等に関わる電子伝達系・エネルギー移動等の研究、渡り鳥の地磁気感知システムの研究等を挙げることができます。

 

3.提案・選考にあたり
 本研究領域に応募される場合、テーマに関する複数の研究者との共同研究を可能とします。つまり、生命科学の研究者が量子技術の研究者や企業との共同研究として提案することが可能です。また、量子分野の研究者が生命科学の研究者や企業と組んで出すことも可能です。ただし、共同研究の場合の研究費は、さきがけで採択された個人研究者のみへの配分となり、共同研究者への予算の配分はありませんのでご注意下さい。また、連携提案の際、ペアを組んだ二人がどちらも若手である場合、その旨様式1及び様式3に連携研究者氏名を明記してのペア応募も可能です。その場合両方通らないと採択されないわけではなく、一方だけが採択される場合もあります。もちろん、生命科学と量子の両方に知見を有する個人研究者においては、従来通り、個人での応募も可能です。
 採択後に他の個人研究者・領域アドバイザー等とも連携を進めることも推奨します。選考は、領域アドバイザーの協力を得て行います。領域アドバイザーには、量子科学・生物学・そしてその間を繋ぐ化学または分光学の先生方をバランスを見て配置し、さまざまな研究提案の選考に対応する予定です。量子科学の研究者で生命科学計測への展開を指向している研究者、生命科学の研究者で量子技術を活用して生命現象の解明を指向している研究者で、現状共同研究相手が無い方々も採択されればいずれこの領域の中で相手が見つかることでしょう。

 

 「さきがけ」は専任としての参加形態が取れるプログラムです。現在所属している研究室の研究テーマにとらわれない斬新な提案を歓迎します(専任としての採用には、JSTの内部審査があります)。

 

※なお、本領域に応募される場合は、提案書様式が他の研究領域と異なるため、本研究領域の用の提案書書式をe-Radからダウンロードして下さい。

 

4.運営の方針
 領域運営においては、異分野研究者間の交流を重視し、プラットフォームのような「技術/解析拠点」を研究領域内に作り、生命科学技術の研究者と量子科学技術の研究者が1つのエリアで研究出来る体制も検討します。また、採択された個人研究者と分野が異なる領域アドバイザーが指導し、研究者が様々な知識を身につける体制を構築する他、生命科学技術の研究者と量子科学技術の研究者が連携し、研究領域内外の研究者と柔軟にマッチングが出来るような工夫も考えています。
 本研究領域においては、さきがけの3年半に創出された論文数や学会発表数で成果を評価しようとは考えていません。すぐに成果が出るとは思っていませんし、研究成果の社会的な応用についても、それ以上に時間がかかることはやむを得ません。安心してハイリスクなテーマにも積極的に挑戦していただきたいと思います。現在の私たちの想像を絶する成果がこの分野からいずれ出てくることを我々は確信しており、その一翼を担う研究者たちが本領域から一人でも多く出てくれれば、研究総括としてこれ以上の喜びはありません。

領域アドバイザー

石川 顕一 東京大学 大学院工学系研究科 教授
井上 卓 浜松ホトニクス株式会社 中央研究所 室長
岡田 康志 理化学研究所 生命システム研究センター チームリーダー
小澤 岳昌 東京大学 大学院理学系研究科 教授
菊地 和也 大阪大学 大学院工学研究科 教授
笹木 敬司 北海道大学 電子科学研究所 教授
城石 芳博 株式会社日立製作所 研究開発グループ 技術顧問
竹内 繁樹 京都大学 大学院工学研究科 教授
田中 成典 神戸大学 大学院システム情報学研究科 教授
原田 慶恵 大阪大学 蛋白質研究所 教授
平野 俊夫 量子科学技術研究開発機構 理事長
三木 邦夫 京都大学 大学院理学研究科 教授
水落 憲和 京都大学 化学研究所 教授
宮脇 敦史 理化学研究所 脳科学総合研究センター チームリーダー

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