調査報告書
  • 環境・エネルギー

バイオマスをCO₂吸収源としたネガティブエミッション技術

エグゼクティブサマリー

本報告書は、農地・森林・海洋におけるバイオマスを活用したネガティブエミッション技術について、国内外の動向と、今後の推進が期待される研究開発課題、さらにはネガティブエミッション技術の社会実装に向けて検討が必要な社会・経済的な課題を調査し、まとめたものである。
カーボンニュートラルの実現のためには、二酸化炭素を中心とした温室効果ガスについて、排出量と吸収量を均衡させ、実質ゼロにする必要がある。このためには、化石資源からの依存度を最小限にするためのエネルギーシステムの大規模な変革を必要としている。
一方で、CO₂排出量削減が技術的に困難な産業等も存在し、これを補填するためには、GHG 排出量をマイナスにするためのネガティブエミッション技術が必要不可欠となる。また、現在大気に蓄積されているCO2の濃度削減が必要であり、そのためにも長期的にネガティブエミッション技術が必要となる。
このネガティブエミッション技術には、沿岸部ブルーカーボン、岩石の風化、直接空気回収、植林、土壌炭素貯留などがある。それぞれの技術には課題があり、地域特性や予算なども考慮しながら組み合わせて活用していくことが重要である。
その中で農地、森林、海洋でのバイオマスを活用したネガティブエミッション技術は環境負荷とコストが他の技術と比較して低く、かつ、農林水産資源の有効利用の観点からも重要な技術とされている。
以上の背景を踏まえ、本調査では、バイオマスをCO₂吸収源としたネガティブエミッション技術に関する研究開発動向と社会実装に向けた課題を整理することを目的とし、調査を行った。
調査方法は、各国の政府レポートなどの資料調査および有識者へのヒアリングとワークショップなどである。海外の動向については、主に欧米での政策動向および進行中のプロジェクトや推進されている研究開発課題について整理した。国内動向は、革新的環境イノベーションで技術的な課題を整理した後、科研費の採択課題についてまとめた。
今後の推進が期待される研究開発課題については、2021年度に開催した2回のワークショップでの議論を元に、重要な課題をカテゴリーごとに大別した。
ネガティブエミッション技術の社会実装に向けて検討が必要な社会・経済的については、ヒアリング調査、ワークショップでの議論、資料調査から課題を整理してまとめた。

本調査結果の概要は以下の通りである。

  • 欧米では、ネガティブエミッション技術の重要性が強調されており、様々なプロジェクトが現在進行中である。特にCO₂の吸収源としての技術(緩和)だけではなく、気候変動への対応(適応)としての必要性が強調されていることが特徴として挙げられる。
  • 我が国で今後実施が期待される研究開発課題は、①温暖化進展段階でのCO₂吸収・放出の変化、②コベネフィットの観点からの研究、③炭素循環の総合評価、④植物の環境適応能力の向上、⑤植物の収穫性の向上、⑥バイオマス残渣の循環利用、評価、⑦生物機能利用と工学的オプションの組み合わせ技術などであり、緩和と適応の両側面を検討していく必要がある。
  • 社会実装に向けては、生態系への影響や、地場産業への影響などを含めた様々な社会的・経済的な課題がある。各々の地域でそれらを総合的に考慮していかなければならない。
  • 農地、森林、海洋それぞれの分野で、産官学の連携による具体的な取組も進められている。今後、より長期的に、より広範な活動を推進していくことが、カーボンニュートラルの実現のためには重要である。

今後はこれらの技術の社会実装に向けた具体的な取組への課題について整理していく予定である。

※本文記載のURLは2022年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。