戦略プロポーザル
  • 情報・システム
  • 材料・デバイス

量子2.0 ~量子科学技術が切り拓く新たな地平~

エグゼクティブサマリー

本プロポーザルは、量子力学で記述される原子、電子、光子などの微視的挙動を制御することによって、我が国の経済・産業、安全保障を発展させる可能性を有した量子科学技術の確固たる基盤を確立するための研究開発戦略である。ここでは、量子コヒーレンス、量子もつれなどの性質に対して、これまで困難であった制御と利活用が可能になることを「量子2.0」と定義し、関連する裾野の広い研究開発を、社会・経済的課題の解決や国家安全保障の確保と産業競争力の強化、学術分野・コミュニティと研究者ネットワークの形成へ向けた取組みとともに推進することを提案する。

Internet of Things(IoT)の普及により、様々な人・モノ・組織がネットワークにつながり、ビッグデータと呼ばれる大量のデジタルデータの生成、収集、蓄積が進みつつある。デジタル化社会の到来により確立されようとしている知的集約型社会では、国家間の相互依存関係が深化、複雑化するとともに、我が国の経済や国民の生活水準の維持・向上に対する様々な制約も顕在化しつつある。エネルギー・資源の枯渇、食料自給率の低迷や少子高齢化、人口減少などの社会的課題の解決と産業応用を視野に、急速に発展する兆しが見られる新しい技術体系の一つが量子科学技術である。

米国、欧州、中国をはじめとした主要国では、国家の安全保障や産業競争力を量子科学技術が左右するとの共通認識の下、極めて大規模な政府投資が行われている。これに対し我が国では、個々の研究が国際的に認知されつつあるものの、大学、研究機関、企業等において散発的に実施されているため、世界の新しい潮流を作るような主導的地位を関連分野で築くことができていない。国際競争力の強化と社会・経済的課題の解決、新しい学術分野の誕生を通じて、将来の成長・発展を導くような量子科学技術の研究開発を戦略的に推進することが必要である。

今後取り組むべき研究開発課題は、「量子コンピューティング・シミュレーション」、「量子計測・センシング」、「量子暗号・通信」、「量子マテリアル」の主要4領域に加えて、それらを深化、発展させるための「共通量子技術基盤」の領域で構成される。これらの研究開発課題には、社会実装に向けた検討が進められる実用化間近の技術もあるが、多くは未だ基礎研究段階にあるため、短中期(~10年)と中長期(~20年以上)の両側面から取り組んでいくことが重要である。研究開発の促進と費用対効果の最大化に向け、また国際的に認知・評価され国内外から優れた研究者を惹きつける場として、中核となる研究開発拠点の形成が不可欠である。

社会・経済的課題の解決に向け、「量子コンピュータ」、「量子計測・標準」、「量子医療・診断」、「量子セキュリティ」、「トポロジカル材料」の5つを戦略的推進課題として研究開発を進めることを提案する。また、我が国の強みと弱みを勘案した上で優位性確保を意識しつつ国際連携を図るとともに、標準化、知的財産管理による国家安全保障の確保と産業競争力の強化が必要である。さらに、研究開発を長期的に支えられるような学術分野・コミュニティと研究者ネットワークを形成するため、分野・領域の連携、多様化、国内外における人材の育成・頭脳循環が持続的に行えるような政策的支援が求められる。

※本文記載のURLは2020年1月時点のものです(特記ある場合を除く)。