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2025年10月8日

北川 進 博士
ノーベル化学賞受賞をお祝いして

京都大学 理事・副学長、特別教授の北川 進 博士がノーベル化学賞を受賞されることに対して、心からお慶び申し上げます。

今回の北川博士の受賞は「金属有機構造体(Metal-Organic Frameworks、MOF)※1の創出」に対し贈られることになりました。北川博士は、世界に先駆けてMOFの合成およびコンセプトの確立に成功しました。この材料は、金属イオンを利用して有機化合物を3次元的に組み上げ、ナノメートルの微小なあなが無数に空いた多孔性構造により、その孔にガスを吸着・貯蔵できるなど多彩な機能を持つことから、世界中の研究者がこの新しい研究分野に参画し、新たな研究の潮流が生まれました。

多孔性材料としては従来、活性炭やゼオライトなどがあり、吸着材として広く利用されていましたが、これらをしのぐ機能を構造的に柔らかい有機物で作ったことはそれまでの固定概念を覆すものでした。さらに、金属と有機物の組み合わせでその孔の大きさや形状を自在に設計できる技術を確立し、孔への分子の吸蔵・吸着現象の理解を深めたことも、北川博士の功績です。その成果は気体の吸着、貯蔵、分離技術、伝導性材料や触媒材料などへの応用展開にも寄与するだけでなく、環境保全やエネルギー問題への貢献が期待されています。

北川博士の受賞を心からお祝いするとともに、今後、JSTは日本の科学技術の発展に貢献できるよう、より一層の努力を続けていく所存です。

2025年10月8日
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)
理事長 橋本 和仁

10月31日、ノーベル化学賞受賞の北川進博士が
JSTを来訪され、橋本和仁理事長と懇談されました。

JSTとの関係(参考)

JSTでは、北川博士に戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)※2の研究総括をお願いし、2007年12月から約6年間にわたり「北川統合細孔プロジェクト」※3を実施しました。この間、新しい機能を持つさまざまなMOFを次々と発表し、その成果は学界のみならず産業界にもインパクトを与えています。

また、2012年10月から5年間、戦略的創造研究推進事業 研究領域「低エネルギー、低環境負荷で持続可能なものづくりのための先導的な物質変換技術の創出」(ACT-C)※4において、北川博士は「多孔性配位高分子を反応場に用いたメタノール合成の開発」の研究代表者として、多孔性金属錯体を触媒として用いた先導的な物質変換技術の創出を目指した研究を実施しました(2018年3月終了)。

さらに2013年12月から、北川博士は、同年にJSTが新たに開始した戦略的創造研究推進事業 ACCEL※5において、「PCPナノ空間による分子制御科学と応用展開」の研究代表者として研究開発を実施しました(2018年3月終了)。ACCELでは、ERATO「北川統合細孔プロジェクト」の研究成果をさらに発展させ、多孔性金属錯体のガス吸蔵・放出能力を最大限に生かし、省スペース、省エネルギーで高効率なガス分離技術の実現に向けた研究開発を行うとともに、特殊な元素を含まないより安価なPCPの開発や大量合成に着手するなと、学術的に注目度の高い多孔性金属錯体の工業的ポテンシャルを示す成果を挙げています。

そして、それらの基礎研究の成果を元に、2013年12月より1年間、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)※6(シーズ顕在化タイプ)の研究課題「イオン伝導性配位高分子を用いた燃料電池への応用研究」に取り組まれました。続いて2015年11月にA-STEP(シーズ育成タイプ)にも採択され、同年12月から4年余りの間、研究課題「イオン伝導性配位高分子を電解質に用いた燃料電池の研究開発」において、産学共同による実用化を目指した研究開発に取り組まれました。また、2020年12月からの約2年間は、産学共同(本格型)の研究課題「多孔性配位高分子を用いた高性能メタン吸着材料の開発」において、産学共同による実用化を目指した研究開発に取り組まれました。

さらに、2024年4月より、戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)※7の研究領域「材料の創製および循環に関する基礎学理の構築と基盤技術の開発」の研究総括を務められ、環境問題や資源問題に関する材料の創製および循環に関する基礎学理の構築と基盤技術の開発および後進の育成に精力的に取り組まれています。

2025年10月からは、グローバル卓越人材招へい研究大学強化事業(EXPERT-J)※8における京都大学の事業統括を務められています。

※1 金属有機構造体(Metal-Organic Frameworks、MOF):
有機化合物が、金属イオンに配位結合した化合物のことを一般に金属錯体といいます。金属イオンと有機化合物との組み合わせは無数にあり、これらを組み合わせることによって、多様な構造を作ることができます。これを利用し、有機化合物を3次元的に組み上げ、その中に、多くの微細な孔(細孔)を持つ多孔性金属錯体を形成させることができます。この多孔性金属錯体の細孔はさまざまな分子の吸着機能を有するだけでなく、細孔を利用した分子ふるいや細孔を鋳型とした分子合成、また触媒機能、さらにはMOFを平面状としてデバイスに組み込むことにも注目が集まっています。この構造は多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymer、PCP)とも呼ばれます。近年では、有機化合物を組み上げる手段が配位結合に留まらず、共有結合や水素結合を利用する物質群も合成され、本コンセプトは拡大し続けています。
※2 戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO):
トップダウンで定めた戦略目標・研究領域において、組織・分野の枠を超えた時限的な研究体制を構築して、イノベーション指向の戦略的な基礎研究を推進します。研究総括が自らの研究構想の実現を目指して研究プロジェクトを指揮し、科学技術の源流をつくり、社会・経済の変革をもたらす科学技術イノベーションの創出に貢献します。
※3 北川統合細孔プロジェクト:
多孔性金属錯体の優れた機能性をさらに高めながら、多孔性金属錯体を特徴づける普遍的な構造、機能を体系的に確立し、さまざまな場において優れた機能を発揮できる物質の開発を行うこと、さらに、その新物質によってこれまで想像もされなかった機能発現の場を開拓することを目的として2007年12月に発足しました。
※4 戦略的創造研究推進事業 研究領域「低エネルギー、低環境負荷で持続可能なものづくりのための先導的な物質変換技術の創出」(ACT-C):
本研究領域は、低炭素社会の実現や、医薬品・機能性材料などの持続的かつ発展的な生産など、わが国のみならず世界が直面している諸課題の解決に向けて、触媒による先導的な物質変換技術を創出することを目指しています。ACT-Cは、2018年10月をもって全研究課題(53課題)を終了しました。
※5 戦略的創造研究推進事業 ACCEL:
戦略的創造研究推進事業で創出された世界をリードする顕著な研究成果のうち有望なものの、すぐには企業などではリスクの判断が困難な成果を抽出し、プログラムマネージャー(PM)のイノベーション指向の研究開発マネジメントにより、技術的成立性の証明・提示(Proof of Concept:POC)および適切な権利化を推進することで、企業やベンチャー、他事業などに研究開発の流れをつなげることを目指して実施されました。ACCELは2021年度をもって終了しました。
※6 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP):
A-STEPは大学・公的研究機関等で生まれた科学技術に関する研究成果を国民経済上重要な技術として実用化することで、研究成果の社会還元を目指す技術移転支援プログラムです。
本プログラムでは、大学等が創出する社会実装志向の多様な技術シーズの掘り起こしや、先端的基礎研究成果を持つ研究者の企業探索段階からの支援を、適切なハンズオン支援の下で研究開発を推進することで、中核技術の構築や実用化開発等の推進を通じた企業への技術移転を行います。ハンズオン支援等を通じて産学連携活動のノウハウを提供し、産学連携に取り組む研究者の裾野拡大を図ります。
A-STEPでは、大学等の研究成果の技術移転に伴う技術リスクを顕在化し、それを解消することで企業による製品化に向けた開発が可能となる段階まで支援します。研究開発の状況に応じて、リスクの解消に適した複数のメニューを設けています。
※7 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ):
わが国が直面する重要な課題の克服に向けて、独創的・挑戦的かつ国際的に高水準の発展が見込まれる先駆的な目的基礎研究を推進し、社会・経済の変革をもたらす科学技術イノベーションの源泉となる、新たな科学知識に基づく創造的な革新的技術のシーズ(新技術シーズ)を世界に先駆けて創出することを目的としています。そのために、研究総括が定めた研究領域運営方針の下、研究総括が選んだ若手研究者が、研究領域内および研究領域間で異分野の研究者ネットワークを形成しながら、若手ならではのチャレンジングな個人型研究を推進しています。
※8 グローバル卓越人材招へい研究大学強化事業(EXPERT-J):
海外から日本人研究者をはじめとした優秀な若手研究者・博士後期課程学生を受け入れ、活躍させるための具体的計画を有する日本トップレベルの大学を公募で選定し、支援を実施します。国際頭脳循環の推進に向け、内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局が 2025 年 6 月 13 日に取りまとめた“J-RISE Initiative”の実現に向けた緊急的取り組みとして、 大学ファンドの運用益を活用して実施するものです。