信頼される科学、活躍できる研究者へEmpowering Trustworthy Science, Enabling the Next Generation
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日本科学未来館 7階 未来館ホール
出展者名
日本科学振興協会
Japanese Association for the Advancement of Science(JAAS)
プログラム概要
<科学への信頼を育む>
トランプ政権では科学研究支援が大幅にカットされようとしており、また反ワクチン運動の旗手の一人が厚生部門のトップに就任しました。日本においても、科学に対する信頼が揺らいでいることは、原発事故や新型コロナのパンデミックの際に浮き彫りとなりました。この問題に対する特効薬はありませんが、科学の社会への融和を目標とした取り組みを続けることが大切です。このセッションでは、パネリストから科学コミュニケーションの重要性、科学コミュニケーションの実践についてお話しいただき、社会と研究者のミスコミュニケーションが生じる理由、身近な場における科学との付き合い方といったトピックについて意見交換します。
<Fostering Trust in Science>
Under the Trump administration, significant cuts were proposed to scientific research funding, and one of the leading figures of the anti-vaccine movement was appointed to a top position in the Department of Health and Human Services. In Japan as well, trust in science has been shaken, as highlighted by the nuclear accident and the COVID-19 pandemic. Although there is no silver bullet for this issue, it is vital to continue efforts aimed at harmonizing science and society. In this session, panelists will discuss the importance of science communication and share practical approaches. We will exchange views on topics such as why miscommunication between society and researchers occurs, and how we can engage with science in everyday contexts.
<日本の研究力を再生する>
トップ10%論文の比率の低下など、近年、日本の研究競争力は著しく低下し、世界的プレゼンスが失われつつあります。その背景には、研究資金の過度な選択と集中や、改正労働契約法の影響による有期雇用の常態化など、研究人材を取り巻く環境の悪化が挙げられます。とりわけ若手研究者にとって雇用の不安定さは深刻であり、長期的な視点に立った研究の継続やキャリア形成が困難となっています。研究の基盤を支えるのは人材であり、その育成と処遇改善なくして日本の科学技術の再生はあり得ません。博士人材がアカデミアのみならず産業界・官界においても力を発揮できる社会の実現に向けて、制度改革と政策支援の在り方を多角的に議論します。
<Revitalizing Japan through Science and Technology Innovation
Powered by Dialogue and Strategic Partnership among Academia, Industry, and Government>
In recent years, Japan's research competitiveness has declined significantly, as reflected in Japan's decreasing global share of research papers in the top 10% of most-cited articles, leading to a diminishing global presence. This decline is driven by a deteriorating research environment, including the excessive concentration of research funding and the widespread shift toward fixed-term employment contracts following revisions to the Labor Contract Act. The resulting job insecurity is especially severe for early-career researchers, making it difficult to pursue long-term research or build sustainable careers. Since human resources are the foundation of research, Japan cannot revitalize its science and technology without investing in the development and fair treatment of researchers. This session will explore how institutional reforms and policy measures from multiple angles to build a society where PhD holders can contribute not only in academia but also in industry and government.
登壇者プロフィール
<科学への信頼を育む>
堀口 逸子 HORIGUCHI Itsuko
慶應義塾大学
長崎大学歯学部卒。長崎大学大学院医学研究科公衆衛生学専攻修了。博士(医学)。順天堂大学医学部助教、長崎大学広報戦略本部准教授、東京理科大学薬学部教授を経てフリーランス。2015年より2期6年内閣府食品安全委員会委員、厚生労働省新型コロナウイルスクラスター対策班にて旧Twitterアカウント「新型コロナクラスター対策専門家」開設及び運用を担当。環境省エコチル調査企画評価ワーキンググループ委員等を務める。
田中 幹人 TANAKA Mikihito
早稲田大学
早稲田大学政治経済学術院 教授。2003年、東京大学大学院修了(博士(学術))。国立神経研究所流動研究員、早稲田大学大学院科学技術ジャーナリスト養成プログラム助手等を経て2021年より現職。計算社会科学や科学技術社会論をベースに、科学的リスク情報がマス/ソーシャルメディアを通じてどのように議論されているか、どう議論されるべきかなどの問題の研究をおこなっている。
髙橋 明子 TAKAHASHI Akiko
千葉大学
千葉大学大学院医学研究院 人工知能(AI)医学 特任助教。生態学分野にて博士(農学)を取得。大学研究員等を経て、2016年に日本科学未来館の科学コミュニケーターとして入職し、感染症をはじめ生命医療に関わるイベントを企画・実施してきた。2021年より現職。
詫摩 雅子 TAKUMA Masako
科学コミュニケーター
千葉大学大学院理学研究科修士課程(生物学専攻)を修了後、1990年に日本経済新聞社に入社。科学技術部の記者(バイオ担当、厚生相記者クラブ担当など)、日経サイエンスの編集者・記者・ウェブ担当を経て、2011年に日本科学未来館に入職。広報担当ののち、ノーベル賞などの時事問題、生命科学、生命倫理に関するイベントの企画・統括。2023年よりフリーランス。
田中 智之 TANAKA Satoshi
京都薬科大学 JAAS研究環境改善WG
京都薬科大学教授。博士(薬学)。京都大学、武庫川女子大学、岡山大学を経て2018年より現職。アレルギー、特にマスト細胞を対象とした基礎研究を行っている。並行して研究公正の問題にも取り組んでいる。「科学者の研究倫理」(2018年、共著、東京化学同人)、「あなたの知らない研究グレーの世界」(2023年、編著、中外医学社)
<日本の研究力を再生する>
古川 哲史 FURUKAWA Tetsushi
東京科学大学 執行役副理事(総合戦略担当)執行役副学長(研究・産学官連携担当)
東京医科歯科大学医学部卒業。内科・循環器内科研修、大学院医学研究科博士課程修了後、マイアミ大学留学。学術振興会特別研究員、東京医科歯科大学難治疾患研究所・助手、秋田大学・助教授を経て、2003年より東京医科歯科大学難治疾患研究所生体情報薬理学分野教授。東京医科歯科大学教育研究評議会評議員、副理事・副学長(改革推進・広報担当)、理事・副学長(研究・改革担当)を歴任し、2024年10月より現職。
磯谷 桂介 ISOGAI Keisuke
中部大学 理事
1984年文部省入省 石川県企画開発部参事、北陸先端科学技術大学院大学助教授、東北大学総長主席補佐、政策研究大学院大学事務局長、文部科学省大臣官房審議官(研究開発担当)、名古屋大学理事・事務局長、文部科学省研究振興局長、科学技術・学術政策研究所長、中部大学副学長・先端研究センター教授等を経て、2023年6月より中部大学理事・先端研究センター教授。博士(工学)。専門分野:科学技術・学術政策
金井 良太 KANAI Ryota
株式会社アラヤ 代表取締役
株式会社アラヤ創業者。2000年京都大学理学部卒業後、2005年オランダ・ユトレヒト大学でPhD取得。米国カルフォルニア工科大学、英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンにて研究員。JSTさきがけ研究員、英国サセックス大学准教授を経て、2015年にアラヤを創業。神経科学と情報理論を融合させ、AIの意識実装に向けた研究やAIと脳科学の実用化に取り組む。2020年より内閣府ムーンショット型研究開発事業のプロジェクトマネージャーを務める。
大野 敬太郎 OHNO Keitaro
衆議院議員
自民党 香川県第三選挙区。平成5年 東京工業大学大学院を修了し、富士通株式会社勤務、カリフォルニア大学バークレー校での客員フェローを経験する。平成18年東京大学産学官連携研究員として情報理工学のPhDを取得。その後、政界に入る。これまでに内閣府副大臣(経済安全保障・防災等担当)や防衛大臣政務官を歴任。現在は党科学技術イノベーション戦略調査会会長や党政務調査会副会長などを務める。
市川 衛 ICHIKAWA Mamoru
武蔵大学 社会学部 メディア社会学科 准教授、医療ジャーナリスト
医療の「翻訳家」。00年東京大学医学部卒業後にNHK入局。医療・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員を期に(一社)メディカルジャーナリズム勉強会を立ち上げ代表に就任。20年より広島大学医学部客員准教授。25年より武蔵大学社会学部メディア社会学科准教授。主な作品にNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。
三輪 秀樹 MIWA Hideki
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神薬理研究部 室長、JAAS研究環境改善WG
東京工業大学生命理工学部卒。東京大学大学院医学研究科修了。博士(医学)。ハーバード大学・Visiting assistant professorなどを経て、2018年より現職。統合失調症など精神疾患の病態生理学に関する基礎研究を行っており、自身の研究成果が社会実装に結びつくことを夢見ている。2002年株式会社リバネス設立に参画し、「理科離れ」「異分野交流」に興味を持ち、社会的貢献も目標としている。
タイムテーブル
<科学への信頼を育む>(10:30−12:00)
1.趣旨の簡単な説明(田中智) 5分
2.科学コミュニケーションの意義(田中幹) 15分
3.科学コミュニケーションの実践:研究者から(堀口) 10分
4.科学コミュニケーションの実践:コミュニケーターから(髙橋) 10分
5.ディスカッション 40分
6.まとめ:科学への信頼を高めるコミュニケーションとは 10分
<日本の研究力を再生する>(13:30−15:00)
1.オープニング (三輪)5分
2.テーマ話題提供 (古川)25分
3.パネルディスカッション (モデレータ(市川)+パネリスト) 35分
4.来場者との対話セッション 20分
5.クロージング (三輪)5分
✏️出展レポート
話し合った未来像
科学の社会への融和を目標とした取り組みとして今回のセッションが企画されました。科学が社会へ融和していく上で必須の要素である科学コミュニケーションについて、3名のパネリストから話題提供がありました。早稲田大学の田中幹人さんは、ご自身の最近の研究成果から、日本人の科学観、ソーシャルメディアの特性、およびそれをふまえた情報発信のあり方を発表されました。慶應義塾大学の堀口逸子さんは、研究者からの発信に焦点をおいて、特に科学者の責任を強調されました。千葉大学の高橋明子さんは、科学コミュニケーターの立場から、対話の相手への敬意をベースにした信頼関係構築の重要性を指摘されました。科学コミュニケーションの特性や難しさ、社会に与える影響を研究者、広報担当者、メディア、そして広く社会が理解、共有することが、社会への科学の融和につながるという未来像が議論されました。
意見・論点
パネルディスカッションでは、科学コミュニケーションを巡る様々な課題が取り上げられました。
具体的には、ソーシャルメディアによる対立の増幅の下でのコミュニケーションの難しさ、研究領域による情報発信のあり方の違い、「成果を誇張する(盛る)発表」、そして研究者の無責任な発信といった問題点が指摘されました。
フロアからは非専門家が断定的に誤情報を発することが容易に行われる中、科学者からの情報発信はますます困難になっているという指摘がありました。さらに、生成AIの普及がこの問題を一層難しくする可能性があるとの懸念も示されました。
反ワクチン運動をはじめとする反科学と呼ばれるような動きも、近年では論文をエビデンスとして参照しており、学術的な情報の専門家による重み付けの重要性をどうやって社会で共有していくかは大きな課題と考えられます。
これらの課題への対処法について、パネリストからは明確な結論は出なかったものの、「丁寧な姿勢で正確なコミュニケーションを継続することが、社会との信頼関係構築につながる」という意見が出されました。対話が困難な相手との議論では、説得を目標とするのではなく、観客を意識した「演劇的な対話」が効果的という意見も出されました。また、科学の知見にはアップデートが伴うことを社会で共有することも、専門家への信頼を醸成するためには必要な要素であるという指摘もありました。
キーワード
科学コミュニケーション、信頼関係の構築
来場者との対話から得られたこと・今後に生かせること
本セッションは、科学におけるミスコミュニケーションが社会に大きなマイナスをもたらすことがあるという問題意識から、それを防ぐためにどのような科学コミュニケーションが必要かという問いを立てて企画いたしました。
しかし、話題提供や会場からのご意見を総合的にふまえますと、90分という限られた時間で取り扱うには、やや大きすぎるテーマであったかもしれません。 一方で、こうした全体像を捉える総論的な議論は、次の具体的な段階に進むためには、非常に必要なステップでもあると認識しております。このセッションを通じて、参加者の皆様にたくさんの興味深いトピックが提示されたのではないでしょうか。