当事者の声からインクルーシブ社会を目指すためにAiming for an inclusive society based on the voices of those involved
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テレコムセンタービル 5階 オープンスペースE
出展者名
当事者の声からインクルーシブ社会を目指す団体
An organization striving for an inclusive society, guided by the voices of those directly affected
プログラム概要
当事者を含む参加者全員で社会における「見えにくい困りごと」を見つけ出し、課題の発見からアイデアの創出まで取り組む参加型アイデアソンです。たとえば、車椅子利用者と狭いエレベーターで降りるときの工夫は知ることで誰もが取り組める工夫です。また、音声案内コード付き点字ブロックは障害を問わず誰にとっても便利なユニバーサルな仕組みです。本アイデアソンでは、障害の有無や種類を問わず多様な人が意見を出し合い、技術やデザインの活用した、誰もが行動しやすく暮らしやすい仕組みを一緒に考えます。小さな気づきや、まだ表に出ていないニーズをすくい上げながら、インクルーシブ社会の実現を一緒に楽しんで目指しましょう!
This is a participatory ideathon where all participants, including those with lived experiences, work together to identify the “invisible challenges” in society and address them from problem discovery to idea generation. For example, learning the simple consideration of how to exit a narrow elevator smoothly with a wheelchair user is something anyone can put into practice once they know it. Likewise, tactile paving blocks with audio guidance codes are a universal design that is convenient for everyone, regardless of disability. In this ideathon, people with diverse backgrounds—regardless of the presence or type of disability—will share ideas and explore how to use technology and design to create systems that make it easier for everyone to act and live comfortably. By uncovering small but important insights and needs that have not yet surfaced, let’s enjoy working together toward the realization of an inclusive society!
登壇者プロフィール
川口育子
NPO法人日本インクルーシブクリエイターズ協会(ナイカ)副代表理事
旅行代理店に勤務していた20代で、網膜色素変性症と診断。31歳時、視野が半分になり障がい者と認定。広告代理店、ラジオディレクター、塾講師、営業など健常者の中で仕事をし、二人の子供を育てる。教育に熱く、経験を生かした子育てや受験期の親の相談には定評がある。世界遺産での朗読芝居の主演も行う。シブヤ大学で体験型講義も実施。
青木秀哲
梅花女子大学 教授、NPO法人ポリオ・ジャパン
専門は歯科口腔外科学ですが、ワクチン由来ポリオの当事者でもあります。生後10か月でポリオを発症し、45歳時にポストポリオ症候群を罹患しました。医療と工学の融合、特にロボットリハビリテーションを研究テーマとし、ポストポリオ症候群やポリオに関連する動作解析など、リハビリテーション工学の視点から研究を進めてまいりました。
本間英一郎
NPO法人日本インクルーシブクリエイターズ協会(ナイカ)代表理事
大手引越会社で現場・教育・品質管理に携わった後、2019年に日本インクルーシブ・クリエーターズ連盟を結成。音声ガイド付き点字ブロックの普及や視覚障害への理解促進に取り組み、2022年6月にNPO法人ナイカを設立。シブヤ大学で体験型講義も実施。現在、大手百貨店や企業に向けて、インクルーシブ社会実現のための研修を開催。
今井健登
ボッシュ株式会社/ゼロ会 共同発起人。
視覚障がい者の移動体験から着想した共助型モビリティプラットフォーム『Mobility Commons Collective 構想』を提唱。ゼロを目指してゼロから始める持続可能な脱炭素モビリティ社会の実現を志向し、最小限の情報アクセス保障を軸に自己決定と助け合いが両立する社会を目指す。AI・エネルギー・まちづくり/交通政策をつなぐ共創活動を展開中。
中島諒
某官公庁勤務
修士(情報理工学)。数理工学やコンピュータサイエンスのほか、特にデジタル領域における公共政策や行政のあり方について学ぶ。また、地域社会の振興を通じた政治や経済の立て直しに関心を持ち、複数の地域でコーチングやシビックテック活動に従事。現在は、デジタルが当たり前になる時代において、信頼の担保や適切なインセンティブ設計を行う方法を制度から実装まで様々な側面から探索中。
土肥栄祐
国立精神神経医療研究センター 神経研究所、NPO法人ディペックス・ジャパン
脳神経内科としての経験から臨床だけでは解けない課題に直面し、医学研究者へ転向。その後、より当事者に根差した課題解決とその社会実装へ取り組みたいと、患者会や当事者の方々と関わるようになりました。もっとみんなで、もっとインクルーシブな地域やコミュニティのために出来ることも日々考えています。
タイムテーブル
✏️出展レポート
話し合った未来像
今回のプログラムでは、「みんなでどこまで考える?みんなで創る共生社会」をテーマに、誰もが安心して暮らし、行動し、参加できるインクルーシブ社会の未来像を描き、単に「支援する/される」という関係ではなく、立場や特性を超えて“ともにデザインする”という発想の転換をめざしました。
インクルーシブデザインの基本思想である「誰かのための工夫が、みんなのための解決になる」という考え方を体感するには、参加者は当事者とともに現場目線で課題を見つけ、アイデアを形にする体験の共有が重要になります。
実際に、当事者の方の行動観察から始まり、気づきと課題出し、インタビューによる自分の中の当たり前の見直し、そして、Point of View(POV)を作成し、HMWQ(how might we questions)によるアイデア出しの方針づけ、そして、アイデア出しと、出たアイデアの中の1つを使った1分間寸劇によるプロトタイピング、これらを1時間半で、ギュッと盛り込み、”みんな”で実践するアイデアソンを行い、自然とみんなで考え対話する機会が生まれる仕掛けを設計しました。この中で、課題と共に、みんなの意見が反映される形で、”こうなったら良いよね”という未来像を話し合い、また同時に寸劇にて表現することで可視化し自分事に近づけることが出来たかと考えています。本取り組みを通し、誰にとっても便利な“ユニバーサルな仕組み”を考え社会実装することは、「共生社会の実現は日常の小さな気づきから始まる」という事を共有し、そこから導かれる未来像の共有に努めました。
意見・論点
セッションは、デザイン思考のプロセス(行動観察→POV作成→問いの設定→アイデア発想→寸劇)を基に進行しました。
参加者は4つのグループに分かれ、視覚障害のある方3名による3グループ、車椅子ユーザー2名が参加する1グループ、そして、各グループには付き添いの方1名が入り、そこに参加者4〜5名構成で進行しました。
観察・対話を通し、参加者自身の中にある思い込みや“当たり前”を見直しながら、共に課題を掘り下げました。議論では次のような論点が活発に交わされました。
- 困りごとは「支援」ではなく「共創」で解決するもの
- 行動観察によって初めて見えてくる潜在的なニーズの重要性
- AIやデジタルツールを“支援技術”ではなく“共感の媒介”として活用する可能性
- 当事者・開発者・市民が同じ立場で関われる場づくりの必要性
グループごとの寸劇では、現場の課題と感情が可視化され、観客からは「リアルで心に残った」「自分の生活にも関係がある」といった反応が相次ぎました。
まとめと事例共有に際して、「コード化点字ブロック」の開発と社会実装例や、サイエンスアゴラに先立って、運営側メンバーで当事者の方とチーム参加した東京AI祭のハッカソンでスマホを使用したバイブコーディングでPOCを行った例(ギブリー賞(スポンサー賞)を受賞)などの事例共有をさせて頂き、「科学の進歩は、これをどう使用するかという点がより大切になると感じた」という意見・反応を頂くこともできました。
キーワード
インクルーシブデザイン、共創・みんなでつくる、行動観察、当事者の声、デザイン思考、共感と問い、現場からの発想、AIとアクセシビリティ、コード化点字ブロック、カーブカット効果、寸劇によるプロトタイピング、ユニバーサルデザイン、他人事から自分事へ
これらのキーワードは、インクルーシブ社会を考える上での“共通言語”として共有され、次の実践への道筋となりました。
来場者との対話から得られたこと・今後に生かせること
来場者との対話を通じて、「自分の身近な環境にも“見えにくい困りごと”がある」という気づきを得ることができました。対話をきっかけに、他の参加者がその場で解決のアイデアを出し合う様子は、まさに“共創の場”そのものでした。
アンケートでは、全体の満足度は5段階評価で平均4.4と高評価をいただきました。「当事者のリアルな声を聞けた」「デザイン思考を初めて体験できた」といったコメントのほか、自由記述では次のような感想も寄せられました。
「当事者と一緒に考えることで、初めて“本当の課題”が見えた」
「寸劇でアイデアが“人の気持ち”に変わる瞬間を感じた」
「共感を形にするプロセスが楽しかった」
一方で、聴覚障害のある参加者とのコミュニケーション環境が十分に整っていなかった点は、大きな反省として今後の改善課題といたします。また、1時間半という実施時間については、大学生からは「ちょうどよい」、社会人や当事者の方からは「少し短い」との声をいただきました。短時間で参加しやすい一方で、不完全燃焼になりやすい側面もあり、次回は時間配分や進行の工夫を重ねてまいります。
今回、数日前の急なお願いにも関わらず、視覚障害当事者として井上直也さん、山岸小百合さん、車椅子ユーザーとして池本智彦さんにご協力いただきました。また、当日にも関わらず大山さん、浜さんには付き添い・ファシリテーターとして快くご参加いただきました。予想を超える多くの方々にご来場いただき、運営側も柔軟に、インクルーシブなご支援をいただけたことに心より感謝申し上げます。
今後は、今回の経験を糧にコンテンツをより良いものへと進化させるとともに、地域・NPO・企業・行政が連携し、“現場発のインクルーシブデザイン”を推進していきます。“みんなで創る社会”を合言葉に、誰もが暮らしやすい未来を共にデザインしていくことを目指します。
このアイデアソンの開催はゴールではなく、助成金申請・学会発表・ブログ発信などを通じて、さらなる発展・展開へとつながっています。来場者との対話から得た学びやつながりが、新たな仲間づくりと活動の拡がりへと結びついたことこそが、今回得られた最も素晴らしい成果だと考えております。改めてこの様な機会を頂けたことを感謝申し上げます。引き続き、一緒に”みんな”で取り組める様に進めて参りたく存じます。