STSステートメント・サイエンスセッション2025STS Statement Science Session 2025
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テレコムセンタービル 5階 オープンスペースE
出展者名
九州大学科学技術イノベーション政策教育研究センター
Center for Science, Technology and Innovation Policy Studies, Kyushu University
プログラム概要
九州大学では、2012年度より「政策のための科学」教育研究拠点事業(SciREX事業)を推進しており、その一環として大学院における科学コミュニケーション教育を行っている。その中で大学院生に「STSステートメント」を作成させ、福岡市内で関催するサイエンスカフェで市民に向けて発表させ、その内容について市民とデイスカッションを行うことを義務付けている。「STSステートメント」とは大学院生の研究成果が将来において製品やサービスなどの携帯で社会に実装された場合に、社会に及ぼす影響を予測し、もしも問題が発生しそうな場合 (例えば環境問題等)は、それにどう対処するかをまとめた宣言 (ステートメント)である。それをサイエンスアゴラの場で実演し全国からの参加者との対話による交流を実現し、将来の研究者である大学院生と市民を隔てる垣根を乗り越えることを目指す。
Kyushu University has been promoting the Science for Policy Education and Research Center Project (SciREX Project) since the 2012 academic year, and as part of this project, it is conducting science communication education at the graduate school level. As part of this program, graduate students are required to create an “STS Statement” and present it to the public at a science café held in Fukuoka City, followed by a discussion with the public on the content of the statement. An “STS Statement” is a declaration that summarizes the potential social impacts of graduate students' research findings when they are implemented in society through products or services in the future, and outlines how to address any potential issues (such as environmental problems) that may arise. By presenting this at the Science Agora and facilitating dialogue with participants from across the country, the program aims to break down the barriers between graduate students, who are future researchers, and the general public.
登壇者プロフィール
小林 俊哉
九州大学 科学技術イノベーション政策教育研究センター 准教授
専門分野:科学技術政策、科学技術社会論
2013年度より九州大学にて文部科学省「政策のための科学」教育研究拠点事業・科学技術人材育成プログラムの大学院教育に従事している。
野島 大輔
九州大学大学院 科目等履修生
社会人院生として、STSステートメント「行政×デジタル技術導入にかかる課題とは?~介護現場とAI導入を例として~)」を作成し、サイエンスアゴラ2025に参加する市民との対話を行う。
鶴屋 奈央
九州大学大学院 科目等履修生
社会人院生として、STSステートメント「細胞内サイバネティック・アバターの遠隔制御によって見守られる社会の実現-」を作成し、サイエンスアゴラ2025に参加する市民との対話を行う。
江崎 丈裕
九州大学大学院 聴講生
社会人聴講生としてSTSステートメント「これからの脱炭素社会を見据えて-C.C.S プロセスの社会受容性-」を作成し、サイエンスアゴラ2025に参加する市民との対話を行う。
傳田 潤一
九州大学大学院 科目等履修生
社会人院生として、STSステートメント「中小企業の生成AIとのつきあい方」を作成し、サイエンスアゴラ2025に参加する市民との対話を行う。
芥川 愛子
政策研究大学院大学 科学技術・イノベーションプログラム修了
大学院修了者として、STSステートメント「AIが当たり前な時代の人間の役割とは ~本物の知を生み続ける~」を作成し、サイエンスアゴラ2025に参加する市民との対話を行う。
タイムテーブル
司会進行:小林 俊哉 九州大学 科学技術イノベーション政策教育研究センター 准教授
以下の5名の発表候補者から上記のSTSステートメント発表者3名を登壇者として選出いたします。
①STSステートメント「行政×デジタル技術導入にかかる課題とは?~介護現場とAI導入を例として~)」
野島 大輔 九州大学大学院 科目等履修生
②STSステートメント「細胞内サイバネティック・アバターの遠隔制御によって見守られる社会の実現-」
鶴屋 奈央 九州大学大学院 科目等履修生
③STSステートメント「これからの脱炭素社会を見据えて-C.C.S プロセスの社会受容性-」
江崎 丈裕 九州大学大学院 聴講生
④STSステートメント「中小企業の生成AIとのつきあい方」
傳田 潤一 九州大学大学院 科目等履修生
⑤STSステートメント「AIが当たり前な時代の人間の役割とは ~本物の知を生み続ける~」
芥川 愛子 政策研究大学院大学 科学技術・イノベーションプログラム修了 ※STSステートメントの演題は事情により変更することがあります。
本企画は、科学技術社会論学会の後援をいただいています。
https://jssts.jp/
✏️出展レポート
話し合った未来像
①STSステートメント「細胞内サイバネティック・アバターの遠隔制御によって見守られる社会の実現-」(鶴屋 奈央 九大大学院 科目等履修生の発表) 細胞内サイバネティックアバターが実現することで、疾患が深刻化しない前に治療ができれば素晴らしいが、その実現のための課題は何か。研究の成功のためには異分野間の研究者の連携が必須。
②STSステートメント「中小企業の生成AIとのつきあい方」(傳田 潤一 九大大学院 科目等履修生の発表)
AIの活用により中小企業の生産性を向上させること。そのために、中小企業において、どのような組織的対応が必要になるのか。AIが中小企業にとって本当に「福音」になるのか?
③STSステートメント「AIが当たり前な時代の人間の役割とは ~本物の知を生み続ける~」(芥川 愛子 政策研究大学院大学 修了者の発表)AIが「3人目の友達」になる未来が来ている。24時間休憩なしに働くAIが労働市場に登場する。AIの時代に「人間の知」には、どのような価値を持つのか?AIに代替できない「知」とは何か?
意見・論点
①STSステートメント「細胞内サイバネティック・アバターの遠隔制御によって見守られる社会の実現-」(鶴屋 奈央 九大大学院 科目等履修生の発表) 細胞内サイバネティックアバター研究を推進する上での課題について。⇒ アバターを挿入した細胞と体外の医療者との通信方法の確立がこの研究の成功の鍵。そのためにICT系の研究者と連携している ⇒ ICT系研究者と生物系研究者の時間感覚の相違が課題。ICT系研究者の時間間隔はミリセカンド単位だが、生物系研究者の時間感覚は遥かに長い。
②STSステートメント「中小企業の生成AIとのつきあい方」(傳田 潤一 九大大学院 科目等履修生の発表) AIを中小企業で活用していく上での課題は何か。⇒ AIを活用できる人材が必要。人材の確保と育成が課題。中小企業経営者自身がAIの効用・意義について十分に周知されていない。⇒ どのように周知させるかを検討すべき。
③STSステートメント「AIが当たり前な時代の人間の役割とは ~本物の知を生み続ける~」(芥川 愛子 政策研究大学院大学 修了者の発表) AIの答えは、使用時間が長引くにつれて、次第に多様性を失っていく。このことに、どう対処すべきかが課題。AIに依存する傾向をどう考えるべきか?
キーワード
①STSステートメント「細胞内サイバネティック・アバターの遠隔制御によって見守られる社会の実現-」(鶴屋 奈央 九大学大学院 科目等履修生の発表)
細胞内サイバネティックアバター、ICT系研究者と生物系研究者の時間感覚の相違
②STSステートメント「中小企業の生成AIとのつきあい方」(傳田 潤一 九州大学大学院 科目等履修生の発表)
AI人材の育成・確保、情報漏洩に対する安全対策
③STSステートメント「AIが当たり前な時代の人間の役割とは ~本物の知を生み続ける~」(芥川 愛子 政策研究大学院大学修了者の発表) 生成AIの「モデル崩壊」(9世代後のAIが使い物にならなくなる現象)、「ソニーのウォークマン」、「東海道新幹線」などで「暗黙知」が果たした役割、AI活用で浮いた時間を企業の現場での暗黙知継承に活用したい。ユーザーの「AI依存」の課題。AIの知的活動は、ユーザーの提供した情報、その中には守秘義務に関わる情報もあるはず。そのことをどう考えるべきか。
来場者との対話から得られたこと・今後に生かせること
①STSステートメント「細胞内サイバネティック・アバターの遠隔制御によって見守られる社会の実現-」(鶴屋 奈央 九大大学院 科目等履修生の発表) 最初の発表内容に「細胞内に何かを挿入する」という説明がなかった。司会者の説明で初めて、そのことが分かったので、キーワードとしてに「細胞内に~」の概念は明確に説明した方が良い。
②STSステートメント「中小企業の生成AIとのつきあい方」(傳田 潤一 九州大学大学院 科目等履修生の発表)
AI活用の上での情報漏洩に対する安全対策をどうすべきかを、組織内で十分に議論しておく必要性の認識など。
③STSステートメント「AIが当たり前な時代の人間の役割とは ~本物の知を生み続ける~」(芥川 愛子 政策研究大学院大学 修了者の発表) 「AIの回答」への人間による評価が大事。どうすれば適切な評価ができるようになるかを考える必要がある。このことでも暗黙知の認識は重要である。問題意識を共有するコミュニティを形成することが重要。