出展者名

J-PEPT 患者協働 チーム

Japanese Patient Engagement Promotion Training Team

プログラム概要

普段あまり医療にかからない方にとって、医療は遠い存在に感じるかもしれません。しかし、医療は、日頃の健康づくりからちょっとした相談まで応じてくれる、身近な存在です。
特にプライマリ・ケアや総合診療は、ケガや病気の治療だけでなく、あなたの暮らし全体を支える大切な医療です。
このイベントでは、普段医療に触れる機会の少ない方々に、医療を身近に感じてもらい、医師をはじめとする医療者と気軽に話せる場を提供します。私たちの生活に欠かせない医療を「自分ごと」としてとらえ、健康について改めて考えるきっかけにしていただけたら嬉しいです。

For people who don't often need medical care, it might feel like a distant topic. However, healthcare is actually a familiar part of our lives, there to support everything from daily wellness to minor health concerns.
Primary care and general medicine are especially crucial, as they not only treat injuries and illnesses but also support your overall well-being.
This event offers people with little exposure to healthcare a chance to feel more connected to it and to talk casually with doctors and other medical professionals. We hope it will be an opportunity for you to view essential healthcare as a personal matter and to reconsider your own health.

登壇者プロフィール

青木 拓也 AOKI Takuya

東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 臨床疫学研究部

2008年昭和大学医学部医学科卒。2013年医療福祉生協連 家庭医療学レジデンシー・東京 後期研修修了。2015年東京医科歯科大学大学院 医療政策学修士課程修了。2019年京都大学大学院医学研究科 博士課程修了。2020年より現職。
総合診療専門医、家庭医療専門医、臨床疫学認定専門家
日本プライマリ・ケア連合学会 理事、医療の質・患者安全委員会委員長
第31回日本医学会総会 奨励賞(社会医学系)受賞

井上 恵子 INOUE Keiko

医療過誤原告の会

2つのがんの経験者。がんの診断の過程で検査過誤に遭った経験から、現在、医療過誤原告の会の役員として被害者の相談支援を行っている。また、医療について学ぶ必要性を感じ、認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOMLの講座を受講。2018年~大学病院の倫理審査委員会委員、2019年~2020年PMDA救済業務委員会委員、倫理指針不適合にかかわる第三者委員会委員などを務めている。

栗原 健 KURIHARA Masaru

名古屋大学 医学部附属病院 患者安全推進部

2015年日医大卒。同愛記念病院、浦添総合病院で勤務後,米ミシガン大学へ留学中に医療の質・患者安全の領域の重要性を意識するようになり、帰国後は浦添総合病院でホスピタリスト部門の立ち上げに携わる傍ら,最高質安全責任者CQSOプロジェクトを修了。 名大病院患者安全推進部を経た後、厚生労働省で医療安全施策を担当。2023年より現職。 現在は行政の政策参与等の活動の他、患者安全に関する実務・普及・啓発を行っている。

安本 有佑 YASUMOTO Yusuke

板橋中央総合病院 総合診療科 救急総合診療科診療部

2014年 鳥取大学医学部医学科卒業
2014年 島根県松江市立病院 初期研修医
2016年 練馬光が丘病院 総合内科専攻医
2019年 板橋中央総合病院 総合診療内科
2020年 帝京大学大学院 公衆衛生学研究科 修士課程 入学
2022年 帝京大学大学院 公衆衛生学研究科 修士課程 卒業
2022年 板橋中央総合病院 総合診療内科 医長
2024年 板橋中央総合病院 救急総合診療科 医長

吉田 智美 YOSHIDA Tomomi

筑波大学 理工情報生命学術院 システム情報工学研究群

1993年中京大学体育学部健康教育学科卒。大学卒業後は医療関連企業にて営業、企画、教育業務に従事。働きながら2005年立教大学ビジネスデザイン研究科(MBA)修了。2015年よりフリーで医療・健康に関連する事業に携わる。現在、筑波大学理工情報生命学術院システム情報工学研究群博士後期課程。研究分野は医療・ヘルスケアサービス、医薬品産業、患者・市民協働参画、医療の質、患者協働。

タイムテーブル

オープニング(吉田)
話題提供①「プライマリ・ケアって何だろう」(栗原)
話題提供②「プライマリ・ケアの体験」(井上)
ディスカッション「私たちの健康と身近な医療」
意見共有&対話セッション
まとめ「総合診療」(青木)

✏️出展レポート

話し合った未来像

私たちが目指すのは、「患者の体験」を起点に、よりよいプライマリ・ケアを(ともに)デザイン(Co-Design)し、患者・市民一人ひとりの生活を豊かにすることです。
我が国では、身近な健康相談や医療の選択について「かかりつけ医」が必ずしも相談に乗ってくれるとはかぎらず、それらに対応できる「プライマリ・ケア」や「総合診療」が少しずつ医療現場に広まりつつあります。また制度としても、「かかりつけ医機能報告制度」がスタートしています。しかし、そもそも「プライマリ・ケア」や「総合診療」でどのようなことをしてくれるのか、また、どこに行けばよいのかが一般市民にはわかっていないのが現状です。
本セッションでは患者自身の健康の困りごとに対し、もっと身近に相談できるような社会システムとしての「プライマリ・ケア」を実現するために、参加者自身やその家族の体験を中心に医療者との対話を行いました。プライマリ・ケアへの理解を深めながら、それぞれの体験や医療に関する疑問について意見を交換しました。

意見・論点

① かかりつけ医の定義と相互認識
かかりつけ医を巡っては、患者側と医師側の間で認識の不一致が生じるケースが課題である。患者が「かかりつけ」と思っていても医師がそう認識していない、あるいは頻回受診に対して「もう来なくてよい」と言われるなど、関係性の不一致が発生している。この論点はコロナ期にも話題化し、制度・現場運用の曖昧さが背景にある。「何回通えばかかりつけなのか」「近所に通っている=かかりつけなのか」といった基準の不明確さが指摘される。特に都市部(例:東京)では医療機関の選択肢が多く、口コミで専門性の高い医療機関を選ぶ傾向があり、特定の医師を固定の「かかりつけ医」とすることが難しい側面がある。
② 受診行動と満足の基準
患者の受診行動には、「行ったこと自体で安心」「薬が出ると良くなる気がして安心」など、受診の目的が心理的な安心感に偏る場合がある。心理的な安心は重要だが、医療の適正利用や、病状に応じた継続的なケアとのバランスを取る必要がある。
③ 看護職・薬剤師との関わり
医師以外では、看護師は「当たり外れが少ない」「コミュニケーションが取りやすい」という声があり、重要な存在である。また、かかりつけ薬剤師/近隣薬局の信頼できる薬剤師の存在は、服薬や健康に関する相談先として有用であり、医師以外の専門職との継続的関係が安心につながる点が重要視されている。
④ 専門科選択の難しさと総合診療医の役割
症状から適切な診療科を選ぶのは難しく、初診で「別科を紹介される」といった回り道が生じがちである。ここで期待されるのが、総合診療医(総合診療専門医)の役割だ。彼らは「まず受け止め、必要に応じて適切に専門へ紹介」するゲートウェイとして機能する。日本でも育成は進んでいるが、現状は数が少なく、地域差やアクセスに運不運があるのが現状である。
⑤ 医療情報の可視化・アクセス
市民の意思決定に資する情報、特に「症状→受診すべき診療科」や「医師の得意分野の一覧」といった医療情報のニーズが高い。公的機関も医療機関情報を公開しているものの、見づらさや探しづらさが課題となっており、アクセスの改善が求められている。
⑥ 参加者の所感・学び
参加者からは、医療従事者と市民の視点を行き来し、相互理解を深める場の価値が強調された。患者・市民の声を起点とした「患者協働」の重要性と、それによって「患者の理解向上⇄医療者の変化」という好循環を生み出す可能性が共有された。

キーワード

プライマリ・ケア、総合診療、患者協働、かかりつけ

来場者との対話から得られたこと・今後に生かせること

かかりつけ医を中心とした医療アクセスとケアの質の向上には患者・市民側と医療者との継続的な対話と相互理解が重要であることを改めて感じました。
以下のことを今後も積極的に推進していければと考えています。

  • 患者市民は適切な医療のかかり方について学び、医師以外の相談先として薬剤師、看護師なども積極的に活用すること
  • 患者市民が「必要な情報へ容易にアクセスできるような国・医療機関を挙げての体制整備を拡充する