ゲノムとAIで、自分がわかる? 自分で選べる?Genomes and AI: Will They Define You – or Will You?
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テレコムセンタービル 3階 オープンスペースB
出展者名
日本遺伝カウンセラー協会
Japanese Association of Certified Genetic Counselors
プログラム概要
膨大なゲノムデータと生活履歴がAIで解析される未来社会。ある人は「自分の疾患リスクを知り健康行動、予防につなげるため」、ある人は「将来の家族計画に備えて」ゲノムを調べる時代に。では、私たちはその情報をどう理解し、どう活用するのでしょうか?このワークショップでは、未来の具体的な社会シナリオをベースに、遺伝情報とともに生きる時代に必要な"ゲノムリテラシー"を問い、対話を通じて一人ひとりの視点を育みます。中高生から大人まで、科学と社会の接点を考える90分。
登壇者プロフィール
荒木もも子
島根大学医学部附属病院で認定遺伝カウンセラーと看護師をしています。特にゲノム情報とがんに興味があり、ゲノム情報を活用したがん予防について日々取り組んでいます。
遺伝性の病気と診断された方々が少しでも安心して過ごすことができる社会・医療体制が構築できるよう、勉強をしている最中です。サイエンスアゴラでは、参加者の皆さまから多様な考えを伺えることをとても楽しみにしています!
鈴木美慧
私の遺伝カウンセラーとしての原点は人々の「why?」に寄り添うこと。病気や健康に関する“なぜ”に一緒に向き合い、ゲノムや遺伝子の知識をわかりやすく伝えると同時に、人と人をつなぐことを大切にしてきました。Science Agoraでは、その輪をさらに広げ、多くの方が自分自身や家族の“なぜ”を考えるきっかけになる時間をつくりたいと思っています。
タイムテーブル
✏️出展レポート
話し合った未来像
AIがゲノム・生活・心理データを解析し、個人の健康リスクや進路までを提案する未来。
その中で、私たちは「どんな情報を、どう扱うべきか」「そのとき何を大切にしたいか」を、開発者・ユーザーそれぞれの立場で考えました。予測が高度化する社会で、自分の選択をどう考えるのかという視点が共有されました。
意見・論点
今回の対話では、参加者に「開発者側」と「ユーザー側」の両方の立場を体験してもらいました。ユーザー側は「親」「子ども」「医療者」「学校保健担当者」「医療政策者」など、具体的なロールを設定したことで、一人ひとりの感じ方や懸念がどこから生まれるのかが鮮明になり、議論の厚みが増しました。とくに印象的だったのは、以下のような点です。
「AIはどこまで“支援”で、どこから“介入”なのか?」という根本的な問いは、開発者・ユーザー双方の視点から繰り返し現れました。
一部の参加者からは治療ができるかどうか、その疾患の重症度やその先の対応先の有無に応じて「知らない自由」も大切にされるべきではないかという声が挙がりました。
特に、自分の情報を「誰が」「いつ」「どのように」知るかについて、子どもからは「知れるようになったら、早くから知っておきたい」という積極的な姿勢がある一方で、親は“知ることで判断や接し方が変わってしまわないか”と語る声もあり情報の取り扱いに関する立場の違いが見えました。
また、技術を“開発・提供する側”と“使う側”の立場を分けたことで、社会実装に必要な制度や環境整備の不足も議論されました。
「予防や治療に活かすには、遺伝情報をもとにした保険適用が整っている社会でないと、安心して知ることも使うこともできない」という意見は非常に本質的でした。技術だけでなく、法制度や社会保障の支えがあってはじめて、ゲノム情報を活用することが“選択”として成り立つのだという視点が浮かび上がりました。
キーワード
【個人と選択】
自己決定、知らない自由/知りたくない人への配慮
情報の重さ/提案されることのプレッシャー
【家族・関係性】
親の知る権利・子の知る権利
情報が関係性に与える影響
【技術と社会】
支援か介入か
社会実装の条件(制度・保険・教育)
【制度と信頼】
ゲノム医療法
公平性とアクセス
保険適用と予防医療の制度化、予算の確保
情報の守られ方
「安心して使える社会」とは何か
来場者との対話から得られたこと・今後に生かせること
中高生から大人まで、「ゲノムやAI」という一見難解なテーマでも、未来を想像する物語形式であれば対話が可能であると実感。
専門的な知識よりも、「自分だったらどう思うか」から始める問いかけが、対話の入口として有効だった。
特に印象的だったのは、親子で参加したケースにおける視点の違い。
子どもは「自分の体質や将来のために知っておきたい」と前向きな声が多く、
一方で親は「どこまでを・いつまで管理し、どのタイミングで本人に知らせるべきか」と揺れている様子が見られた。
こうした「立場によるでの情報のとらえ方の違い」を可視化し、互いの価値観を尊重できるような取組みは、社会全体で考えていくべきテーマであると感じた。
保護者や教育関係者から「学校でも扱ってほしいテーマ」との声があり、今後の出張授業や教材化に向けた手応えを得た。
また、「遺伝カウンセラーがファシリテーターとして対話を支える」ことの意義と可能性を実感した。