出展者名

芝浦工業大学 社会情報ネットワークデザイン研究室

Shibaura Institute of Technology, Social Information Network Design Laboratory

プログラム概要

自動運転といえば「車載センサを通じて、車両に搭載されたコンピュータが自ら判断して走るもの」が一般的ですが、近年は“街全体が車両を動かす”という、街に設置されたセンサと、実空間をリアルタイムにデジタル空間で再現する、高度なデジタルツイン技術を使った新しい自動運転が登場しています。
本展示では、このような常識を覆す新技術を、どうすれば誤解なく価値を伝えることができるのか?について、体験型の実験を行います。いくつかの動画を見比べ、視線の動きや、チェックテストの回答内容などを調べながら、科学の「伝え方」そのものを一緒に探究していきます。

Normally, when we think of autonomous driving, we imagine a vehicle that drives itself using its own onboard sensors and computer. However, a new approach has emerged recently: a system where the "entire city drives the vehicle." This new technology uses sensors installed throughout the city and advanced digital twin technology to reproduce the real world in a digital space in real time.
This exhibit presents an interactive experiment that explores how to convey the value of this groundbreaking technology without misunderstanding. We will investigate the very nature of "science communication" by having participants compare several videos and analyzing their eye movements and responses to a comprehension test.

✏️出展レポート

話し合った未来像

今回の議論を通して共有された未来像は、「誰もが科学や技術を自分ごととして理解し、社会における意思決定に主体的に関われる社会」である。サイエンスコミュニケーションは、単に技術の内容を正しく伝える行為ではなく、技術が社会にもたらす価値・意味を共に考えるプロセスであるという認識が多くの来場者と共有されたことが印象的であった。
特に、一般来場者の方から「技術の価値をわかりやすく伝えること自体が社会の安心や信頼につながる」という意見が多く寄せられ、専門家だけでなく市民も科学技術の未来を共に形づくる主体であるという未来像が見えてきた。また来場者の中には、実際に企業や研究機関で技術を社会実装している技術者も多く、「社会に技術を届ける側として、どのように人々の理解と信頼を得るべきか」という視点からの議論も活発に行われた。
このように、未来像として共有されたのは、専門家と市民が双方向的に関わり合い、技術の価値や課題について対話しながら共に社会をつくっていく姿である。

意見・論点

私は今回、技術伝達の手段として「動画を用いたサイエンスコミュニケーション」に焦点を当てた展示を行った。しかし、来場者との対話を通じて見えてきた論点は、「動画だけが手段ではない」という点であった。
研究者・技術者の方々からは、動画は視覚的にわかりやすく伝えられる一方で、理解が受動的になりやすいという指摘があった。その代替・補完手段として、対話型展示、体験型コンテンツ、ワークショップ形式、参加型の実験システムといった方法もあるのではないかという意見が出た。
さらに、サイエンスコミュニケーションを専門に研究されている方との対話では、「研究の最終成果を伝えるだけでなく、研究・実験の段階から市民の意見や感覚を取り入れ、共創できる仕組みをつくることが重要」という視点が示された。市民にとっては研究が身近になり、科学への心理的な距離が縮まる。一方で研究者にとっても、調査・ヒアリングを行う際の手間やハードルが下がるという利点があるとのことであった。

キーワード

セッションやブースでの対話の中では、特に「サイエンスコミュニケーション」と「自動運転技術」という2つのキーワードが繰り返し登場し、議論の軸となっていた。
今回私たちが伝達技術の題材として選んだ自動運転技術について、米国や中国と比較して日本での導入が遅れている理由や、社会実装に向けた課題にまで議論が及んだ。その中で、「技術的な完成度だけではなく、社会的な受容性や市民の理解・納得をどう育てるかが鍵になる」という意見が多く聞かれた。つまり、自動運転の未来を議論することは同時に、サイエンスコミュニケーションの在り方を問い直すことでもあり、技術と社会をつなぐ対話の重要性が両者を結びつける共通のテーマとなっていた。

来場者との対話から得られたこと・今後に生かせること

来場者との対話を通じて特に感じたのは、「人は技術そのものよりも、技術が自分の生活や社会にどう関わるかに関心を持っている」という点である。技術の仕組みだけでなく、なぜその技術が必要で、どのような未来をもたらすのかを語ることの重要性を強く実感した。
また、技術者の方からは「わかりやすく伝えることも大事だが、都合のよい情報だけでなく課題やリスクも含めて正直に伝えることが信頼につながる」という意見もあり、今後の展示や動画制作において大切にしたい視点であると感じた。
今後の活動においては、技術の価値だけでなく、課題・限界も含めて正直に語る姿勢を持つことを意識し、より開かれた科学技術の伝達・共創の形を模索していきたい。