AI社会の創造性 ~絵の批評・言葉の生態・物語進化~Creativity in AI Society: Drawing Critique, Language Ecology, and Story Evolution
・ 10:00〜17:00
テレコムセンタービル 4階
出展者名
名古屋大学 大学院情報学研究科 鈴木研究室
Suzuki-Laboratory, Graduate School of Informatics, Nagoya University
プログラム概要
スマホの向こう、お絵かきソフトの中….もうAIは私たちのすぐ隣にいる創造的な仲間です。そんなAIが生み出すふしぎで面白いアイデアをもっと身近に感じてみませんか?この展示では、AIたちが創り出す世界の面白さを3つのユニークな体験を通して探検します。あなたが描いたイラストを個性豊かなAI批評家たちが驚くような視点で見てくれたり。あなたが選んだ言葉の集団が生き物のように進化する様子をのぞいてみたり。そして、あなたのお話の「タネ」がAIたちの間で育ってもっと面白い物語に進化したり、これらを通して、人とAIの新しい未来について考えてみませんか?小さなお子さんから学生さん、大人の方まで、誰でも大歓迎です!
Beyond your smartphone screen, inside drawing apps... AI is already here as our creative friend, right next to us. Would you like to feel closer to the strange and interesting ideas that AI creates? In this exhibition, we explore the fascinating world that AI creates through three unique experiences. AI art critics with different personalities will look at your drawings from surprising new viewpoints. You can watch how groups of words you choose evolve and change like living creatures. And you can see how your story "seeds" grow between different AIs and become even more interesting tales. Through these experiences, let's think together about the new future of human and AI! Everyone is welcome - from small children to students to adults!
✏️出展レポート
話し合った未来像
本展示では,次の3つの体験型のデモへの参加を通して,AIと共に生み出す未来の創造性について来場者と対話した.
AI(大規模言語モデル,LLM)による絵の批評では,その場で描いた絵を様々な特徴を持ったAI批評家に評価させ,どの批評家が好きかなどの質問に答えたり,他者の絵の批評などもギャラリー形式で閲覧したりしながら,身近になるAIの持つ多様な個性の理解や関わり方などについて話し合った.言葉の生態系では,「速い食べ物が生き残る」等の仮想の言葉の生態系を参加者がその場で考えて,進化実験の様子を観測することで,AIが生み出す社会・集団現象について話し合った.最後に,物語の進化では,物語の出発点となる言葉を参加者がAI集団に与え,各AIが隣人のまねをしたり自ら洗練したりすることを通して物語が進化する様子を観察し,シナリオの広がりやAI独自の観点等について話し合った.
これらの体験を通した対話から,複数の未来像が浮かび上がった.AIが簡単に作品を生成できるようになったことで,作品そのものの評価に加えて,製作者個人の背景や感情がより評価に重要になる未来が来るという指摘があった.また,多様な性格を持ったAIと日常的に会話をする未来像についても議論が深まり,実際にChatGPTのことを「チャッピー」と呼んで友達のような感覚で相談に使用している小学生の存在が印象的であった.加えて,AIが日常で急速に普及していることを来場者も実感しており,今後さらにどのようにAIと共生していくのかという根本的な課題も話題になった.学校の先生の役割がなくなるなどの社会変化を想定する参加者もおり,これからの世界におけるAIの位置づけへの深い関心が示された.
意見・論点
昨年度に引き続き行ったAIによる絵の批評について,参加者の関心の傾向に顕著な変化が見られた.昨年はAIが流暢な言葉遣いで批評すること自体への驚きが多かったのに対し,今年はAIにペルソナを与えて質問するという活用方法に関心がシフトしていた.特に興味深かったのは,AIに意図的に「ディスらせる」ことで新しい視点を得るという使い方が肯定的に受け止められたことである.AIは親しみやすく接してくるという一般的な傾向があるため,あえて辛辣な意見を引き出すことで,文章の推敲や創作における有用な指摘が得られるという点が認識された.また,「性格はどのように設定しているのか」という技術的な質問が多く寄せられ,参加者が批評の背景にあるAIの仕組みそのものに深く関心を持っていることが明らかになった.言葉の生態系について,参加者は仮想の言葉の生態系を創るという点で,従来にない新しい生成AIの活用法を体験できたことに高い関心を示した.新しいアイデアや視点を得ることが可能であることが実感され,生物進化を理解するための教材やマーケティング応用の可能性についての意見も出た.また,「強い」「可愛い」といった概念がLLMによってどのように認識されているのか垣間見ることができた点が特に興味深く,単純な物理的な強さではなく,語感の強さなども判断基準として出現することに,参加者は人間の価値判断とAIの判断基準の相違や共通点について新たな発見を感じていた.物語の進化について,物語進化のプロセスにおいて「○○シリーズの新作」のようなプロンプトで開始された設定で特に参加者には面白いプロットが得られやすいことや,逆に突飛なキーワードを取り入れただけのプロンプトでは面白い話につながっていかないことがわかった.また,小説を書いているという来場者からは,アイデア出しの道具として実際に活用したいというニーズが示され,物語以外にも様々な応用ができるのではないかという話も出た.同時に,物語が進化していくプロセス自体は興味深いが,人間にとって本当に面白いものになるのだろうかという質問もあり,AIと人間の価値観の違いについて考える場にもなった.
キーワード
進化の理解、教育への応用、未来のマーケティング、ペルソナ設定の工夫、AIの個性化、相談相手としてのAI、ハルシネーション、研究の社会的位置づけ、世代別のAI利用スタイル、人間の創造性とAIの相互作用
来場者との対話から得られたこと・今後に生かせること
LLMの使い方について,世代による顕著な違いを実感した.大人は検索や要約・推敲といった実務的なタスクを主とする一方で,小中学生はAIを一人の人格として日常的な相談に用いるなど,世代ごとにLLMに対する向き合い方が大きく異なっていることが明らかになった.大人の参加者は仕事でメールの推敲やアイデア出しなどで使うことが多くなったという意見が多く,すでにAIの日常的な利用を体験しており,LLMが予想以上に社会に浸透していることを実感した.一方,小中高生は対等もしくは先生に相談する感覚でAIを活用している人が多い印象を受けた.AIが面白い言葉の生態系を生み出しうる状況設定を参加者が考える上で,AIよりもむしろ人間の創造性が問われる印象を受けた.AIと人間が互いに気づき合い創造し合うことのできる仕組みの発展に,今後の研究活動が貢献できればと考えている.また,研究室の活動や社会的位置づけに関する質問も多く出され,一般からの関心の高さも明らかになった.今後,研究内容とその目的や背景を来場者にわかりやすく伝えることの重要性が認識された.