出展者名

立教大学 理学部 SCOLA

Rikkyo University, College of Science, Science Communication Office for Liberal Arts

プログラム概要

ようこそ、ミライなんでも投票センターへ!
大好評!ちょっと先の未来についてみんなの意見を集めるあのセンターが、サイエンスアゴラへ出張決定!今回は「科学技術」をテーマに、皆さんの投票をお待ちしています!
科学だけでは答えが出ない問いに向き合い、投票いただきます。投票したら、集計結果を見てみましょう。 その結果が科学技術との向き合い方を見つめ直す機会になるかもしれません。また、思わぬ問いに出会うことも。なにしろ、ここはミライ“なんでも”投票センターですから。
※この「センター」はフィクションですが、出展はノンフィクションです。
※過去に作成したボードゲームを体験できるスペースも設置予定(整理券制)。

Welcome to the WHAT IF Center !
Highly acclaimed! The center that collects everyone's opinions about the near future will be visiting Science Agora! This time, we are waiting for your votes on the theme of “science and technology.”
We ask you to vote on questions that cannot be answered by science alone. After voting, take a look at the results. The results may give you an opportunity to rethink your approach to science and technology. You may also encounter unexpected questions. After all, this is the Mirai “Anything” Voting Center.
※This “center” is fictional, but the exhibition is non-fiction.
※A space where you can experience board games created in the past is also planned (ticket system).

出展者プロフィール

企画・実施
ミライなんでも委員会:SCOLA SIP修了生・受講生によって結成されたアゴラのための制作ユニット

※SCOLA SIPは立教大学理学部が提供するサイエンスコミュニケーション実践教育プログラム。企画立案だけでなく社会への実践を軸に捉え、学部・学年を越えて集まった学生たちが活動中

監修
古澤輝由:立教大学 理学部 SCOLA 特任准教授
高橋良子:同 教育研究コーディネーター

✏️出展レポート

話し合った未来像

本展示では、架空のセンターとして「先端科学技術に関する8つの問い」を提示し、自らの価値観に基づいた「投票」体験を通して、より考えを深め、多様な意見を可視化できるよう試みました。単に賛否を問うのではなく、投票後の対話を通して「なぜそう考えるのか」「他者との投票理由の違い」を探り、科学技術と社会の関わり、合意形成のあり方を考える場としました。
来場者との対話の中で、“技術推進vs慎重姿勢”の構造は見られるものの、多くの人が「科学技術を"無制限に推進"するのではなく、人間性・倫理・個性・安全性・社会的合意とのバランスを重視する未来像」を抱いているように感じられました。
今回、投票しやすいよう選択肢を幾つかに限定しましたが、だからこそ単なる賛否だけでなく「どうすれば人間らしい未来を失わないか?」という問いが浮かび、またその「人間らしさ」は、個々人で尺度が違うのだということを可視化できました。
<各問い>
「頭を良くしたり足を速くするためにゲノム編集技術を使ってもいい?」(ジグソーパズル)/ 「こんな宇宙開発は嫌だ。どんな?」(紙くず)/ 「安全のために顔認証システム搭載の防犯カメラを街中に設置するのはあり?」(写真撮影)/ 「給食を作るのに3Dフードプリンターを使うのはあり?」(輪投げ)/ 「AIが自動的に生み出した作品は芸術?」(物語)/ 「(ヒューマノイドロボットと)一緒に住むならどんな姿がいい?」(ボールでグラフ作成)/ 「あなたは江須市の市民。未来をたくすなら、誰に投票する?」(上記の科学技術に対して異なる政策を持つ候補に投票)/ 望むのはどちらのミライ?「AIが最適解を導くミライ」or「納得するまで対話していくミライ」(ガチャガチャ)

意見・論点

科学技術に関する多様なテーマをもとに来場者と対話し、各問いに対して世代や立場を越えた多様な視点が寄せられました。
ゲノム編集では、「頭を良くしたり足を速くするために使うのはありか?」という問いに対し、「コンプレックス解消や病気治療のため」「人類の発展のため」等“あり派”の声に対し、「個性や多様性の喪失」「親が子の未来を決定することへの疑義」等“なし派”の意見も多く見られました。また「どこまでが人の選択なのか」という問いも浮かび上がりました。
3Dフードプリンターについては、「栄養価を自在に調整できる」「食べることへの興味を広げる」といった肯定的な意見と、「素材を知る食育の機会が減る」「給食当番の経験がなくなる」といった慎重な意見が拮抗しました。特にこのテーマは印象に残ったという声が多く「“給食で”という条件がつくことで一気に考え方が変わった」「自分は良いと思うけれど、もし親の立場だったら子どもに食べさせたくないかもしれない」といった意見も聞かれました。問いの出し方ひとつで、参加者の思考の深さや方向が大きく変わることを実感したテーマでした。
AIと芸術のテーマでは、「AIは合理的で効率的」「感情や個性があるからこそ人間らしい」といった意見が交錯し、「AIが生み出したものは芸術ではない」と断じるのではなく、「その創作を社会でどう活かすか」が重要だという対話が印象的でした。
宇宙開発では“こんな宇宙開発は嫌だ”という問いに対し「宇宙をゴミ箱にする開発」「資源をめぐる争い」「宇宙飛行士の人権軽視」といった具体的な懸念が挙がりました。ロマンと危うさが隣り合わせであることを実感する意見交換となりました。
総じて「科学技術そのものの是非」ではなく「それをどう使う社会を望むか」という観点で考え対話する姿が見られました。

キーワード

<総評>
先端科学技術の社会実装に際し、期待と不安の両面が見られました。
期待に関するキーワードとしては、人の苦しみの軽減、効率化、安全性、利便性、平等性、ロマンなど。
一方で、不安に関しては、多様性の喪失、公平性の低下、倫理・感情の軽視、監視社会、環境破壊、責任の希薄化などが挙がりました。
総評として、科学技術を拒否するわけではないが、「人間性・倫理・多様性・信頼」を守りながら共存する未来が望まれていることが示唆されました。
<重要/頻出キーワード列挙>
多様性、個性、公平性、格差、人間らしさ、心・感情、ロマン、自己決定、生命倫理、安全、プライバシー、監視社会、信頼、技術の利便性、コスト・効率、食育・文化、環境保護、戦争・争い、AIとの共創、責任の所在

来場者との対話から得られたこと・今後に生かせること

今回の展示では、来場者一人ひとりの価値観や立場の違いが投票や対話を通して可視化され、科学技術をめぐる問いに「多様な正解」が存在することを改めて実感しました。科学技術を語ることではなく、「ともに考える場」をつくることの意義を再確認しました。
また、体験の最後では「架空のセンター」という物語設定を利用し、他のブースを巡っているセンター員(出展者)に声を掛けてもらうような工夫も行いました。このことにより、他ブース見学への誘導や、また参加者と出展者のより深い対話の実現につながったのではと考えています。
今後は、これらの展示手法をパッケージ化し、学校や地域イベントなど他の場でも展開できる形へと発展させていきたいと考えています。また、得られた投票データや対話内容を分析し、サイエンスコミュニケーションにおける新しい参加型対話のモデルとして、論文執筆や次年度以降の活動に活かしていく予定です。
※全投票の結果や投票理由は「ミライなんでも投票センター」のXから閲覧可能です(現在更新中)。
https://x.com/TheWHATIFcenter
投票結果をXを用いて発信していくことで、サイエンスアゴラの中だけに留まらず、より多くの対話を促したいと考えています。