素材選びが地球の未来を決める!? 〜SDGsと生分解〜Will Your Material Choices Shape the Planet's Future? – SDGs and Biodegradability-
・ 10:00〜17:00
テレコムセンタービル 3階
出展者名
東京農工大学科学博物館支援学生団体musset
musset (Nature and Science Museum support student team)
プログラム概要
いろんな布や糸を土に埋めてみると、土にかえるものもあればそのまま残り続けるものもあります。その違いってなんなのでしょう?素材の「生分解性」に注目し、素材の特性が環境に与える影響を科学的に考える企画です。生分解に関する実験や体験を通じて、素材の性質と環境との関係を伝えます。布や素材を選ぶときに、ちょっと未来の地球を考えてみませんか?素材を選ぶ視点が、地球の将来を考えることに繋がります。そんな気づきを、一緒に見つけてみましょう。明治時代から現代まで蚕糸や繊維の研究で最先端を走る東京農工大学の学生が、繊維の特性やSDGsとのつながりを紹介します。
Some fabrics and threads break down in soil, while others remain unchanged. Why is that? This project explores the science behind "biodegradability"—how the materials around us interact with the environment. Through hands-on experiments and activities, you'll learn how different textile properties affect their ability to return to the earth. When choosing fabrics, have you ever thought about their environmental impact? The materials we select today can shape the planet of tomorrow. Let’s discover how something as simple as choosing the right fabric can be a step toward a more sustainable future. Students from Tokyo University of Agriculture and Technology—renowned for its cutting-edge research in silk and fiber since the Meiji era—will guide you through the science of textiles and their connection to the SDGs.
✏️出展レポート
話し合った未来像
展示では「生分解性繊維を普及させたい」というよりも、その特徴や意義を知ってもらい、今後の選択の参考にしてもらうことを目的としていた。そのため、来場者には「合成繊維が悪いわけではない」という前提のもと、合成繊維と天然繊維のそれぞれの利点を理解し、できる範囲で天然繊維やグリーンマーク製品を選ぶというメッセージを繰り返し伝えた。
来場者からは「合成繊維やプラスチック製品は便利だ」という意見が多く聞かれた一方で、最後に行った問いかけでは、意外にも多くの人が「天然繊維の方が良い」と回答していた。小さな子どもには難しい内容もあったが、お菓子やおもちゃなど身近な例を挙げて説明することで、日常の中で環境や素材について考えるきっかけを与えられたのではないかと感じた。
こうしたやり取りを通して見えてきた未来像は、「誰もが当たり前に未来のことを考え、環境に優しい製品を選択する社会」である。 一人ひとりが消費者として地球の未来を意識し、「地球に優しいものを選ぶことが持続可能な社会につながる」という実感を持てることが、私たちが描いた理想の未来像である。
意見・論点
今回の展示では、実験や展示物を通して多様な来場者から多くの意見や質問が寄せられた。まず、コピー用紙の生分解実験は特に反響が大きく、身近な素材であることから来場者に強い印象を与えた。また、シルクなど生分解性素材の紹介に対しては、「環境には良いが高価で手が出しにくい」という現実的な意見も多く聞かれ、理想と実生活のギャップが話題となった。一方で、「キュプラ(再生繊維)を使えばいいのでは?」という質問に対しては、再生繊維の加水分解や生分解の仕組み、環境負荷についての知識が十分でなく、科学的根拠に基づく説明の難しさを感じた。特に、土壌環境(pH)や残留薬品(銅アンモニア溶液など)の影響については、今後の考察の余地があると考えられた。また「合成繊維は燃やせばいいのでは?」という意見もあり、焼却時に発生する有毒ガスや環境負荷への理解が一般的にはまだ十分でないことが明らかになった。その他来場者との会話の中では次のような意見・気づきも得られた。
- 農工大の自販機や博物館の存在など、大学の日常的な環境にも関心が向けられた。
- 「カイコの繭が1本の糸からできていることを知らなかった」という驚きの声が多く、身近な素材の構造や成り立ちへの理解を深める機会となった。
- 「グリーンマークは見たことがあったが、“グリーン購入”は初めて知った」といった声もあり、展示をきっかけに行動変容や関心の広がりが生まれた。
これらの意見を通して、来場者が単に情報を受け取るだけでなく、身近な素材や消費行動を通じて環境との関わりを考え始める場になったことが分かった。
キーワード
展示を通じて、来場者との会話の中から多くの環境・社会に関するキーワードが挙がった。特に、子どもたちの間でSDGsや環境問題への関心が高まっていることが印象的だった。まず、「マイクロプラスチック」という言葉を知っている小学生がいたことに驚かされた。SDGsの14番「海の豊かさを守ろう」に関連して海洋汚染の話をしていた際、子どもたちが積極的に「それテレビで見たことある」と反応しており、NHKのEテレやネット、ゲームなどのメディアを通じて学んでいる様子がうかがえた。学校で体系的に学んだというよりも、日常的な情報発信から自然に知識を得ている子が多かったように感じた。また、展示の中で多く挙がったキーワードには、「SDGs」「マイバッグ」「カイコ」「クワ(桑)」「絹」「紙ストロー」などがあった。これらの言葉から、来場者が素材や製品を通じて環境問題を身近に感じていることが分かる。さらに、「作ったものが自然に還るという“循環”の考え方が大切なのではないか」という意見もあり、持続可能な社会を支える根本的な価値観が来場者の中にも広がりつつあることが感じられた。全体を通じて、来場者の語彙や話題から、環境への意識が世代を超えて広がっていること、そして科学を通じた日常的な学びの重要性が改めて浮き彫りになった。
来場者との対話から得られたこと・今後に生かせること
来場者との対話を通して、子どもから大人まで多様な視点が交わり、改めて環境問題や素材の選択に対する意識の高まりを実感した。特に印象的だったのは、小学生の「すぐに着れなくなってしまう子ども用の服は生分解性のある繊維で作り、長持ちさせたい大人用の服は生分解性のない繊維で作るのが良いのではないか」という意見だった。単なる環境配慮だけでなく、用途に応じた素材の使い分けという本質的な視点を持っていたことに驚かされた。このような発想が自然に出てくる点に、サイエンスアゴラという場の知的な雰囲気の高さを感じた。また、来場者の中には「蜘蛛の糸を素材にする研究」などを知っている人もおり、社会での科学技術への関心や理解が広がっていることを実感した。一方で、繊維の化学的特性や生分解実験の条件に関する質問に十分に答えられなかったことから、より専門的な知識を身につけておく必要性も感じた。特に、使用した繊維の原料比率や土壌成分まで把握していれば、より説得力のある議論や説明ができたと反省している。親子連れの来場者からは「自分の家でもまゆを土に埋めてみたい」という声が多く聞かれ、展示が科学への興味や実践的な意欲を引き出すきっかけになったことを実感した。実験内容も小学生の自由研究としてちょうど良い難易度であったため、興味を持ってもらいやすかったのだと思う。さらに、保育園やメディアでSDGsを学んでいる子どもが多く、「SDGs」「グリーン購入」「循環」などの言葉をすでに知っている来場者が想定以上に多かった。中には、グリーン購入に関連する仕事をしている方もおり、「循環だけでなく、人工物の長所を活かすことも重要」という意見も印象的だった。また、昨年の展示で「蚕のブース」を見たことのある子どもが多く、継続的な出展が学びの連続性を生み出していることも感じられた。これらの経験から、今後は科学的知識の深掘りと、来場者の発想を活かす柔軟な対話力を高めたい。