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資料4

開発課題名「原子核乾板を用いた高精度宇宙線ラジオグラフィシステムの開発」

最先端研究基盤領域 先端機器開発タイプ

開発実施期間 平成28年10月〜令和3年3月

チームリーダー :  中村 光廣【名古屋大学 未来材料・システム研究所 高度計測技術実践センター 教授】
中核機関 :  名古屋大学
参画機関 :  川崎地質株式会社、富士フイルム株式会社、株式会社サイエンスインパクト
T.開発の概要
 火山、空洞調査、密度測定、老朽化診断などのさまざまな用途に展開するための原子核乾板を用いた高精度宇宙線ミューオンラジオグラフィシステムの開発を行う。具体的には、本計測原理の限界性能に肉薄する高精度を目指し、原子核乾板の乳剤製造、乾板塗布、照射、現像、読み取り、解析を行うためのトータルシステムを構築・性能向上を行い、並行してニーズや適用可能性のある領域での試験、評価、改良を繰り返し、開発装置の実証を行う。
U.開発項目
(1)塗布装置、読み取り装置、原子核乳剤改良
 原子核乾板用の自動塗布装置において、塗布膜厚精度±2 μm以下を実現した。また目標とした年間1000 m2の塗布を高いスループットで達成した。
 開発した高速読み取り装置において、従来機の約5倍の速度向上を実質的に達成した。従来の乳剤製造処方での潜像退行特性劣化の主因を特定し、20 ℃以下では1年以上、30 ℃では260日にわたり使用できる原子核乳剤の開発に成功した。これにより従来に比べて約20倍の長期観測が可能となった。
(2)ECC化、厚型ベース、シフター装置
 30 GeV/c程度までの運動量識別が可能であるECC(原子核乾板検出器)を開発した。
 複数の原子核乾板を積層して、実質的に厚い乾板として機能させる手法の開発を行った。
 時間の情報を記録できるシフター装置を開発した。
(3)撮像設計、画像処理・分析システム
 想定される誤差を加味したシミュレーションデータを用いて、構造物の3次元トモグラフィを実用レベルで再構成できることを確認した。
(4)実証活動
 エジプトのクフ王のピラミッド中に未知の空間を発見し、その精密観測を実施した。このほかに熔鉱炉、原子炉、古墳、遺跡、地中の空洞などの実地調査を行った。
V.評 価
 本課題は、要素技術プログラムで開発したオンリーワン技術である原子核乾板を用いた宇宙線ミューオン透視技術を、さらに高精度のトータルシステムとして開発し、火山などの大型構造物やインフラなどの分野への本格的展開を図るものである。
 原子核乾板の塗布装置や読み取り装置のスループットを向上し、乾板の長期観測を実現するなど、実用化に向けた取り組みを成功させた。応用例としては、クフ王のピラミッドで未知の空間を発見するなどのインパクトのある成果を収め、広く注目を集めた。計測技術の開発のみならず、ラジオグラフィーの発展の礎となる画期的な成果に結びつけていることは大いに評価できる。
 今後は、基礎研究と実用化開発のバランスにも留意しつつ、活動を続けていただきたい。特にベンチャー設立へ向けては、道筋を明確にするためのさらなる検討が非常に重要である。
 本開発は、当初の開発目標を達成し、それを上回る特筆すべき成果が得られたと評価する。[S]