JSTトップ > 先端計測分析技術・機器開発プログラム > 評価結果 > 資料4

資料4

開発課題名「超高感度スピン相関高分解能NMR装置の開発」

最先端研究基盤領域 先端機器開発タイプ

開発実施期間 平成27年10月〜令和3年3月

チームリーダー :  藤原 敏道【大阪大学 蛋白質研究所 教授】
中核機関 :  大阪大学
参画機関 :  株式会社JEOL RESONANCE、福井大学
T.開発の概要
 高分解能NMR(核磁気共鳴)法は分子の構造解析方法として極めて重要であるが、感度が低いという弱点が存在する。近年、NMR法の感度を向上させる技術のひとつとして、DNP(動的核偏極)法が注目されており、本開発チームはこれまでに世界最高性能のDNP-NMR法の開発に成功している。本課題では、極低温検出法と極低温高磁場でラジオ波とサブミリ波の多重パルス照射により、感度がさらに100倍以上向上した装置を開発する。そして、細胞内生体分子や材料界面の原子分解能構造解析を行えることを実証し、将来的なプラットフォームへの導入と活用を目指す。
U.開発項目
(1)極低温マジック角試料回転DNP-NMRプローブ開発
 開発したプローブで極低温での安定な試料高速回転を達成したほか、ノイズを低減したNMR回路の開発を行った。
(2)高出力多重サブミリ波の発振制御と伝送技術開発
 ジャイロトロンに周波数可変機構を設けたほか、電子スピン二重共鳴によるサブミリ波制御DNPシステムを開発した。新型コロナの影響により一部の開発項目について目標を下回ったものの、システムとしては従来のDNP-NMR装置と比べて当初の予定を大幅に上回る500倍以上の感度向上が可能となった。
(3)高磁場DNP-NMR実験・解析と生体系への応用
 NMR共用プラットフォームの共用制度を利用した民間企業で材料系を試料として、100倍を超える感度向上を確認した。表面皮膜の構造解析や膜蛋白質のモデル試料の解析に有効であることを確認した。またDNPによって初めて生成されるスピン相関成分を用いて、2台のジャイロトロンを用いた周波数変調により、領域選択的に測定できることを明らかにした。
V.評 価
 本課題は、生体高分子の構造解析などに必須となる高分解能NMR分光装置として、DNP法の感度性能を大幅に向上させるだけでなく、実用性のある装置を製作することを目的としている。
 個々の目標はおおむね達成し、感度向上は目標を大きく上回ったことは評価できる。先端機器としてNMRのニーズは高く、生体分子や材料系試料の測定での成果もあり、今後の実用化やプラットフォームでの活用への道筋をつけている。一方で、市場性を広げるためには感度向上が膜タンパク質などの生体構造解析にどの程度有用か示す必要があり、さらなる装置開発とともに、キラーアプリケーションの開拓が必要であろう。
 本開発は、当初の目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する。[A]