JSTトップ > 先端計測分析技術・機器開発プログラム > 評価結果 > 資料4

資料4

開発課題名「PETプローブの小型シンプル自動合成装置の開発」

最先端研究基盤領域 先端機器開発タイプ

開発実施期間 平成28年10月〜令和2年3月

チームリーダー :  田中 浩士【東京工業大学 物質理工学院 准教授】
中核機関 :  東京工業大学
参画機関 :  エヌ・エム・ピイ ビジネスサポート株式会社、九州大学、東京都健康長寿医療センター研究所
T.開発の概要
 動物用PET装置を用いた動物体内でのリアルタイムの画像化が、化学物質の生体内挙動を得る簡便で有効な手段として注目されている。しかし、半減期の短い放射性PETプローブの供給において、その合成空間と時間の制約が、PETを用いた基礎研究の推進に大きな妨げとなっている。本課題では、精製用タグ法を利用する固相抽出精製法を採用することにより、HPLC装置を必要としない小型でシンプルな自動合成システムの開発を目指す。
U.開発項目
(1)実用機の製作
 本体が230 mm×300 mm×400 mmで重量30 kgのコンパクト仕様で、温度制御性能及び気体制御性能はそれぞれ設定温度±3 ℃以内及び設定流量±5 %以内であり、いずれも目標を達成した。高品質かつ高放射能濃度のサンプルを供給するとともに、反応状態の逐次分析可能なPET分子プローブ自動合成装置を完成した。低酸素細胞イメージング剤として知られる [18F]DiFAの標識化をモチーフとした合成シークエンスを構築して自動合成装置に搭載し、所定のプロトコルに従って放射性純度97 %、放射性収率27 %で目的化合物を得ることに成功した。いずれも数値目標を達成している。
(2)[18F] Florbetapir誘導体の合成プロトコル
 本合成装置を用いて18F-florbetapirと類似構造の[18F]ネオペンチルブロモピリジン誘導体を得た。さらに、Ab部位に親和性を有するネオペンチル標識基を有するスチリルピリジン誘導体を得ることに成功し、正常マウスにおける体内動態(脳イメージング)解析によって脳への取り込み比を算定した結果、従来法よりも高いクリアランス性能を持つことを明らかにした。
(3)[18F]フッ素を有するEGCG誘導体の合成プロトコル
 カテキン前駆体の合成法を確立するとともに、生物機能を有する[19F]フッ素体の合成、さらに18Fフッ素標識EGCGの合成に成功し、所定の目標を達成した。しかし、元々の化合物が不安定であったため、目標とした放射性収率には届かなかった。
V.評 価
 本課題は、独自のネオペンチル標識基と精製用タグ法を併用した標識法を活用することにより、HPLC精製を必要としない小型PET分子プローブ自動合成装置の開発である。コンパクトで軽量な合成装置の開発に成功し、同装置を用いた薬剤合成において、放射性収率と放射性純度を含めてほぼ目標を達成している。流路への液体残留がない切り替えバルブや気密性の高い試薬容器、自動サンプルシステムなど有用な要素技術を開発した。
 すでに、放射性標識合成装置として製品化されており、臨床研究のための薬剤合成に利用されるなど、超高齢社会で重要視される認知症の早期診断、創薬探索プロセス等への貢献が期待される。
 今後は、PET放射性薬剤合成装置としての市場開拓のみならず、前駆体や標識体など関連試薬の消耗品ビジネス面などの展開も期待したい。
 本開発は、当初の目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する。[A]