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資料4

開発課題名「原子分解能磁場フリー電子顕微鏡の開発」

最先端研究基盤領域 機器開発タイプ

開発実施期間 平成26年10月〜令和3年3月

チームリーダー :  柴田 直哉【東京大学 大学院工学系研究科 総合研究機構 教授】
中核機関 :  東京大学
参画機関 :  日本電子株式会社
T.開発の概要
 本課題では従来の常識を打ち破る無磁場下での原子分解能観察を可能にする電子顕微鏡を開発する。収差補正技術を前提とした新しいコンセプトの対物レンズおよび超高精度・高感度位置分解型検出器の開発により、磁性材料中の磁気・磁区構造を保ったまま原子レベルでの観察を可能にする原子分解能磁場フリー電子顕微鏡を実現する。これにより、先進磁性材料、磁気メモリ、スピントロニクスデバイス、スピン秩序構造などの超高分解能磁性構造解析に革新をもたらすことが期待できる。
U.開発項目
(1)磁場フリー超高分解能対物レンズ開発
 磁場フリーを実現するために新規対物レンズを開発し、試料周辺の残留磁場が0.3 mT以下にすることに成功した。
(2)超高精度角度・位置分解型STEM検出器開発
 40分割の検出器を開発しピクセル時間も1 μs以下で、いずれも目標を大幅に上回った。
(3)特殊ホルダー、ソフトウエア開発
 磁場計測感度0.01 mTの磁場計測ホルダーなどを開発した。検出系はユーザフレンドリーなオペレーションソフトウエアを開発した。
(4)原子分解能磁場フリー電子顕微鏡の実証
 磁場フリー状態でGaNの[111]ダンベル(0.092 nm)の原子分解能観察(世界最高性能)に成功し、その後さらに性能を向上させGeの[112]ダンベル(0.082 nm)の観察に成功した。
(5)磁性材料解析アプリケーション
 実際の磁性材料(NdFeB磁石、フェライト磁石、電磁鋼板、スピンデバイス、ナノ粒子等)の原子分解能構造解析や磁場分布解析が本装置において可能であることを実証した。
(6)原子分解能磁場直接観察手法の開発
 反強磁性体(Fe2O3)中の原子のスピン配列と冷却によるその相転移を局所磁場変化として直接観察することに世界で初めて成功した。
V.評 価
 本課題は、試料位置で無磁場となる新コンセプトの対物レンズと、超高精度・高感度位置分解検出器を開発し、磁性材料中の磁気・磁区構造を原子レベルで観察することができる走査透過電子顕微鏡(STEM)の開発である。
 装置性能において各開発目標を大幅に上回り、無磁場での原子分解能観察を可能とする世界で唯一の電子顕微鏡を完成させた。特に原子磁場の観察は、今後の機能材料開発の新たな指針となる特筆すべき成果である。さらに、特許戦略、論文発表、受賞、報道発表など本プログラムの手本となる実績を挙げ、その成果は多方面で認知され、基礎研究はもとより産業界へも展開しており、世界に誇るオンリーワン技術として電子顕微鏡の新分野を開拓することが期待されるものである。
 装置の実用化にあたっては、技術の進展に応じてピクセル型検出器の導入を検討するなどさらなる高度化を図り、研究開発を進めて欲しい。
 本開発は、当初の開発目標を達成し、それを上回る特筆すべき成果が得られたと評価する。[S]