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資料4

開発課題名「難分析核種の高感度分析のための多色イオン化光源の開発」

最先端研究基盤領域 要素技術タイプ

開発実施期間 平成28年10月〜令和2年3月

チームリーダー :  坂本 哲夫【工学院大学 先進工学部 教授】
中核機関 :  工学院大学
参画機関 :  株式会社日本中性子光学、名古屋大学、日本原子力研究開発機構
T.開発の概要
 福島原発事故により放出された放射性物質のうち、「難分析核種」の高感度分析のための多色イオン化光源を開発する。難分析核種はγ線ではなく、α線またはβ線を放出するが、その検出が困難となっている。これらは今後、環境中エアロゾルや廃炉作業に伴うダストとして発生し、吸入すると長期に渡り内部被曝が懸念されるため、環境中の動態解明が急務である。開発する多色イオン化光源は高繰り返し率・波長可変・多色発生が可能なことを最大の特長とし、これにより極めて選択性の高い核種選択イオン化・質量分析イメージングを世界に先駆けて実現する。
U.開発項目
(1)多色イオン化光源
 元素を選択的にイオン化するためのTi:Saレーザーにおいて、2波長一体型光源で幅0.3 m×長さ0.45 m×高さ0.19 m、重量 12 kgの小型化を達成し、繰り返し率 10 kHzにおける安定動作を達成した。波長680〜960 nmでの自動調整・制御が可能であり、波長を変更した場合、1分以内で目標の波長で安定動作することを確認した。
(2)共鳴イオン化質量イメージング
 ZrやSrなどの安定同位体を用いて、同重体干渉を回避したマイクロイメージングの実証実験を行い、5 %以下の同位体比測定精度を達成した。また採取した実試料においても微量の放射性Cs同位体のマイクロイメージングに成功した。
 さらに共鳴ポンピングとトンネルイオン化を組み合わせた新しい手法を提案し、従来技術では感度が低かったイオン化ポテンシャルの高い元素においても、高感度な分析が行えることを実証した。
V.評 価
 本課題は、難分析核種を効率よく選択的にイオン化する多色イオン化光源を開発し、従来の質量分析法では分離・検出が難しかった、微小試料中の難分析核種の検出を可能とすることを目的とする。
 1分で波長変更を自動調整できる光源を開発し、モデル試料で同重体干渉を回避した高感度質量イメージングを達成した。また、福島原発事故由来の実粒子での測定にも世界ではじめて成功している。さらに、目標にはなかったが新たに共鳴ポンピング-トンネルイオン化法を提唱し、これまで測定できない元素でも高感度分析を可能とするなど本装置の適応範囲を広げたことは高く評価できる。
 今後、本装置は廃炉、核廃棄物の処理などで活用されるとともに、環境分野及び半導体や金属産業などの工業分野などでの活用も期待できる。
 本開発は、当初の開発目標を達成し、それを上回る特筆すべき成果が得られたと評価する。[S]