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資料4

開発課題名「スマートサーフェス設計を戦略とした革新的分離解析技術の開発」

最先端研究基盤領域 要素技術タイプ

開発実施期間 平成28年10月〜令和2年3月

チームリーダー :  秋元 文【東京大学 大学院工学系研究科 准教授】
中核機関 :  東京大学
参画機関 :  株式会社日立ハイテクサイエンス、慶應義塾大学
T.開発の概要
 温度応答性クロマトグラフィーは、温度により担体の疎水性相互作用・静電相互作用・特異的分子認識を制御することができるため、温度変化を利用して、有機溶媒を用いることなく水系で、低分子薬物、ペプチド、たんぱく質などの分離を制御できるシステムである。本課題では、ライフサイエンス分野の研究を発展的に加速させることを目指し、分離後物質の生理活性・機能を維持しつつ、高選択性・高回収率・高速分離・大容量分離を実現する分離解析技術を開発する。
U.開発項目
(1)タンパク分離
 抗体医薬と培養液成分の分離について、回収した抗体医薬を複数の分析法で評価し、単一ピーク(HPLC, GPC)、単一バンド(SDS-PAGE)であることを確認した。また、回収した抗体医薬の回収率が70 %以上であることを確認した。抗体医薬の活性評価(既存のアフィニティークロマトグラフィー法と比較)は、既存の手法よりも高い値を得ることを確認した。分離相互作用の検証についても、HPLCチャートにおけるピークエリアの変化から温度依存的な吸着量変化の傾向を確認でき、目標のうち吸着量変化の確認を達成した。
(2)細胞分離
 細胞治療に用いるヒト細胞の分離について、生存率90 %、分離能(回収細胞中の目的細胞の割合)70 %を実現し、当初目標を達成した。回収した細胞の活性評価(既存のFACS法と比較)について、細胞の増殖率を比較し既存の手法よりも高い値を得たことから、本手法が細胞の生存率、活性に影響を及ぼさない、極めて安全な細胞分離・生成手法であることを明らかにした。
V.評 価
 本課題は、高温では疎水性、低温では親水性へと相転移する温度応答性充填剤を用いて、タンパク質医薬品の分離精製並びに細胞分離を可能とするシステムの開発である。開発目標は全て達成し、目標以上の成果としてカラムを用いた細胞クロマトグラフィーにより短時間での細胞分離を達成したことは特筆すべき成果である。この分離技術の特徴は、全プロセスを通じて水系で操作できる点であり、従来法で問題となる有機溶媒などの影響による活性低下や失活を回避できるため、応用範囲が広いキーテクノロジーとして高く評価できる。
 今後は、さらに知的財産化を戦略的に進め、研究用機器だけでなく製薬業界等への展開を踏まえ、実際の製造を意識したプレパラティブ(分取)スケールへの検討を行い、早期の実用化を期待したい。
 本開発は、当初の開発目標を達成し、それを上回る特筆すべき成果が得られたと評価する。[S]