資料4

開発課題名「革新的超広角高感度ガンマ線可視化装置の開発」

放射線計測領域 革新技術タイプ(機器開発型)

開発実施期間 平成24年10月〜平成27年3月

チームリーダー :  高橋 忠幸【国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 教授】
サブリーダー :  黒田 能克【三菱重工業(株) 航空宇宙事業本部 誘導・エンジン事業部 電子システム技術部 主席技師】
中核機関 :  国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
参画機関 :  三菱重工業(株)、名古屋大学
T.開発の概要
 独自の次世代技術「Si/CdTe半導体コンプトンカメラ」を発展させ、180度の視野を持つ超広角撮像、高精度カラー、核種分離を特徴とする可搬型ガンマ線可視化装置の実現を目指す。この装置により、1〜5 μSv/h程度の環境下で、環境バックグラウンドの数倍の強度のホットスポットを10分以内で検出でき、屋根などの高所に集積する放射性物質も画像化することが可能となる。また、装置の軽量化(5〜10 kg程度以下)により、山林や家屋の裏など、車ではアクセスが難しい環境にも導入が可能である。高線量環境(数10 μSv/h)にも対応し、警戒区域での除染作業の効率化や除染作業後の評価などにも活用が期待される。
U.開発項目
(1)「超広角コンプトンカメラβ」製作
 本開発では「超広角コンプトンカメラα」の開発成果を市場へと展開して、被災地の除染作業等に貢献するために、地上用のプロトタイプ(「超広角コンプトンカメラα-mini」)をいち早く実現させ、コストと小型化という面で「超広角コンプトンカメラβ」を実現したものである。この成果が、三菱重工業に技術移転され、平成24年度末には世界で初めてのコンプトンカメラ商用機「ASTROCAM 7000 HS)」がリリースされた。主要開発項目は、次の@、Aである。
 @ Si/CdTeコンプトンカメラ実現の鍵を握る多チャンネル低雑音のアナログLSI開発、独自設計の国産アナログASIC「KW04D64」を製作し、さらに雑音レベルの改良を加えた改良版「KW04F64」を製作し、雑音特性が目標値300eに達していることを確かめた。
 A 室温において動作可能な低リーク電流Si半導体検出器を開発するため、pixelの大きさを従来の半分程度、また読み出し線による静電容量を均一化したSi半導体ピクセル検出器を試作し、検出器に信号処理系を接続して放射性同位元素241Amの60 keV輝線を用いてエネルギー分解能を測定し、常温で1.9 keV(FWHM)を実現できることを実証した。
(2)放射性物質分布画像の3D化
 同強度のホットスポットであっても、遠方に位置するホットスポットはカメラへの入射フラックスが小さくなるため、画像上の見かけの強度は弱くなる。放射性物質の3D画像化ができると、敷地内の汚染状況をより正確に把握したいというニーズに応えることができる。実験室環境下で、異なる距離に配置された同強度の137Cs線源を2台の「ASTROCAM 7000 HS」を用いて2地点から撮像し、視差を利用して各線源の放射能(Bq)を推定する実証実験を行った。再構成アルゴリズムを開発し、10 %の精度で放射能物質までの距離と放射能(Bq)が決定できることを示した。
V.評 価
 本開発は、純国産化・軽量化・高感度化・低コスト化の観点に主眼を置き、Si検出器及びCdTe検出器を多層に積層したコンプトンカメラで、超広角でγ線線量率分布を可視化し、さらに飛来するγ線の発生源およびその核種を短時間に同定できる装置を製作したものである。当初掲げた達成目標については、すべての項目で達成するとともに、性能の高い装置が開発され、さらにいち早く商品化が図れたことは、高い評価に値するものである。また、装置開発に当たっては、検出器からの電気信号処理のハードの面及びソフトの面を独自の手法で改良を行い、より性能が向上する工夫がなされてきた。第一段階の装置の商品化後も、さらなる感度向上のため検出器の改良や放射性Csの位置分布測定のための検出器の開発が進められ、当初の計画を越えた成果となっている。本開発は当初の開発目標を短期間で達成し、実用的な観点からも現存する同種の測定器の中で最も期待できる装置であり、特筆すべき成果が得られたと評価する[S]。