資料4

開発課題名「テラヘルツ帯2次元フーリエ分光用力学インダクタンス検出器の開発」

最先端研究基盤領域(旧一般領域) 要素技術タイプ

開発実施期間 平成23年10月〜平成27年3月

チームリーダー :  有吉 誠一郎【豊橋技術科学大学 大学院工学研究科 准教授】
中核機関 :  豊橋技術科学大学
参画機関 :  山形大学、埼玉大学、理化学研究所
T.開発の概要
 テラヘルツ帯における2次元分光技術は、ソフトマテリアルなどの物性研究や応用開拓のために有効な可能性を秘めた技術である。本課題では、2次元フーリエ分光システムへの適用を念頭に置き、従来の半導体ボロメータに比べて1桁以上の優れた検出感度と高速応答を併せもつ超伝導・力学インダクタンス検出器アレイを開発し、2次元フーリエ分光の実現に不可欠な要素技術を確立する。
U.開発項目
(1)検出器アレイの設計・作製
 「ピクセル数」に関しては、5×5画素アレイの作製最適化を行った結果、各共振周波数の設計値に対する測定値のずれは複数のチップで最大1 %の範囲内、かつ2チップ間の個体差は0.1 %以内で同等であることが判明し、設計値通り、かつチップ間で個体差の少ない5×5画素アレイが実現した。「周波数帯域」については、下限検出周波数は当初目標に若干及ばぬものの、NbNの超伝導ギャップ周波数に対応して1 THzを境に急峻な感度上昇を確認し、一方で高周波側では約9 THzに至る広帯域特性を実験的に明らかにした。「雑音等価電力」に関しては、黒体光源を用いたテラヘルツ光照射実験により、Spiral-MKIDの雑音等価電力は 1×10^(-13) W/√Hz (@3 K)という良好な値を観測した。「応答時間」については、黒体光源の直前に置いた光学チョッパーの回転周波数を変えてIQミキサの出力電圧を取得することにより、応答時間 80 μs を確認した。「動作温度」に関しては、無冷媒4He冷凍機を用いて平衡温度〜3 KでのSpiral-MKIDの安定動作を実現した。以上より、検出器性能に関する当初目標を概ね達成した。
(2)アレイ読み出しシステムの構築
 アレイ読み出しシステムの構築において、まず読み出し方法の検討を行った。今後の実用性に重点をおいた結果、周波数分割読み出し法を採用した。そのシステムには、MKID設計、作製グループとの綿密な議論を行い、25画素MKIDの周波数間隔やそれに伴う装置の帯域などの仕様を定めた。完成した読み出し回路は、当初定められた周波数コムがうまく出力されないなどの不具合が発生したが、ソフトの修正によりその問題は解決している。実際に作製した25画素のMKIDに対する読み出し動作試験では、25本の共振ピークの観測に成功した。しかしながら、読み出し回路以外で使用するミキサの帯域が装置の帯域より小さく、25画素を一度の測定で読み出せていない。広帯域ミキサまたはMKIDの設計変更により同時読み出しは可能であるため、当初目標を概ね達成したと言える。
(3)2次元フーリエ分光への適用
 参画機関とのこれまでの融合連携の集大成として、最適化した5×5画素MKIDアレイ、および各機関で個別に構築したシステム3群(テラヘルツ分光系、コンパクト冷却系、アレイ読出し系)を中核機関の豊橋技術科学大学に結集し、合同試験を実施した。また、計測制御ソフトウェア LabVIEW を駆使してネットワークアナライザからの多画素測定系を構築し、かつフーリエ変換分光器(FT-IR)のサンプル室に光学チョッパーを配置することで、液体窒素をテラヘルツ光源とする結像光学系を用いた25画素アレイのリアルタイムムービーの取得に成功した。さらに、FT-IR干渉室との組合せ試験により、数ミリ秒以内で複数画素のテラヘルツ同時分光を実現した。以上より、面分光測定に関する当初目標を概ね達成した。
V.評 価
 本課題はテラヘルツ分光法のさらなる展開を目指してSpiral-MKIDと自称する冷凍機冷却を前提とする小型テラヘルツ検出器のアレイの創製を目指した。当該検出器は完成したものの、最終的な性能は実用に供するには必ずしも十分ではない。また、冷凍機は市販品のため、開発した検出器と一体化するにはメーカーの協力や尚一層の工夫が必要と考える。テラヘルツ分光器自体も市販品の為、本装置のさらなる改良を必要とする。検出器という要素技術開発は成功したが、実用化を目指すにはさらに多くのメーカー(冷凍機メーカー、分光器メーカー)の協力が必要であり、次のステップに進むには尚一層の努力が必要であろう。更には目標としたテラヘルツ分光法の有用性を示し、当該分野を刺激する革新データの創出も併せて必要となろう。
 本開発は、当初の開発目標を達成したが、本事業の趣旨に相応しい成果は得られなかったと評価する[B]。