資料4

開発課題名「iPS細胞を用いた三次元心筋組織チップ自動作製装置の開発」

(平成25年度採択:ライフイノベーション領域 機器開発タイプ)

チームリーダー :  明石 満【大阪大学 大学院工学研究科 教授】
サブリーダー :  山口 高司【(株)リコー 先端技術研究センター 所長】
中核機関 :  大阪大学
参画機関 :  (株)リコー、大阪大学
T.開発の概要
 正常および疾患特異的iPS 細胞の創薬産業への応用を目指して、種々の三次元正常・疾患心筋組織を集約した「三次元心筋組織チップ」の自動作製装置を開発する。市販のマイクロウェルを活用でき汎用性に優れた本疾患特異的心筋組織チップは、様々な心疾患に対する新規薬剤の開発、既存薬剤の心筋への新たな薬効評価、疾患発症機構の解明など、ライフイノベーションへの貢献が期待される。また、安全性等の評価の世界基準となる三次元生体組織構築に繋がるものである。
U.中間評価における評価項目
(1)細胞集積法によるヒトiPS由来心筋細胞の三次元組織化
 ヒトiPS細胞由来心筋細胞表面へ約7 nmのフィブロネクチン-ゼラチンの交互積層(LbL)ナノ薄膜を形成することで、三次元組織化が可能であることを見出した。しかし、他のヒト細胞と比較して心筋細胞を用いた場合、ナノ薄膜形成後の回収率が極端に低く(数%〜40%以下)、遠心分離のダメージが生じることが課題であった。そこで、心筋細胞に最適な、遠心分離を用いない新たなLbLナノ薄膜形成法(フィルターLbL法)を考案した。従来の遠心分離法と比較して重力を700分の1に軽減し、60%〜80%と高い収率を達成することができた。本フィルターLbL法を用いることで1〜10層の心筋組織体を効率良く構築できた。本手法は心筋細胞以外の細胞への適用が可能な汎用性を有しているため、本研究開発の成果として特許出願を行った。
(2)インクジェットによる細胞吐出のための最適化
 細胞のサイズに最適なノズルサイズと細胞の沈降を抑えるための撹拌機能を有し、かつ細胞分散液が10〜30 ulと極少量でも充填、吐出可能な新規ヘッドを設計し、プロトタイプを開発した。また、細胞を安定に懸濁させるバイオインクを調製することで、1日後においても細胞を安定に懸濁させることに成功した。
(3)細胞集積法で構築した心筋組織体の薬剤応答性評価
 三次元多能性幹細胞由来心筋組織体の薬剤応答性および毒性を評価するための要素技術として、(1)特異的表面抗原を用いて磁気分取する方法および(2)心筋細胞とラミニンとの親和性を利用して分取する方法を評価し、有用であることを示した。
V.評 価
 種々の三次元正常・疾患心筋組織を集約した「三次元心筋組織チップ」の自動作製装置を開発するという極めて先端的な課題に挑戦し、着実に、ものによっては計画を上回る成果を挙げていることは非常に高く評価できる。臨床応用が可能で、実用性の高い技術開発が期待される。また、特許出願、論文発表も順調であり、当初計画に掲げていない項目での成果は、目標とする装置の性能向上につながる重要な技術になると思われる。今後は、装置を構成する各モジュールが自動で長時間安定動作するために必要な要件を明確にすることと、臨床研究や創薬事業での有用性を実証することに留意しながら、開発を積極的に推進すべきである。[S]