資料4

開発課題名「乳がん検査用複素誘電率分布計測技術」

(平成25年度採択:ライフイノベーション領域 要素技術タイプ)

チームリーダー :  吉川 公麿【広島大学 ナノデバイス・バイオ融合科学研究所 教授】
サブリーダー :  染井 潤一【シャープ(株) 電子デバイス事業本部 所長】
中核機関 :  広島大学
参画機関 :  シャープ(株)、広島大学、東京工業大学、呉工業高等専門学校
T.開発の概要
 腫瘍と正常組織では誘電率および導電率が異なることに着目し、電磁波が誘電率の異なる界面で反射する時間領域反射率計測の原理を利用することで、小型で携帯可能な非侵襲の乳がんスクリーニング装置の開発を行う。本装置の開発により、女性が定期的にセルフチェックすることが可能となり、乳がんの早期発見に貢献することが期待される。
U.中間評価における評価項目
(1)乳がん検査用時間領域反射率計測インパルス信号発生・処理回路およびアンテナアレーシステム開発
 中心周波数6 GHzのガウシアンモノサイクルパルスに対応できる平面開口アンテナを開発し、S11<-10 dBの帯域3.5-15 GHz(12.5 GHz)の目標を達成した。アンテナ利得はFriisの公式(S21)から-10〜-20 dB(3-14 GHz)であった。4行4列のマトリックス状に配置したアンテナアレープロトタイプ(サイズ11 mm x 13.1 mm)、アンテナの送受信を高速で制御する16x16 CMOSスイッチングマトリクス、170 psパルスを100 GS/sでデジタルサンプリングする等価時間サンプリング回路、パルス幅170 psの超高速ガウシアンモノサイクルパルスを発生させる送受信回路をそれぞれ開発した。
(2)乳がん検出事業化プロトタイプの基本構成検討
 上記の開発成果であるデバイス及び低損失CMOS16x16スイッチングマトリクスを設計・試作することに成功し、最終的に、開発したプロトタイプ機の性能を確認した。
(3)非腫瘍部乳腺組織、腫瘍組織の免疫組織化学的検討及び皮膚の性状が誘電率に与える影響の検討
 細胞核と間質を染色するヘマトキシリン・エオシン(HE)染色、血管内皮細胞、血小板、単球・マクロファージに発現が認められるCD31染色、リンパ管内皮細胞に反応するモノクローナル抗体D2-40染色を実施して、乳がん組織を分類(特徴抽出)した。これらについて、乳腺腫瘍の近接場電磁気学的計測による複素誘電率測定を実施した結果、乳がんのデータばらつきは乳腺間質組織中の腫瘍細胞の体積分率のばらつきに相関することを見いだした。また、健常人の皮膚における年齢、性別、部位(四肢、躯幹)、外用剤(白色ワセリン、ヘパリン類似物質)の有無について複素誘電率に与える影響を評価した結果、今後の開発に特段の影響を与える要因はないことを確認した。
V.評 価
 腫瘍と正常組織では誘電率および導電率が異なることに着目し、電磁波が誘電率の異なる界面で反射する時間領域反射率計測の原理を利用することで、小型で携帯可能な非侵襲の乳がんスクリーニング装置の開発を目指している。当初設定した目標をすべて達成し、開発は順調に進んでいる。今後は、測定出来る乳がんの大きさ(高感度化)、三次元位置測定の精度、死亡率に影響しない良性腫瘍とのパターンの違いの明確化及び高密度化によって、実現できる網羅的解析技術の優位性の確立に留意しながら、早期の実用化に向けた開発を着実に推進すべきである。[A]