資料4

開発課題名「分子構造指標を用いた生体関連分子の細胞内動態観察装置の開発」

(平成24年度採択:一般領域 機器開発タイプ)

チームリーダー :  三沢 和彦【東京農工大学 大学院工学研究院 教授】
サブリーダー :  林 真澄【ワイヤード(株) 営業技術代表取締役】
中核機関 :  東京農工大学
参画機関 :  ワイヤード(株)、東京医科歯科大学
T.開発の概要
 本課題では、従来可視化が困難であった、生体中の低分子化合物の局在分布と動態を、その場で分子構造を同定しながら画像化する「位相制御コヒーレントラマン顕微鏡」を開発する。従来技術に比べ、単一の光ビームを顕微鏡に導入するだけですむため、生命科学・医療分野への活用が期待される。実用研究のモデルケースとして、細胞の電気的興奮や神経伝達現象と、吸入麻酔薬分子の局在とを同時に観測することを目指す。本装置により、麻酔の分子薬理メカニズムを解明するための第一歩となる所見が期待される。
U.中間評価における評価項目
(1)位相変調装置のユニット化
 位相制御コヒーレントラマン顕微鏡の基幹技術である位相制御機構をオールインワン設計したユニット試作機を完成させた。位相変調性能として中間目標値を超える波数範囲200〜1800 cm-1、波数分解能21cm-1が得られており、最終目標値の実現に目処を付ける結果を得た。ユニット化により、単一の光ビームの導入だけで計測を実現し、設置後初回の測定開始前の調整時間を3時間以下に短縮し、連続2週間無調整を可能にした。
(2)位相制御コヒーレントラマン顕微鏡のユニット化
 位相変調装置ユニットを組み込んだ顕微鏡を用いて、麻酔薬液滴や脂肪細胞中の脂肪滴周辺の麻酔薬剤、マウス皮膚への有機溶剤浸透の可視化を行い、中間目標値を超える空間分解能X-Y面内1.7 μm、Z方向1.4 μmの画像を得た。
 検出感度を向上するための新しい手法を考案し、スペクトル測定時間の短縮と検出限界濃度の低下を実証した。
(3)興奮性細胞に吸入麻酔薬を与える影響の観察
 培養液の灌流ができ、加える麻酔薬の流量が0〜50 mL/minで制御でき、顕微鏡観察が可能な光路長100 μmの培養チャンバーを設計試作した。HeLa細胞が生存して複数回分裂できることを確認し、目標を達成した。
V.評 価
 コヒーレントラマン(CARS)顕微鏡をユーザーでもハンドリングできるように、光源を一体化し、オールインワンにしたことの先行性は高く評価できる。設定目標を達成しており、開発は順調に進捗している。生体中の低分子を計測するためには、空間分解能、感度の更なる向上が必要と考えられるが、オールインワンであるため難易度が高いことが予想される。一方、水に強いCARSの特徴を生かして生体試料の計測への応用が期待できるため、実試料への適用検討を早急に進めることが望まれる。今後も開発を着実に推進すべきである。[A]


前のページに戻る