チームリーダー : | 三好 憲雄【福井大学医学部 助教】 |
中核機関 : | 福井大学 |
参画機関 : | (株)第一科学 日本分光(株) |
- T.開発の概要
- 従来のがん臨床病理診断では、患者側が最終診断結果を得られるまでに日数を要し、また診断結果の定量性の点から客観性に欠けるという問題点がある。本開発では、極微量術中凍結切片組織の新鮮度を保持するセルホルダーを設計・開発し、顕微FT-IR分光法を用いて、がん組織内タンパク質の2次構造(αヘリックス/βシート)成分を抽出することにより、細胞を固定・染色することなく、組織の質的変化を従来の4倍の空間分解能で画像化することを目指す。これにより、検査時間を60分の1に短縮するスクリーニング装置を実現し、病理診断医師に信頼の置ける生検診断補助手段を提供することが期待される。
- U.中間評価における評価項目
- (1)鮮度保持セルホルダーの完成
- サンプル組織内の水分保持を確保する為の最適条件を検討し、厚み9mmの鮮度保持セルホルダーを開発して 4℃・湿度50−60%・100%−窒素ガスの条件を安定的に維持する環境を実現し、数値目標をほぼ達成した。
- (2)システム実装と試験運転
- カートリッジ方式を完成し、顕微システムのワーキング可能距離15mm内のストッパー設置と焦点照合を達成した。また、空間分解能6.25μmx6.25μm、計測スピード75×75=5,625ポイント 10分以内の計測を実現し、数値目標を上回った。
- (3)ソフト用の検量線 作成
- 高分化肺腺がん、中分化肺腺がん、低分化肺腺がん 計45例の症例サンプルを計測し、分化度と蛋白質2次構造成分(β/α)比の変化を調べた結果、統計的に意味のある相関が認められ、β/α比による迅速診断の可能性が示唆された。
- V.評 価
- 赤外分光法を用いた顕微スペクトロイメージングにより、がん組織の病理診断を高速に実施できる装置の開発である。 がん組織の病理診断を迅速に精度良く実施するために、凍結切片組織サンプルの鮮度保持が重要と考えられ、設定した仕様を満たす鮮度保持セルホルダーを完成させた。それを使った顕微FT-IR実装試験での空間分解能、計測スピード共に 数値目標を上回った。 今後は、医療施設の協力を得て がん組織による計測データを積み重ね、分化度とβ/αの相関を検証して 着実に開発を推進すべきである。[A]