資料4

開発課題名「コンパクト3テスラMRI装置の開発」

(平成20年度採択:機器開発プログラム(領域非特定型))

チームリーダー : 福山 秀直【京都大学大学院医学研究科附属・高次脳機能総合研究センター 教授】
中核機関 : 京都大学
参画機関 :  住友電気工業(株)
京都大学(理)
(独)物質・材料研究機構
(株)神戸製鋼所
高島製作所(株)
(株)アストロステージ
T.開発の概要
 人の脳研究を目指したMRI装置を開発する。このため、被験者が抵抗感を感じることのない座位で撮像可能な、非拘束型・静音設計・コンパクトサイズの3テスラMRI装置の開発を目指す。加えて液体ヘリウムに頼らない高温超伝導磁石を用いたMRI装置開発を試みる。本装置により、脳研究を通してより深い「こころ」の理解が可能となり、現在社会の抱える多くのこころの問題に対し、解決の糸口を提供しうることが期待される。
U.中間評価における評価項目
(1)静磁場マグネット
 Bi系高温超伝導線材(銅合金補強テープ)がコイル製作仕様を満足することを確認し、コイル製作に必要な 49km(単長 300m以上)を作製した。フープ応力の限界試験を小型試験コイルで実施。エポキシ塗り込み含浸方式で作製したコイルでフープ応力137 MPaまで安定運転可能なことを確認し、軸方向応力についても中型スプリットコイルにて限界試験を実施し,11.3MPaの軸方向応力下でも安定運転を確認した。 MRI装置用の仕様(中心磁場:3.0T,磁場均一度@φ250 mm×z200 mm楕円空間:<5ppm,運転温度:>20 K)を満たすコイルパラメータを導出できた。
(2)傾斜磁場コイル
 最大電流値100Aという設定値のもと、最大傾斜磁場強度20mT/mとなるよう、傾斜磁場コイル内の一次試作の電流パスを設計し、銅線やエッチングで作成した銅エレメント、銅製水冷パイプなどを所定の位置にエポキシ樹脂で固定し、一次試作コイルを完成させた。空間分布計測(最大傾斜磁場強度計測)に関しては、XYZステージに取り付けたホール素子を用いて直接磁場分布を計測し、時間変化計測(スルーレート計測)に関しては、ファンクションジェネレータで出力した矩形波をバイポーラー電源アンプで増幅して傾斜磁場コイルに流し、コイル内のピックアップコイルに生じた電圧変動から磁場変動を推定した。その結果、最大傾斜磁場強度は21mT/mであった。
(3)送受信コイル
 Birdcage型式のコイルを試作、計測評価共に完了。現在はTEM型式のコイルを試作中。
(4)スペクトロメータ
 スペクトロメータ1号機の開発は完了し、中核機関が現在所有している3テスラ全身用MRI装置のマグネットを用いてNMRスペクトルの取得が可能であることを確認した。
(5)システムソフトウェア
 DICOMデータベース、DICOMサーバ、DICOM通信送受信機能、DICOM印刷機能を開発した。コンソールシステムソフトウェアについては、画像を扱う部分とシーケンスを扱う部分とに分離したシステムソフトウェアを設計した。再構成計算は基本的にCPUを用いるが、開発が進めばGPUベースのものに変更し、Rawデータのフォーマットは、一度の撮影で得られたrawデータをヘッダ付きで時系列順に保存する形式とする。
V.評 価
 本課題の意義は、我が国で発明されたBi系高温超伝導線を用い、液体ヘリウムフリーのマグネットを用いたMRI装置を作ることにある。この高温超伝導マグネット・システムは世界初の技術開発であり、完成すればMRI以外への適用も可能であり、波及効果は大きいと考えられる。高温超伝導マグネットの基礎開発は既に参画機関によってなされているが、本MRI用3Tマグネットの製作は神戸製鋼所が担当し、ようやく設計仕様が決定した段階であり、早期の完成を期待したい。 一方、傾斜磁場、高周波回路、イメージングソフト等の周辺技術の開発は遅延ぎみであり、目標性能達成に向けた最大限の努力が必要であると判断される。 今後、超伝導マグネットの早期完成に注力し、その基礎データを積み重ねた上で、MRI画像を取得できるよう、効率的・効果的に開発を推進すべきである[B]。


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