事業成果
不可能と言われた技術に挑戦
青色発光ダイオードを実用化2017年度更新
ノーベル賞を受賞した未踏の領域
2014年のノーベル物理学賞は、高効率青色発光ダイオード(LED)を発明した赤﨑勇終身教授、天野浩教授、中村修二教授の3氏に贈られた。LEDは、1960年代に赤色や黄緑色が開発されたが、青色は実用化が困難で「20世紀中の実現は不可能」とさえ言われていた。そうした中、赤﨑教授、天野教授、中村教授は1980年代から90年代にかけ、世界中の研究者が諦めていた窒化ガリウム(GaN)の高品質単結晶化やp型化などに取り組み、青色LEDの開発・実用化に成功した。これは高輝度、省エネルギーの白色光源の実用化につながり、世界の省エネ化や配電設備を持たない人々への照明提供に貢献している。また照明のみならず、青色LEDは情報処理、交通、医療、農業といったさまざまな分野に広く応用されている。さらに、3氏が開発した窒化ガリウムの実用化技術は、今後電気自動車やスマートグリッド(次世代送電網)などの電力変換器に用いられるパワーデバイスなどへの応用も期待されている。
- 故 赤﨑 勇(名城大学 終身教授、名古屋大学 特別教授・名誉教授)(写真左)
- 豊田合成株式会社
- 独創的シーズ展開事業 委託開発「GaN青色発光ダイオードの製造技術」代表研究者・開発実施企業(S62-H2)
- 天野 浩(名古屋大学 教授)(写真右)
- エルシード株式会社
- 独創的シーズ展開事業 委託開発「LEDモスアイ構造製造技術」代表研究者・開発実施企業(H19-22)
委託開発による青色LEDの事業化
多くの研究者たちが高輝度青色LEDの実現は不可能という結論を出し、次々と撤退していくなか、赤﨑勇教授は窒化ガリウムにその可能性を見出した。1986年には教え子の天野 浩教授と共にMOVPE法(有機金属化合物気相成長法)により低温堆積した窒化アルミニウム(AlN)をバッファ層としてサファイア基板との格子定数などの相違を埋め、高品質な窒化ガリウムの単結晶を実現した。
1987年、新技術開発事業団(現:JST)の委託開発を利用し、豊田合成株式会社が赤﨑教授らと共に青色発光ダイオードの実用化を目指すことになった。そして赤﨑教授らは窒化ガリウムのpn接合の作成に成功し、世界で初めて窒化ガリウムを用いた青色LEDを実現した。
その後、このプロジェクトは成功し、1995年に青色LEDが事業化されている。JSTは開発費として5億5,000万円を同社に支出したが、実施料として、国家(JST)に約56億円の収入をもたらした(2013年時点)。企業の熱意と支援制度が優れた技術と融合し、不可能を可能にしたのである。
引継がれるLED開発
天野教授は現在も発光ダイオードの研究を進めており、さらなる効率化を目指している。現在は50%程度の発光効率を、限りなく100%に近づけ、さらに黄色発光ダイオードを開発することにより、人類がつくりうる究極の光源を開発するため日々研究を進めている。
「エルシード株式会社」はJSTの大学発ベンチャー創出事業「モノリシック型高出力高演色性大型白色LEDの開発」で2006年に設立されたベンチャー企業である。同社の上山智氏は赤﨑研究室の出身であり、天野教授の2年後輩にあたる。上山氏は天野教授の研究成果をもとに、委託開発テーマである「LEDモスアイ構造製造技術」にてLEDの光出力を大幅に向上する製造技術の開発に成功した。
赤﨑教授から始まったLED研究は、これからも若い研究者に引き継がれ、大きな実績を挙げていくことだろう。
- 中村 修二(カリフォルニア大学サンタバーバラ校 教授)
- ERATO
- 「中村不均一結晶プロジェクト」総括責任者(H13-18)
窒化ガリウム系デバイスのさらなる進展
高輝度の青色LEDは1993年に実用化されて以来、高効率化や低コスト化などを目指した研究・開発が進められていた。ERATO「中村不均一結晶プロジェクト」では、窒化物半導体が持つ特殊な性質「不均一性」に着目、詳しく調査するとともに、これを意図的に利用することでデバイスの性能向上を図ることを試みた。
従来の青色LEDの発光層に用いられている窒化インジウムガリウム(InGaN)は、構造上微小な電界が内部に発生するため、発光効率が低下してしまう。微小な電界が生じにくい方向に結晶を成長させることで、従来を上回る発光効率の青色LEDと青紫色レーザーダイオードを実現した。さらに、アンモニアを利用して結晶を作製するアンモノサーマル法を利用し、バルク(塊)の窒化ガリウム単結晶作成の突破口を開いた。併せて、窒化ガリウム青色LEDの発光メカニズム解明などを通して窒化ガリウム系材料の物理的理解を促進し、幅広いデバイス設計への新たな指針を与えた。
窒化インジウムガリウムの成長面