事業成果

インフラ構造物の効率的な維持管理に

下水道管の老朽化を推定するシミュレーション方法を開発2026年度更新

写真:貝戸 清之
貝戸 清之(大阪大学 大学院工学研究科 教授)
RISTEX
科学技術イノベーション政策のための科学
「科学的エビデンスに基づく社会インフラのマネジメント政策形成プロセスの研究」研究代表者(2019-2022)

統計モデルと空間マッピングにより下水道管渠の劣化状態を可視化

貝戸清之大阪大学大学院工学研究科教授らの研究グループは、下水道管渠(かんきょ)※1の劣化状態を予測し、効率的な改築更新計画策定を支援する新しい手法を開発した。

研究チームは、複数の統計モデルと空間マッピングモデルを用いて、部分的な調査結果データから管渠全体の劣化速度を推定することに成功した。さらに、健全性が低いと推定される管渠が密集する地域を視覚化し、改築更新が必要な地域を効率的に特定した。

※1 下水道管渠
下水道管の正式名称。

老朽化する下水道管渠の管理に課題

現在、日本では下水道管渠の老朽化が深刻な問題となっている。令和元年時点で、標準耐用年数である50年を経過した下水道管渠の割合は約5%程度であるが、10年後には約15%、20年後には約35%へと急速に増加すると予測されている。

しかし、下水道管渠は地中に埋められているため、管理対象全域におけるすべての下水道管渠を調査することは困難である。大阪市を例にとると、標準耐用年数50年を目安に1回目のTVカメラ調査を実施することを目標としているが、1964年以前に埋設された管渠の調査実施率は約90%に達している一方で、1970年以降に埋設された管渠の調査実施率は非常に低い。

このような状況において、一部の下水道管渠の調査データのみであっても、その調査データと地盤強度や管渠の構造といった情報を組み合わせることで、未調査の管渠も含めた管理地域全体の劣化状態を予測し、効率的な維持管理計画を立てる手法の開発が求められている。

高精度な下水道管渠劣化シミュレーション方法を開発

新たなシミュレーション方法の開発

本研究では、大阪市の下水道コンクリート管渠を対象に、部分的な調査データから全管渠の劣化予測を可能にする新たな方法論を見いだした。

研究グループは、まず調査実施済みの下水道管渠49,243スパン※2の調査データに対し、管渠の健全度が段階的に低下していく過程を確率的に表現する統計モデルを適用し、各管渠の劣化速度を推定した。このモデルは個々の管渠が持つ劣化速度の違いを考慮できる利点がある。その結果、管渠の平均寿命は約115.5年であるが、個々では50年以下から200年以上まで大きなばらつきがあることが判明した。また、近くの管渠同士は地盤条件や海岸からの距離などの環境が似ているため、劣化速度も類似する傾向があることがわかった。

次に、近くの管渠同士で劣化速度が類似する傾向と、管渠の属性情報(太さ、地盤、海岸からの距離)を組み合わせた予測モデルを構築し、調査未実施の65,807スパンを含む大阪市全域115,050スパンの管渠の健全度を予測した。その結果に密度分析手法を適用することで、劣化が進んだ管渠が密集する地域を地図上で視覚化し、優先的に改築更新すべき地域の特定が可能になった。

※2 スパン
マンホールとマンホールの間の管渠区間の単位。近接する2つのマンホールの間が1スパンである。

2070年までの下水道管渠の健全度シミュレーションが可能に

シミュレーション結果から、2020年から2040年にかけて海岸付近および淀川北部の管渠から劣化が進行し、その後2070年にかけて大阪市全域に劣化が拡大していくことが予測された(図1)。

また、本手法による劣化速度の推定精度を検証した結果、従来の方法と比較して最も高い精度を示し、有効性が実証された。劣化が進んだ管渠が密集している地域を地図上で適切に抽出できることから、改築更新工事を実施する際の優先地域の選定方法として有用であると考えられる。

これにより、調査データが部分的にしか得られていない場合でも、全管渠を対象とした劣化予測と効率的な維持管理計画の策定が可能となる。

図1

図1 大阪市全域の下水道管渠の健全度シミュレーション結果赤色は健全度が低い下水道管渠を示す。
(出典:土木学会論文集,Vol. 79,No.1,22-00111,2023)

持続可能なインフラ管理へ

本研究成果により、下水道管渠の効率的な維持管理計画の策定が可能になる。健全性が低い管渠が密集する地域を特定できるため、改築更新工事の集約化を図り、工事費用や工事に伴う道路規制の軽減が可能になる。さらに、この手法は下水道管渠だけでなく、他の地下埋設物やインフラ構造物の維持管理にも応用可能である。

今後のさらなる研究によって、調査未実施管渠に対する劣化速度の推定精度の向上やモデルの他のインフラ設備への適用が期待される。

キーワード
下水道管渠、劣化予測、健全度シミュレーション