事業成果
実用化を目指す認知症の早期発見技術
3分間の視線データだけで認知機能を検査する2026年度更新
- 武田 朱公(大阪大学 大学院医学系研究科 寄附講座准教授)
- 大学発新産業創出プログラム(START)
- プロジェクト支援型「視線検出技術を利用した簡易認知機能スクリーニングシステムの開発による社会システムの負荷軽減」研究代表者(2018-2019)
認知機能を視線で評価する新技術を開発
武田朱公大阪大学大学院医学系研究科寄附講座准教授らの研究グループは、視線の動きから認知機能を客観的に評価する新技術を開発した。また、その技術を社会実装するために大阪大学発ベンチャーとして「株式会社アイ・ブレインサイエンス」を設立した。本技術は、タブレット端末のカメラを利用した視線検出と独自の視線データ解析アルゴリズムを組み合わせて、約3分間の映像を眺めるだけで認知機能を数値化するものである。従来の問診式検査よりも簡便に検査を実施できることから、認知症の早期診断や地域健診、運転免許更新など多様な場面での利用が期待される。
認知症患者の増加と求められる簡便な検査方法
世界的に高齢化が進む中、認知症患者の増加が大きな社会問題となっている。現在の診断は、医師の問診による認知機能検査が中心である。しかし、問診は時間がかかること、患者に心理的負担が生じることなどが課題であった。また、日常生活の中で気軽に認知機能を確認できる手段が存在しなかったため、自身で認知機能の低下に気付くことは難しかった。
研究グループは、こうした課題に対し、視線という客観的な生体指標を用いて認知機能を評価できる技術の開発に取り組んだ。
視線データを解析して認知機能を測定、実用化を目指す
視線の動きだけで認知機能を評価する
研究グループは、タブレット端末で視線の動きを記録する視線検出技術※1を用い、その視線データから認知機能を推定する方法を開発した。この技術に、記憶や判断力などを評価するために作成された認知機能タスク映像※2を組み合わせ、視線データから認知機能を評価する仕組みを構築した。検査は、被検者がモニターの前で約3分間映像を眺めるだけで完了する(図1)。得られた視線パターンを独自のアルゴリズムで解析することで、従来の標準的な認知機能検査であるミニメンタルステート検査の結果と高い相関を示した(図2)。すなわち、本技術による検査が現在の検査を代替できる可能性があることが明らかとなった。
図1 新技術による認知機能検査のイメージ (「Nature誌 612巻7938号 2022年」より)
図2 新技術による検査結果は従来の認知機能検査のスコアと高い相関を示した
縦軸が新技術、横軸が従来のミニメンタルステート検査のスコアを示す(医療機器治験データ)。
(「Takami, et al. GeroScience 2025 DOI: 10.1007/s11357-025-01941-x」より)
検査は視覚的な情報のみが使用され、言語や難聴の影響を受けにくい。そのため、認知症診療だけでなく、国や言語を問わず世界的に活用できる可能性がある。また、短時間で検査は終わるため、高齢者でも負担が少なく、ストレスを感じにくい利点がある。
※1 視線検出技術
赤外線やセンサーを用いて、画面上の注視点を高精度に測定する技術。
※2 認知機能タスク映像
記憶・判断・注意・空間認知などを評価するための画像や動画を組み合わせた映像。
大学発ベンチャーで事業化を進める
研究グループは、JST「大学発新産業創出プログラム(START)プロジェクト支援型」の支援を受け、本技術の社会実装を目的としたベンチャー企業「株式会社アイ・ブレインサイエンス」を設立した。同社は、大阪府茨木市彩都を拠点に、プログラム医療機器および一般向け機器の開発を進めている。一般的な汎用タブレットに専用アプリをインストールするだけで検査が可能になり、医療機関でなくても簡便に認知機能を評価できる。同社は2023年にForbs Asiaの注目すべき新興企業100に選出された(日本からは3社選出)。
認知症を早期に発見できる社会へ
視線解析による認知機能の評価技術は、医療機関での診断補助だけでなく、自治体の健康診断、企業の定期健診、保険業界での認知機能リスク評価、高齢者の運転免許更新など、多様な場面での利用が期待される。また、言語に依存しないため国際標準として展開できる可能性もある。認知症は、早い段階で認知機能の低下に気づき、医療機関を利用することでその進行を遅らせられることが知られている。そのため、誰でも簡単に受けられる検査法が普及すれば、受診のきっかけをつくることができ、健康寿命を伸ばせる可能性が高まる。
本技術による認知機能検査アプリは、2023年にプログラム医療機器としての薬事承認を受け、2025年1月に認知症領域では日本初となる保険適用を受けるに至った。現在、大手製薬企業との連携のもと、全国の医療機関で保険診療の中で活用されている。さらには海外展開を積極的に推進しており、2025年時点で世界13ヶ国で海外特許を取得し、世界4ヶ国でプログラム医療機器としての薬事承認を受けている。認知症対策にブレークスルーをもたらす画期的技術として、国内外での活用が進んでいる。
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- 認知機能検査、視線検出、早期診断
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