事業成果
固体酸化物形燃料電池の普及へ
300℃で機能する高性能電解質材料を開発2026年度更新
- 山崎 仁丈(九州大学 エネルギー研究教育機構 教授)
- 革新的GX技術創出事業(GteX)
- 水素領域・「革新的材料による次世代燃料電池システムの構築」主たる共同研究者
(2023-2027/研究開発代表者:稲葉 稔(同志社大学 理工学部 教授))
300℃で高いプロトン伝導率を示す
山崎仁丈九州大学エネルギー研究教育機構教授らの研究グループは、300℃で機能する固体酸化物形燃料電池※1の電解質※2材料の開発に成功した。固体酸化物形燃料電池は、水素を燃料として発電し、発電時に二酸化炭素を排出しないため、次世代燃料電池として注目されている。
研究グループは、電解質材料であるスズ酸バリウムとチタン酸バリウムの金属元素部分の一部をスカンジウムへ高い濃度で置換し、300℃において0.01ジーメンス毎センチメートル以上のプロトン伝導率を世界で初めて達成した。プロトン伝導率は、物質中をプロトン(水素イオン)が移動する速さを表す指標で、この値が高いほど燃料電池の発電効率は高くなる。また、この電解質材料は高濃度の二酸化炭素下でも構造が安定しており、高い耐久性を示した。
※1 固体酸化物形燃料電池
水素などの燃料を酸化させることで電気を取り出す燃料電池。高い発電効率を持つ。
※2 電解質
イオンを通す性質を持つ物質で、燃料電池の内部でイオンの移動を可能にする。
コストが固体酸化物形燃料電池の普及を阻む
固体酸化物形燃料電池は高温で機能する
固体酸化物形燃料電池は、水素を燃料とし、発電時に二酸化炭素を排出しないという特徴がある。二酸化炭素排出量の削減に適した技術として注目されているが、現在実用化されているものは700℃から800℃という高温で機能するため、耐熱材料を用いて作られる。しかし、耐熱材料は高価であるため、材料コストの高さが固体酸化物形燃料電池の普及を妨げる障壁となっている。もし効率的に発電できる温度を300℃程度まで下げることができれば、より安価な材料を使用してコストダウンを図れるだけでなく、発電時間の短縮や熱管理の簡略化も期待できる。その結果、家庭用発電システムや車載用など、固体酸化物形燃料電池がこれまでよりも幅広く使用される可能性がある。
プロトン濃度とプロトントラップのジレンマ
固体酸化物形燃料電池を低温で機能させるには、低温下で高いプロトン伝導率を示す電解質材料が必要である。そこで、研究グループは400℃から600℃で高いプロトン伝導率を持つプロトン伝導性酸化物に着目した。
プロトン伝導率を飛躍的に高めるには、“プロトン濃度”と“移動のしやすさ”の2つを高めればよい。プロトン伝導性酸化物において、プロトン濃度は置換型添加元素の濃度に比例して増加する。置換型添加元素とは、原子が入れ替わる性質のある元素を指す。しかし、添加元素を増やすと「プロトントラップ」と呼ばれる現象が起こることが知られている。これは、置換した元素によってプロトンの移動が制限される現象で、特に300℃程度の低い温度域でプロトンの移動度が著しく低下する。この問題は1981年にプロトン伝導性酸化物が発見されて以来、解決されていなかった。
新しい電解質材料の開発に成功、八面体の連結が鍵
2種類の電解質材料が高い性能を示した
本研究では、プロトン伝導性酸化物であるスズ酸バリウムとチタン酸バリウムに対し、高濃度でスカンジウム(Sc)を置換した材料を用いてそのプロトン伝導率を評価した。その結果、固体酸化物形燃料電池の多結晶電解質材料として求められる「0.01ジーメンス毎センチメートル以上のプロトン伝導率」を300℃の中温において世界で初めて達成した(図1)。また、電解質は、発電時に二酸化炭素を含む環境にさらされても性能を維持できることが重要であるが、本材料は高濃度の二酸化炭素下でも機能が損なわれず、高い耐久性を示した。
図1 温度とプロトン伝導率2つの材料(水色、赤色のグラフ)は300℃でも高いプロトン伝導率を示した。
プロトン伝導率を高められた理由
今回の電解質材料が高いプロトン伝導率を実現できた理由は、主に2つあると考えられた。
1つ目は、スズ酸バリウムとチタン酸バリウムは、従来用いられてきたジルコニウム(Zr)を含む材料よりも「柔らかい」性質を持ち、スカンジウムを多く取り込めたことである。これにより、70%および80%という高い濃度でスカンジウムへ置換できた。
2つ目は、高濃度のスカンジウムを添加してもプロトンの移動度が低下しなかったことであり、すなわちプロトントラップを回避できたことである。研究グループは、この理由を明らかにするため、プロトンが移動する様子をシミュレーションした。通常、プロトンは酸素と隣接して存在しており、八面体構造の酸素の間をジャンプして移動する(図2左)。スカンジウムの八面体は連結して存在せず、孤立している八面体がプロトンを束縛し、高速移動を妨げる。しかし、スカンジウムを高濃度に置換すると八面体が連結し、この連結した経路に沿って高速にプロトンが移動できることが明らかになった(図2右)。
図2 プロトンが移動するイメージスカンジウムを高濃度にすると八面体が隣接して高速にプロトンが移動する。
これらの結果から、スカンジウムを高濃度に置換することは、プロトン濃度の向上だけでなく、移動度の低下を防ぐ上でも有効であることが示された。
水素エネルギー社会の実現へ大きな一歩
2種類の電解質材料は、300℃でも高いプロトン伝導率を示し、二酸化炭素へ高い耐性を持っていた。本研究で得られた知見を発展させることで、さらに低温で動作する電解質材料の開発も期待される。本成果は、水素を燃料とする燃料電池の実用化と多用途化を大きく加速させるものである。
- キーワード
- 固体酸化物形燃料電池、プロトントラップ、スカンジウム
- 参考URL
- プレスリリース(2025年8月8日)
300度で世界最高のプロトン伝導率を有する安定酸化物を開発~大型トラックなど固体酸化物形燃料電池の多用途化を推進~
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20250808-2/
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