事業成果
細胞を使わず巨大分子を人工的に構築する新技術
試験管内でリボソームの合成に成功、有用物質の開発に期待2026年度更新
- 青木 航(大阪大学 大学院工学研究科 教授)
- 創発的研究支援事業
- 「生命科学における還元的方法と構成的方法の統合による多様な生命現象の理解」(2021-2027)
リボソームを試験管内で合成、世界で初めて成功
青木航大阪大学大学院工学研究科教授らの研究グループは、細胞が持つタンパク質工場であるリボソームを遺伝子から試験管内で合成することに世界で初めて成功した。リボソームは約200種の分子が協調して作られる複雑な構造であり、人工的に試験管内で再現することは困難とされてきた。
研究グループは、「細胞内と同じ環境を試験管内に再現する」という方針のもと、必要な因子を適切な条件で組み合わせることで、遺伝子からリボソームを合成することに成功した。
なぜ人工リボソームを作ることが重要なのか
リボソームは、生物の細胞内に存在し、遺伝情報に従ってアミノ酸をつなげ、タンパク質を合成する。このリボソームを人工的に改変し、自然界に存在しない非天然モノマーを組み込めるようになれば、これまでにない機能を持った医薬品や有用な酵素を生み出すことができる可能性がある。
しかし、生物の細胞内にあるリボソームを改変しようとすると毒性が生じ、細胞が正常に働かなくなることがわかっている。一方、リボソーム以外の分子を改変し、リボソームに非天然モノマー※1を材料として使えるようにする研究も行われてきた。これまで、通常のリボソームが合成材料として用いない特殊なアミノ酸を10個程度合成することに成功している。しかしながら、非天然モノマーを効率よく重合するには、やはり最終的にリボソームそのものを改変する必要があった。
そこで研究グループは、細胞を使わずに試験管の中で人工的にリボソームを合成できれば、細胞毒性を気にせず自由にリボソームを改変できると考えた。
※1 非天然モノマー
生物が通常は利用しない化学構造をもつ分子。新しい性質をもつ分子を作る材料として期待されている。
細胞内の環境を試験管内で再現する
リボソームは複雑な過程を経て合成される
生物のリボソームは非常に複雑な過程を経て作られている。例えば、大腸菌のリボソームは3種のリボソーマルRNA※2と54種のタンパク質から構成され、さらに100種類近い補助タンパク質が機能することで合成される。単に材料があるだけではリボソームは作られない。それぞれの構成要素が決められた順番で結合し、段階ごとに構造を変化させながら組み立てられる。
この過程の複雑さが原因で、生体内のリボソームと同じ働きをする分子を人工的に生み出すことは困難であった。
※2 リボソーマルRNA
リボソームを構成するRNA。タンパク質を作る反応に関わる。
細胞内の環境を作る
研究グループは、「細胞の中と同じ環境を試験管で再現すればリボソームを作れる」と考えた。
まず大腸菌を破砕してS150破砕液を得た。この溶液にはリボソームの形成に必要な多くの補助タンパク質を含むと考えられた。さらに、生体に多く存在する低分子化合物を加え、生物の細胞内に近い環境を再現した。次に、そこへ天然リボソーム、RNAポリメラーゼ(RNA合成酵素)、リボソーマルRNA遺伝子、54種のリボソームタンパク質遺伝子を加えた(図1)。
図1 試験管内でのリボソーム合成
研究グループは、反応条件を何度も最適化した結果、試験管内で遺伝子からリボソームを合成することに成功した。本成果は、世界で初めて完全に人工的な環境でリボソームを合成した事例である。
リボソームの理解、そして有用物質の合成へ
リボソームは、私たちの体内に存在するアミノ酸を合成に使用する一方、非天然モノマーは合成材料としてほぼ使用しないことがわかっている。なぜこのような違いがあるのか、その根本的な疑問は解明されていなかった。今回の人工リボソーム構築の成功によって、これまで難しかったリボソームの改変や評価が可能となり、リボソームの仕組みの理解に大きく貢献する可能性がある(図2)。
人工リボソームを設計し、非天然モノマーを効率よく重合できるようになれば、体内に吸収されやすく、飲み薬として利用できる優れた医薬品や、分解されにくく安定性の高い産業用酵素、環境負荷の少ないバイオプラスチックなどの開発が期待される。特に、D-アミノ酸を効率よく扱えるようになれば、従来にはない反応を担う酵素や、高い分解耐性をもつ医薬品の創出へと一歩近づく。
図2 人工リボソームの可能性
- キーワード
- リボソーム生合成、試験管内再構成、人工リボソーム
- 参考URL
- 大阪大学プレスリリース(2025年1月24日)
リボソーム生合成の試験管内再構成に成功 細胞内のタンパク質合成工場を試験管で再現
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2025/20250124_1
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