事業成果
二酸化炭素排出量の大幅削減に期待
従来の常識を覆す「低温・低圧での高速アンモニア合成法」を開発2026年度更新
- 北野 政明(東京科学大学 総合研究院 元素戦略MDX研究センター 教授)
- 創発的研究支援事業
- 「ヘテロアニオンサイトを反応場とする新規固体触媒の創出」(2022-2028)
環境負荷の少ない高性能アンモニア合成触媒を開発
北野政明東京科学大学総合研究院元素戦略MDX研究センター教授らの研究グループは、地球上に豊富に存在するケイ酸塩化合物を出発材料とし、これまで常識とされてきた遷移金属に依存しない新しいアンモニア合成触媒を開発した。触媒とは、化学反応では消費されず、反応効率を高める目的で使用される物質である。
研究グループは、ケイ酸バリウム(Ba3SiO5)の結晶中の酸素の一部を、ヒドリドイオン(H-)※1や窒化物イオン(N3-)に置き換えた触媒を合成した。この触媒では、反応中に置き換えたイオンが結晶中から脱離することでアニオン欠陥※2が形成され、この欠陥に捕捉された電子が窒素分子を効率よく活性化した。その結果、既存のルテニウム触媒を大きく上回るアンモニア合成速度を示した。
※1 ヒドリドイオン
電子を1つ受け取って負の電荷をもった水素原子。
※2 アニオン欠陥
陰イオンが結晶中から欠けている状態。陰イオンが抜けることで、その周囲に電子が残りやすくなる。
脱炭素社会に向けた従来のアンモニア合成法の問題
二酸化炭素を大量に排出する従来法
アンモニア(NH3)は、肥料や化学製品の原料として不可欠な物質である。近年では、水素(H2)を高密度に含むことから水素キャリアとしても注目されている。水素キャリアとは、水素を別の物質に変えて安全に貯蔵・輸送するための物質である。
現在の工業用アンモニアは、高温・高圧を必要とするハーバー・ボッシュ法で合成されている。この方法は化石燃料と触媒を反応させて生じた水素を使用するため、副産物として大量の二酸化炭素が生じてしまう。環境保護の観点から、再生可能エネルギー由来の水素を用いた「グリーンアンモニア」合成を実現するためには、低温・低圧条件で機能し、かつ効率よくアンモニアを合成できる触媒の開発が求められている。
遷移金属を含む触媒がこれまでの常識
これまで、アンモニア合成の触媒といえば遷移金属※3を含む触媒であった。アンモニアの原料となる窒素分子は、遷移元素との結合が非常に強く、窒素分子を効率よく活性化できるからである。他方、遷移金属を含まない材料では、窒素を活性化できないと考えられていた。
※3 遷移金属
化学反応を進みやすくする金属。分子に電子を与えたり受け取ったりしやすいため、反応しにくい分子を反応しやすい状態に変えられる。
電子が窒素を活性化する新しいアンモニア合成法
優れたアンモニア合成速度を持つ化合物
研究グループは、ケイ酸バリウム(Ba3SiO5)の酸素部分にヒドリドイオン(H-)と窒化物イオン(N3-)を高濃度に導入した混合アニオン化合物「Ba3SiO5-xNyHz」を合成した(図1)。この化合物は、100時間以上安定してアンモニアを合成し続けるだけでなく、酸化マグネシウムに担持したルテニウム触媒などの従来型遷移金属触媒よりも、低温で10倍以上のアンモニア合成速度を示した。
図1 Ba3SiO5-xNyHzの結晶構造ケイ酸バリウム(Ba3SiO5)に水素(H)と窒素(N)が導入されている。
電子を捕捉する触媒
この化合物は、アンモニアを合成する温度において、ヒドリドイオン(H-)と窒化物イオン(N3-)が脱離しやすく、その結果としてアンモニアを生成してアニオン欠陥が形成される(図2右)。このアニオン欠陥に電子が捕捉され、化合物全体が電子を多く含む状態になる。窒素と水素の存在下で加熱すると、これら電子が水素分子と窒素分子を活性化し、水素と窒素が再び化合物に取り込まれ、元の構造に回復する(図2左)。
このように、本化合物は構造を変化させながら、連続的にアンモニア合成反応を進行させる触媒として機能していることがわかった。
図2 アンモニア合成の仕組みアニオン欠陥形成(右)と格子H、Nの再生(左)を繰り返しながらアンモニア(NH3)を生成し続ける。
青い球が窒素原子、白い球が水素原子を示す。
従来よりも低圧・低温での合成が可能に
研究グループは、Ba3SiO5-xNyHzの表面にルテニウムの小さな粒子を付けることで、アンモニア合成速度を最大100倍以上に向上させた。このとき、ルテニウムは活性点として機能せず、アニオン欠陥の形成を促進することで反応性が著しく向上することが明らかとなった。その結果、300度・1.0メガパスカルという従来よりも低温・低圧な条件でも、これまで報告された中で最高レベルのアンモニア合成速度を得られた。
次世代の触媒設計の基盤技術へ
本研究成果は、アンモニア合成触媒において、遷移金属が必須という従来の常識を覆すものである。地球上に豊富に存在するケイ素酸化物を基盤とし、アニオン欠陥に捕捉された電子を合成に利用するという新しい触媒設計を示した。これにより、これまで触媒候補とされてこなかった元素の組み合わせが、今後の材料探索の対象となる可能性がある。今後、グリーンアンモニア合成の実用化を加速させる基盤技術となることが期待される。
- キーワード
- アンモニア合成、遷移金属フリー触媒、アニオン欠陥
- 参考URL
- プレスリリース(2025年2月17日)
ありふれたケイ素の酸化物から優れたアンモニア合成触媒を開発~アニオン欠陥で生成した電子が窒素を効率良く活性化~
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20250217/
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