事業成果
新たな病態理解への道を示す
有害な修飾ヌクレオシドから体を守る仕組みを解明2026年度更新
- 小川 亜希子(東北大学 大学院薬学研究科 准教授)
- 創発的研究支援事業
- 「エピトランスクリプトームが開拓する新しい眼内病態生理学」(2023-2029)
- 本成果の論文は、創発的研究支援事業「RNA修飾が創発する生命原理の理解と応用」(2020-2026)魏 范研(東北大学 加齢医学研究所 教授)との共著です。
毒性をもつ修飾ヌクレオシドを無毒化する仕組みを特定
遺伝子の情報からタンパク質を作るRNAは、体内でさまざまな化学修飾を受けて存在し、その機能や仕組みの研究が進められている。一方、そのRNAが分解されると修飾ヌクレオシド※1が生じることは知られていたが、修飾ヌクレオシドの機能や代謝過程は不明であった。
本研究では、3種の修飾ヌクレオシドが細胞に対して毒性を持つこと、そして2つの酵素によってそれらは段階的に処理されながら、最終的に無毒化されることがわかった。また、この代謝が機能しなくなると、糖や脂質の代謝に異常が生じ、細胞内の器官が働かなくなることが明らかになった。この代謝経路は多くの生物種で共通して存在し、哺乳類では糖や脂質の代謝に深く関連している可能性がある。
※1 ヌクレオシド
ヌクレオシドはRNAを構成する材料の1つで、糖と塩基が結びついた化合物。メチル化やアセチル化など化学的に修飾される。
修飾ヌクレオシドの機能解明は不十分
RNAの化学修飾は150種以上存在することがわかっている。RNA修飾はRNAの機能や安定性に関与するが、RNAが分解・代謝された後に残る修飾ヌクレオシドの機能は十分には解明されていなかった。本研究グループは、これまでの研究で血清や尿から修飾ヌクレオシドを網羅的に検出する手法を確立し、体内に多様な修飾ヌクレオシドが存在することを明らかにしており、一部の修飾ヌクレオシドは免疫応答を誘導する機能を有していたことから、修飾ヌクレオシドは単なる最終代謝産物ではないと考えられた。しかしながら、ほとんどの修飾ヌクレオシドの機能は不明のままであった。
毒性のある修飾ヌクレオシドとその代謝経路を特定
3種類の修飾ヌクレオシドを無毒化する
研究グループは、まず多種類の修飾ヌクレオシドをヒトの培養細胞に投与し、細胞増殖や生存に与える影響を比較した。その結果、m6A(N6-methyladenosine)、m6,6A(N6, N6-dimethyladenosine)、i6A(N6-isopentenyladenosine)の3種類の修飾ヌクレオシドのみが細胞培養条件や細胞種に関わらず毒性を示した。
次に、修飾ヌクレオシドの培地中での安定性を調べると、ほとんどの修飾ヌクレオシドは安定して培地中に存在したのに対し、それら3種類のみが短時間で消失した。このことから、細胞内にm6A、m6,6A、i6Aを分解する代謝経路が存在すると考えられた。
代謝に着目して解析を進めた結果、第一段階でアデノシンキナーゼ(ADK)が3種のヌクレオシドをリン酸化してm6AMP、m6,6AMP、i6AMPへと変化させることを特定した。さらに、第二段階としてそれらをadenosine deaminase-like(ADAL)が脱アミノ化※2することでイノシンモノリン酸(IMP)へ変換し、その後は既知のプリン代謝経路で処理されることが明らかになった(図1)。
※2 脱アミノ化
分子からアミノ基が取り除かれる反応。遺伝子の働きを調節する仕組みの1つ。
図1 代謝の流れ どちらの代謝もアデノシン(ヌクレオシド)がIMPへ分解される。
ADALの欠損は糖と脂質の代謝異常を引き起こす
これまでの研究でADKの機能は報告されていたが、ADALについては不明な点が多かった。そこで、ADALを持たないマウスを作成したところ、血糖値を正常に保てない糖代謝異常であることがわかった。これは、代謝の途中段階であるm6AMP、m6,6AMP、i6AMPの蓄積により、体内のエネルギー状態を感知するAMP-activated protein kinase(AMPK)※3の働きが低下していることが原因と考えられた(図2右)。
また、ADKを持たないマウスの肝臓では、脂質代謝に関わる遺伝子の発現が大きく低下していた。細胞内の脂質代謝に関わる器官の1つであるリソソームを解析すると、毒性のある修飾ヌクレオシドm6A、m6,6A、i6Aがリソソームの機能異常を引き起こしていた(図2左)。さらにリソソームを安定させる化合物を投与すると、細胞死が抑制されたことから、細胞死の原因がオルガネラ傷害であることがわかった。
本研究において、小川亜希子准教授は、RNA修飾の代謝物として生体内に存在する修飾ヌクレオシドに毒性を有するものが存在することを発見し、それらを解毒する経路を実証した。魏范研教授はRNA修飾と疾患関連研究のパイオニアであり、その知見を踏まえて、修飾ヌクレオシド代謝に関する新たなメカニズムを報告した。
※3 AMP-activated protein
kinase(AMPK)
エネルギーが不足すると自動的に活性化し、エネルギー消費を抑えたり、エネルギーを作る反応をしたりする。
図2 修飾ヌクレオシドが示す毒性
修飾ヌクレオシドと疾患の関連性の解明へ
本研究は、毒性をもつ修飾ヌクレオシドが特殊な代謝経路で無毒化されること、この経路が機能しなくなると糖代謝異常や脂質代謝障害が生じうることを示した。すなわち、特定した代謝経路は生体の防御機構であることがわかった。修飾ヌクレオシドに起因する新たな病態が明らかになったことで、今後、修飾ヌクレオシドと疾患発症 の関連性について、より深い理解が進むことが期待される。
- キーワード
- RNA修飾、代謝、修飾ヌクレオシド
- 参考URL
- プレスリリース(2025年8月21日)
RNA修飾代謝による生体防御機構を解明~有害な修飾ヌクレオシドから体を守る仕組み~
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20250821-2/
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