事業成果
神経変性疾患に共通する発症メカニズムの可能性
パーキンソン病を引き起こすαシヌクレインの凝集の仕組みを解明2026年度更新
- 塩田 倫史(熊本大学 発生医学研究所 教授)
- 創発的研究支援事業
- 「パーキンソン病などのシヌクレイノパチーにおける病態機序を解明-G4を標的に神経変性を「未病」で防ぐ-」(2021-2027)
G4がαシヌクレインの凝集の足場に、創薬への応用も
脳内にシヌクレインというタンパク質が過剰に蓄積して発症する神経変性疾患は、総称してシヌクレイノパチーと呼ばれる。例えば、手足のふるえや動作の遅れが生じるパーキンソン病がよく知られている。αシヌクレイン※1の凝集がパーキンソン病の原因の1つと考えられているが、その凝集が起こる仕組みは明らかにされていなかった。
本研究は、RNAの高次構造※2であるグアニン四重鎖(以下G4, 図1)の集積体が足場となってαシヌクレインの凝集が進むことを明らかにした。パーキンソン病患者の脳では、αシヌクレイン凝集体のほとんどにG4が共存しており、シヌクレイノパチーモデルマウスでG4の集積を抑制すると、αシヌクレインの凝集とそれに続く運動機能低下の進行を大幅に抑えられた。
図1 グアニン四重鎖(G4)の構造
これらの結果から、G4の集積体はαシヌクレインの凝集の起点となり、G4の集積を抑制することによって病態の進行を抑えられることが示された。また、G4の集積は、パーキンソン病とは異なる遺伝性の神経変性にも関与していることが報告されている。
※1 αシヌクレイン
神経終末に多い小型タンパク質。凝集すると神経細胞障害を引き起こす。
※2 RNAの高次構造
RNAが折りたたまれて形成される立体的な構造。構造によって機能が変化する。
なぜαシヌクレインは凝集するのか
高齢化が進む中、神経変性疾患の患者数が年々増え、社会問題の1つとなっている。パーキンソン病やレビー小体型認知症などのシヌクレイノパチーと呼ばれる神経変性疾患は、αシヌクレインというタンパク質が細胞内に凝集することで引き起こされる。しかし、通常は凝集しないαシヌクレインが、どのような仕組みで凝集するのかは明らかにされていなかった。この仕組みを解明し、αシヌクレインの凝集を防止できれば疾患の発症リスクを低減できる可能性がある。
G4がαシヌクレインの凝集を引き起こす
研究グループは、αシヌクレインがRNAの高次構造であるG4と強く結合することを発見し、G4がαシヌクレイン凝集体の足場として機能していることを明らかにした。さらに、パーキンソン病患者の脳を病理学的に解析したところ、観察されたαシヌクレイン凝集体の約90%にG4が集積していた。G4がαシヌクレインの凝集の原因になり得るか調べるため、シヌクレイノパチーモデルマウスを作成して脳内でG4を人為的に増加させた。その結果、細胞内のαシヌクレインがG4上で凝集体を形成し、神経変性と運動障害が誘発された。一方、G4の集積を抑える作用をもつ5-アミノレブリン酸をモデルマウスへ経口投与すると、αシヌクレインの凝集が減少し、進行性の運動機能低下も抑えられた。
これらの結果から、少なくともG4の集積はαシヌクレインの凝集の原因の1つになることがわかった。また、G4の集積は、細胞ストレスによる細胞内カルシウム濃度の上昇によって引き起こされる。すなわち、本研究成果からαシヌクレインは以下の仕組みで凝集することが明らかになった(図2)。
図2 G4の集積によってαシヌクレインが凝集する仕組み
神経変性疾患の医薬品開発へ
本研究により、RNAの高次構造であるG4の集積がαシヌクレインを凝集させることが示された。また、過剰なG4 の集積を抑えることで、α シヌクレインの凝集と運動機能低下を防止できた。研究グループは、これまでにアルツハイマー病に関わるタウタンパク質もG4 によって凝集することを報告している。これらの知見を踏まえると、G4 の集積は特定の疾患に限られた現象ではなく、複数の神経変性疾患に共通して関与する可能性が高い。
G4の集積を抑制する医薬品を開発できれば、シヌクレイノパチーを含む神経変性疾患全般において、症状が現れる前の段階で病態進行を抑えられる可能性がある。
- キーワード
- パーキンソン病、αシヌクレイン、グアニン四重鎖
- 参考URL
- 熊本大学プレスリリース(2024年10月21日)
パーキンソン病などのシヌクレイノパチーにおける病態機序を解明-G4を標的に神経変性を「未病」で防ぐ-
https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei-sentankenkyu/20241021
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