事業成果

血管は単に血液の通り道ではない

血流を感知して造血幹細胞を維持する2026年度更新

写真:古橋 和拡
古橋 和拡(名古屋大学 医学部附属病院 腎臓内科 講師)
創発的研究支援事業
「生体がもつ巧妙な炎症制御機構の解明から治療応用へ」(2021-2027)

造血幹細胞の機能を制御する新たな仕組みを発見

古橋和拡名古屋大学医学部附属病院腎臓内科講師らの研究グループは、骨髄の中でもヘアピン状の毛細血管部分に存在する「NO(一酸化窒素)高発現造血幹細胞(NOhiHSC)」が、休眠状態を保ちながら免疫細胞の攻撃を回避する一方で、移植時には高い再生力を長期間示すことを明らかにした。また、骨髄の3次元イメージングにより、NOhiHSC が主に存在するヘアピン状の毛細血管内皮細胞は免疫制御分子CD200を高発現し、このCD200はシアストレスセンサーである一次繊毛刺激を介して発現調整されていることを世界で初めて示した。CD200が高発現する血管内皮がNOhiHSCの機能を維持する場を形成していると考えられた。

これらの成果により、血管は単に血液の通り道ではなく、血流という流体刺激を効率的に利用して幹細胞を適切に維持する環境を作る役割があることがわかった。再生医療や免疫抑制法への応用が期待される。

造血幹細胞の場所と免疫特権の謎

造血幹細胞は、赤血球や白血球などすべての血液細胞を生み出す細胞であり、骨髄の中に存在していることは古くから知られている。しかし、骨髄は海綿状の複雑な構造を持っており、そのどの部分に造血幹細胞が存在するのか統一した見解は得られていなかった。

さらに、造血幹細胞は免疫細胞からの排除を受けにくいという特徴がある。これは「免疫特権」と呼ばれる場所に、造血幹細胞が長期間にわたって保護され、必要なときに血液を再生できる理由の1つとされている。しかし、免疫細胞から攻撃されない理由、免疫細胞による幹細胞への非免疫学的作用、そしてそれを可能にしている具体的な仕組みは不明であった。

NOhiHSCの発見と造血幹細胞を適切に維持する仕組み

ヘアピン状の毛細血管部分にNOhiHSCが存在する

研究グループは、移植適合性のない同種異系マウスに造血幹細胞を移植した際、一部の造血幹細胞が拒絶反応を示さず骨髄の中で生き残ることに着目した。生存する造血幹細胞が多い領域を調べたところ、骨の末端部に多いヘアピン状の毛細血管部分であることがわかった(図1)。

図1 移植した造血幹細胞

図1 移植した造血幹細胞 移植に適合しない造血幹細胞(黄色)が骨髄内のヘアピンカーブ状の毛細血管部分で生存していた。

この血管は強いシアストレス※1がかかる場所であると考えられ、そこに存在する造血幹細胞は NO(一酸化窒素) を多く発現していたことから、研究グループはこの細胞を NOhiHSC と命名した。

※1 シアストレス
流れる液体が細胞や組織をこするようにして加える力。

NOhiHSCは高い再生能力を持つ

NOhiHSCは造血幹細胞全体の10〜15%を占め、CD39やPD-L1など免疫制御に関わる分子とCD200が結合するレセプター(CD200R)を高発現していることが明らかとなった。さらに、NOhiHSCは普段は休眠状態で免疫細胞からの攻撃を回避しているが、移植をすると長期間にわたり血液細胞を再生する働きがあることがわかった。

血管内皮という場が造血幹細胞を維持する

ヘアピン状の毛細血管は、骨の末端部分に多く存在し、CD200を特に高発現し、このCD200陽性血管はシアストレスを感知する一次繊毛を発現していた(図2)。

図2 CD200高発現血管の場所(左)とシアストレスのセンサーの役割を持つ一次繊毛(右)

図2 CD200高発現血管の場所(左)とシアストレスのセンサーの役割を持つ一次繊毛(右) CD200高発現血管(紫)は、NOhiHSCと同じように骨の末端部分に多く分布していた(左)、CD200高発現血管は一次繊毛を発現している(右)。

一方、一次繊毛またはCD200が欠損したマウス血管内皮を調べたところ、NOhiHSC の性質が維持されないことが示された。これらの結果から、一次繊毛がシアストレスを受け、血管にCD200の発現を誘導する。そして、それら血管がCD200を介してNOhiHSCのNO発現と幹細胞としての性質を維持していると考えられる。

再生医療、がん幹細胞、免疫制御研究へ

本研究は、血流が生み出すシアストレスが、造血幹細胞の維持に適した場を形成し、幹細胞の休眠と再生を制御していることを示した。この成果は、造血幹細胞だけでなく、さまざまな幹細胞に応用可能であり、血管周囲の環境を操作することで組織再生を促す新しい治療法が期待される。また、がん組織の血管近くに存在するがん幹細胞が知られており、本研究で示された仕組みは、がん幹細胞を標的とした治療法の開発にもつながる可能性がある。さらに、シアストレスを強く受ける血管で免疫制御分子が高発現するという知見は、炎症制御や健康な組織を保つ新たな薬剤開発にも寄与すると考えられる。

キーワード
造血幹細胞、免疫特権、シアストレス
参考URL
プレスリリース(2025年1月7日)
血液の流れが幹細胞を制御する~流体力学的刺激が造血幹細胞を休眠・保護することを解明~
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20250107/